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シンデレラコンプレックス

第7話 『現実に生きる乙女はたくましい』2


継母は、なぜか美しく描かれることが多い。
「キレイな花には棘がある」を地でいっている女性たちだ。だがその末路は、決してしあわせな結末ではないことを忘れてはいけない。

自分にとっての継母は、現在後妻に納まっている歩多可ほたかの母親になるだろうか。それとも、母が亡くなってから出された遠縁の家の夫婦になるのだろうか。

歩多可の母親は、実に正直で解りやすい女性だった。いつもあからさまに由菜歩ゆなほを邪険にした。
それは由菜歩の、母親に対する嫉妬心からだったのだが、そんな大人の事情など子どもに理解できるはずはなく、結果「怖い大人」という印象だけが残った。

折檻されるようなことはなかったが、断りもなしに口を開こうものなら「はしたない」と窘められ、無邪気に声を立てて遊ぼうものなら「行儀が悪い」と叱責された。おかげで由菜歩は、どこに出ても申し分のない見本のような振る舞いが身についたわけだが、代わりに心を失いつつあった。

母親の亡きあと、由菜歩は養育係と生活を共にしていた。
だが、その養育係もいつの間にやら父親の愛人となっており、翌年彼女に子どもが生まれると、継母の機嫌はさらに悪くなっていく。それまでどうにか守られていた最低限の生活も、継母の悪質な態度が新しい愛人に向けられたことで、由菜歩の所在はますます危ういものになっていったのだ。
そしてとうとう、唯一の味方であった養育係も、自分の子どもを守るために屋敷を出ていくこととなる。

由菜歩は、最終的に遠縁の家に行くことを選択させられた。


遠縁の家に子どもはなかった。ただ、由菜歩がその家に厄介になることで、彼らの生活を一変させてしまったことは言うまでもない。

のどかで静かな町で農業を営んでいた夫婦に、見たこともないような額の持参金と共にやってきた少女の存在は、それまでの生活をあっさりと捨てさせるだけの充分な条件を満たしていた。
当然、持参金は由菜歩を養育するためのものだったが、養父母の生活は絵に描いたようにすさんで行ったのだ。

遠縁とはいえ養父母夫婦は決して悪い人たちではなかった。
自分たちの生活を潤し身の回りを飾り立てる傍ら、由菜歩にもちゃんとお金を掛けてくれた。ただセンスと節操がないだけに、小さな町では分不相応過ぎていたたまれなかっただけだ。
いつも着せられるよそゆきの服は腕が上がらないほど体を締め付けていたし、硬い革の靴は歩きにくて動きを鈍らせた。そんな姿で公園で遊ぼうものなら「怪我をする」と止められ、ようやっとできた友だちと口を利こうものなら「品格が落ちる」と引き離された。結果周りに溶け込めるはずもなく、由菜歩の生活は、屋敷に居たときよりもずっと孤独なものになっていった。

ただ由菜歩は、友だちなんていなくてもいいから、早く制服のある「中学生になりたい」と思っていた。

現実は、おとぎ話のように美しいものばかりではない。
継母の悪意は、他に興味が移れば免れたし、孤独に慣れれば、冷静に周りを見ることができた。


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