シンデレラコンプレックス
第6話 『乙女の心は花と生まれる』3
ナナ江ちゃん…やっと会えたのに、
(絶対怒ってるよなぁ…)
沈黙がこんなに「痛い」なんて思いもしなかった。
品物を丁寧に包装してくれているナナ江の手元を見ながら、これまででいちばん息苦しい時間ではないかと思う由菜歩。
「あの…ごめ、」
「ユナ」
「はい」
「店長のこと殴ったって?」
包装を終えて顔をあげる。
「あ。…う、ん。えと、」
「グーで?」
握りこぶしを作る。
「え。いや、パーで」
まさか「ここで殴られるのか」と思ったら、コンタクトが外れてしまいそうなほど目が乾いてきた。
「あの、ごめんね。ナナ江ちゃんの彼なのに、ひどいこと…」
「ぷっ…」
「ぷっ?」
次の瞬間ナナ江ちゃんは笑い出した。
「え?」
どういうことだろう。
目尻に涙がにじむほど、ツボにはまったのか?
「グーで殴ってやればよかったのに」
といった。
「え~!?」
予想外の言葉に、どう反応するのが適当かと考えを巡らせる。
「あのポーカーフェイスが、そのあとどんな顔してたのか想像したら、おかしくて…」
「そんなぁ」
(でも、確かに)
どんな顔してた…?
「どんな顔してた?」
「覚えてないよ」
「そう。ざ~んねん」
(残念というわりに…)
「怒ってる…よね?」
「なんで?」
「なんでって…」
(一方的に殴ったわけだし、彼だし)
先にナナ江に貰っていたメールでは、随分とこちら側を気遣った内容で、その実聞きたいことがあるような素振りだった。今日はとにかく謝罪して、ナナ江にはきちんと話をするつもりで来たのに、タイミングを逃しつつある。
「だって、天嶺さんの方に非があったわけでしょ?」
「や。そうじゃなくて…」
「いいの、いいの、気を遣わないで。聞いてるから」
「う…ん」
そうなのだろうが、どうも印象が違う。
(タカネ、さん…)
しばらく顔を見せない間に、随分と距離を縮めたようだ。
「千佐さん、乾家の縁者に知り合いがいるらしいよ」
「うん。メールにもそう書いてたね」
「はい。ちゃんとプレゼント包装にしておいたよ」
そういってナナ江は紙袋を差し出した。
「ありがとう」
普通に会話しているようなのに、なぜかよそよそしさを感じる。
「ごめんね、ユナ」
「え?」
「来ないで…なんて言っちゃって」
「あぁ、でも」
「気にしないでこれからも遠慮なく来てね」
いつもの笑顔なのに、安心できない。
ナナ江は、口元に手を当て、
「来週からもう、千佐さん来ないからさ」
と、小さな声で言った。
「ここでの仕事はもう終わりだから」
「そうなんだ」
そもそも「来るな」といった本当の理由は、なんだったのだろうか。
「今日は、お姫様はいいの?」
「え? あぁ、うん。春休みだし」
「そっか。いいなぁ。学生ならではだよね、長期休業」
なんだか、棘があるような気がした。
「うん。また、学校が始まってからお願いするよ」
本当は、春休みだろうとなんだろうとやらなきゃならないことはある。だけど、今のナナ江には、気軽にそんな話ができるような雰囲気ではなかった。
(やっぱり怒ってるんだろうなぁ)
本当のところは解らず終いだった。
いつもお読みいただきありがとうございます とにかく今は、やり遂げることを目標にしています ご意見、ご感想などいただけましたら幸いです