見出し画像

連載『あの頃を思い出す』

    3. いくつかの片想い・・・11

「はなちゃんのぱぱね、かっこいんだよ。ままごのみなんだって」
 ちゃっかりと食事の済んだ瀬谷の膝に座り込む一花(いちはな)。見上げる顔は絵本でも読んでもらうかのような楽しげな表情だ。尚季(ひさき)の日頃の子どもたちに対する生活が伺える。
「こらこら…余計な事はいわなくていいの」
「やっぱり面食いなんだ」
 と、こちらも違った意味で楽しげなありさ。
「どう、かな」
 言いながら尚季の目は瀬谷に向けられる。
「瀬谷さんだって色男じゃないですか」
 この場にありさがいたのは正解だったかもしれない、と、瀬谷も尚季も思うのだった。ありさぬきでの話しならこうはスムーズに行かなかっただろうし、きっと笑みさえなかっただろう。
「どんな人だった?」
 ありさの言葉に少しは和んだのか、瀬谷もいまでは普段通りの面持ちで一花に向かって尋ねた。
「普通の人よ」
 改めて聞かれると妙に照れ臭いものだが、多くを語りたくない尚季はそれしか言いようがなかった。
「またそんな。具体的に、優しいとか、背が高いとか、誰に似てるとか」
 一番聞きたかったありさは遠慮がない。
「優しくて、背が高い」
「ヒサキさ~ん」
「ホントに。優しい人だったの、背も高かった。あとなんていっていいかわかんない」
 尚季はなるべく瀬谷ではなくありさに向かって話すよう心掛けた。
 今現在自分に思いを寄せてくる相手に、昔の恋人の話をするのはやはり気が引ける。たとえそれが亡くなっている相手だったとしても自慢する話しでもない。想い出は輝いて見えるものだ。
 瀬谷も勤めて口を出さなかった。
「なにしてた人なんですか?」
「水道の配管工見習い。いつか自分で会社開くって張り切ってた」
「へぇすごいですね、若いのに」
「当時は20歳だったし…そういう大きなこと言う年頃でしょ。ありさちゃんの彼だって、バイク屋さんやりたいって言ってるじゃない。男の人ってそういうこと、一度は考えるんじゃないの?」
「どうだか。いまいち現実味がなくて」
 眠い目をこする一葉(いちよう)を自分の膝の上に乗せるありさ。
「名前なんて言いました?」
「…ツジ・ハルヒ。春の陽射しって書くの」
「あーそれで、葉っぱに花、ですか。なかなか凝ってますよねー」
 交互に双子を見る。
「なんでふたりとも『一』ってついてるんですか?」
 おもむろに瀬谷が、ずっと気になっていたといった。
「あぁ、それ。子どもが生まれると、我が子が一番って思うのは誰しも同じだと思うんだけれど…双子って解った時にわたし、パニックになっちゃって」
「パニック…」
「最初に生まれた子も一番だけど、次の子は?って、兄弟に優劣はないけど、この子は一番だけど、この子は?ってなっちゃって…」
「なるほど」
「わたしにとっては、ふたりとも一番だったから…単純だけど」
「すてきじゃないですか!」
 妙に目を輝かせるありさだった。

いつもお読みいただきありがとうございます とにかく今は、やり遂げることを目標にしています ご意見、ご感想などいただけましたら幸いです