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恋愛体質:entrance

『 街コン 』

4.contact

街コンから数日、雅水まさみはせっせとLINEのチェックを欠かさず、返信のタイミングを窺いながら駆け引きをしていた。
「あたし。どうも現役大学生に気に入られたらしくてさぁ。この子がまめにLINEをくれるのよ」
週末の居酒屋で、隣でハイボールを飲み干す砂羽さわを横目にずっとスマートフォンを眺めている雅水。
「顔、にやついてるけど?」
「そりゃ。悪い気はしない。でも年下はなぁ」
そう言ってスマートフォンをテーブルに伏せ、焼き鳥に手を伸ばしながら、
「トーコ遅れるって」
珍しくスマートフォンをテーブルの上に置いている砂羽の顔を覗き込んだ。

「あたしも、一件だけ来たよ、LINE」
お代わりを頼むついでの、砂羽の一言だった。
「うそ。え? 連絡が来たってこと? だれから? 」
「さぁ。電気屋さんか警備員じゃないの」
「返事は? てか、どっち? 山本? 白樫? あたしにはあいさつ程度の返信しかないけど」
なんの興味も示さなかった砂羽に連絡があったとは、雅水の興味を大いに刺激したのは言うまでもない。

「さぁ。上…なんとかってひと?」
「うえ? だれだっけ…あ。え!?
その名前は3番でも5番でもなく、最後に会話をした4番でもなかったのだ。
「それ、上じゃなくてあげいしじゃないの?」
「あぁそうかも」
「それ、ホストじゃない?」
「ほすとぉ?」
「そう、元ホスト。ほら、だって1番…」
そういって雅美は自分のLINE画面を砂羽の目の前に突き出す。雅美のスマートフォンには、名前の左に番号が振ってあった。
「なに、その番号」
「と、もうひとりはなんだったっけ? でもまぁまぁイケメンだったはず」
砂羽の声など耳に入らないのか、雅美は再びスマートフォンを見る。
「ふぅ~ん」
「ふぅ~ん。じゃ、ない! 返信したの?」
「しないよ。だって、興味ないもん」
「そうじゃないでしょ!? 一蓮托生! てか、なんて? ちょっと、携帯見せて」
「え~」
興味のない砂羽は、面倒くさそうにスマートフォンを持ち上げた。

『先日はありがとうございました。お話はあまりできませんでしたが、もし都合が良ければ、今度食事でもどうですか』

「…だって、さ」
「なにそれ。いいじゃん! いこうよ、食事」
「え~。今頃胡散臭い」
「イケメンだったの! だってホストだよ!?」
「ホストの時点でやばいじゃん」
「だって『元』だから、元ホスト!」
「ちょ、落ち着いて」

「なに大きい声出して。響き渡ってるよ」
そんなふたりの背後から「遅れる」と連絡のあった桃子とうこが慌てて顔を覗かせた。
「トーコ!」
言われてそんなに「大声だったか」と辺りを見回す雅水に、
「おつかれ~。早かったじゃーん」
これで解放されるとばかりに、砂羽は席をずれ自分の隣に促した。
「うん。時間調整で15分早く上がれた」
「なに飲む?」
「ん~。どうしようかな」

「…じゃぁ、あまり話をしなかった人から連絡がきたの?」
乾杯のあと、ひと通りの流れを聞きながら桃子が答えた。
「話さなかったわけではないよ。でも、あまり覚えてないかも」
雅水自身ターゲットにしていたわけでもなく、LINEのやり取りも除外していた相手だけに、記憶が曖昧のようだった。
「そういうのって、いいの? その連絡取り合うのは」
勝手の解らない桃子には怪しさしか浮かばない。
「別に決まりはないよ。じゃなきゃ全員とLINE交換なんてしないし、中にはそうやって後から連絡してくるのもいるにはいる…」
歯切れの悪い雅水に、
「けど?…腑に落ちないって感じね」
「だって、そういう場合たいてい…」
「たいてい何よ?」
砂羽も初めてのことだけに頼りは雅水だけだ。
「だから、興味のある相手に声かけたけど、反応がないから次…って感じ?」
「なに? じゃぁあたしらはついで? おこぼれってわけ」
「そういうわけじゃないけど」
「やめやめ、そんなの。失礼極まりない」
「でももったいないじゃん」
「なにそれ、節操ないな」
「そんなこと言ってる場合じゃないの。チャンスは這ってでも掴むの!」
半ば必死の雅水は、つい先日別れたばかりの元カレにもう「彼女ができた」という事実が悔しくてたまらないらしい。
「うわぁ…不純」
「正攻法じゃだめなの。とりあえず行ってみようよ、ね!」
「やだよ。だいいち顔も覚えてないのに。それに、ふたりだけってのは」
「あたしとトーコがいるじゃん」
「え? 会うってこと?」
ひとり話について行けてない桃子。
「マジかー」
「もちろん!」
やる気満々なのは雅水だけだった。


3.matching   1.bad premonition



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