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祖父の想いで

それは夢だと解っていた。
家の中は橙色の裸電球でも暗く、まるで停電の蝋燭のような儚い灯りの中にいた。なのに、奥の襖を開けると途端に明るく、日が照っていて眩しいくらいの夏が覗いた。
一歩前に出ればそこは外で、さっきまでの陰鬱な屋敷内が嘘のようで、それが夢なのだと解った。壁を透かして見ているような、そんな映像が目の前に、とにかく眩しく、照明を間違えて調節したような、目を開けていられないくらいの光で、慣れると見慣れた家の外の景色だった。

気づくと、上の方から人だかりが談笑しながら降りてくる。
思わず声を掛けていた。亡くなった祖父だった。
するとその人だかりの中から「姉貴」と呼ぶ声がする。それを見て祖父が叱責する。
バツが悪そうに肩をすくめるその人は、私を「姉貴」と呼びながらも、私よりも全然年上の、おじさんの風情をしていて、誰かは解らないのに、でも「姉貴」と呼ばれることに違和感はなかった。
「おまえはここに来ちゃいけない」
祖父は厳しい顔で私にいい、早く元の部屋に戻れという。
わけが解らなくても、なぜかそれには従わねばならないと思い、うしろに一歩戻ると、また暗闇に逆戻りしていた。

目が覚めて、今のはなんだったのかと考える。久しぶりに母の実家を訪れ、妙な夢を見たと思うだけだった。転寝でもしていたのだろうか、それともこれは白昼夢。
私は母に夢の話をし、同時に私を「姉貴」と呼んだ人物が誰か解った。数年前、自ら自分の余命を決めた5つ下の従兄弟だった。
「こっちに来るな」と言われた、あの明るい日差しの中は、いったいどこだったのか…。

目が覚めた。心臓がドキドキしている。
慌てて辺りを見回すと、引っ越し間もない新居のベッドの上だった。
夢の中で、夢を見ていた…?
今の私は自分の実家にすら住んでいない。
眩い光の中のあの人たちは、見たことはなくとも、確かに皆、知っている顔ぶれだった。そう皆、墓標に刻まれている人たちばかりだった。



*こちらは、伊藤 緑さん企画の「原稿用紙二枚分の感覚」に参加させていただいた作品です

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