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連載『オスカルな女たち』

《 トレース 》・・・7

「あたし、ママの言う通り我慢はしたくないの。ママ、言ったよね?『女がしあわせになるためには遠慮してちゃダメ』だって。『一度遠慮すると一生遠慮する選択をする人生になる』って。だからあたし、わがままだと思われてもそれだけは守ったよ。どれでもよくない、だれでもよくない、あたしは瑶ちゃんじゃないといやなの。遥(よう)ちゃんの赤ちゃんが産みたいの」
 我が娘ながら「可愛いことをいう」と思った。
 確かに玲は、遠慮がちだった幼児期の羽子(わこ)にそのようなことを言っていた。
「ママ、聞いてる?」
 一生懸命に訴える娘の言葉に玲(あきら)は昔の自分を重ねて見ていた。
「聞いているわ…」
 かつて自分も似たようなことを自分の父親に言ったような気がする…と。
 ココアを入れてソファに戻ると、玲は静かに羽子(わこ)の隣に腰かけた。
「こんな時は、あれね。〈たら、れば、ゲーム〉…」
「え~!? なんで」
 子どもたちがもめ事や選択を迫られたとき、いつも玲はこの〈たら、れば、ゲーム〉を提案する。
「いいから、聞きなさい。じゃぁ…『もし、パパとママが出会わなかったら』?」
 玲は優しく問いかけた。
「今の暮らしはない」
「そうね。それどころかふたりきりでアパート暮らしをしていたかもしれないわ」
「それはないでしょ。御門の大パパが許さない」
 玲の子どもたちはみな、玲の父親を「大パパ」と呼んでいた。

初めから読み返したい方はこちらからどうぞ( *´艸`)

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