海4

連載『オスカルな女たち』

    《 おとなの階段 》・・・1


 かつて、玲(あきら)に「おまえは蛇苺だ」といった男がいた・・・・。
 ありとあらゆる華やかな花になぞらえた玲を、こともあろうに「蛇苺」と言ったのだ。

「君は薔薇より美しい。僕の最愛のバラだ」
 人目を気にせず跪き、しおれそうな赤い薔薇を一凛差し出すその男の度胸は買うが、高級そうなスーツに身を包みながらも品のない、実に薄っぺらい男だった。
「へぇ、どんな薔薇かしら?」
 そんな男に目もくれず、玲は足を組みなおして背を向けた。
「え?」
「私はあなたの、どんな薔薇?」
 とりあえずは聞いてやる…とそんな態度で背を向けたまま、呆れた声を投げかける。 
「あ、そりゃ決まってるさ。真っ赤なバラだ」
 男はそんなセリフを吐きながら、玲の顔が向く方に膝を摺り寄せる。
「だから、どんな? どんな真っ赤なバラなの?」
 一瞥もくれない玲は、早々に立ち去りたい気持ちでいっぱいだった。だが、男の大げさな態度に、周りの視線が刺さる。
「へ?」
「あなた、バラの種類がどれだけあるか知ってらっしゃるの? 色だけじゃないわ。花の形ひとつとってもいろいろあるのよ? 私はその中のどの薔薇より美しく、どんな薔薇だというわけなのかしら?」
「ぜ、全部さ」
「へぇ。じゃぁ、世の中の薔薇の花はすべて私より劣るというのね? それはすごいこと」


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