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恋愛体質:entrance

『 街コン 』

3.matching

:1組目 元ホストと会社員
:2組目 公務員とゲーム関連会社クリエイター
:3組目 高卒フリーターと就活中の現役大学生
:4組目 電気設備技師と警備会社職員
:5組目 運送ドライバーのふたり

「あ゛~ 疲れたぁ。フリータイム抜きで帰りたいわ」
机に突っ伏する砂羽さわ。その体を無理矢理起こしながら、
「なに言ってんの、最後まで気を抜かないでよ。このあとの誘いがあるかもしれないでしょ」
小声の雅水まさみは周囲に目を配ることも忘れない。
「え~。もうごちそうさまだよ」
そう語る砂羽の目の前にはあらゆる形のグラスが並んでいた。
「そういうことじゃない。もぉ~、砂羽じゃなくて桃子とうことくればよかった」
「なによ、今さら」

「はい。では…一旦休憩とします。男性陣はこちらまでいらしてください」
どうやらこのあと、気になった相手と再び会話を持てるチャンスがあるらしい。

「ひとり参加ってのもありなのね」
ちらとカウンターに目を向ける砂羽に、
「滅多にいないけどねぇ。よほど自信があるのか、もしくは友だちがいないか」
「どっちにしても度胸あるね。ちょっと無理」
「推しかぶりで揉めることないけど」
「そんなことまで考えてんの?」
「それだけ必死ってことよ」
「へぇ」

「全員とLINE交換って意味ある? 消していい?」
砂羽は新しく加わった10名のLINEを見て面倒くさそうに目を細めた。
「バカね、連絡が来たときに困るじゃない」
「あんただけ登録しておけば…」
「あたしにこないLINEがあんたにくるかもしれないでしょー。そこは一蓮托生だからね」
「うわっ、しっかりしてる~」

「失礼します」
係りのひとりがバインダー片手に女性テーブルに声を掛けている。順番にこちらに近づいてくる気配があり、ふたりは無意識に居住まいを正し、その女性に目を向けた。

「今日はお疲れ様でした。どなたか気になる方はいらっしゃいましたか?」「え~…」
不愛想に答えようとする砂羽の横腹を突き、雅水は「…相談中です」と笑顔で答えた。
「相談中~?」
砂羽は眉をしかめて雅水を見るが、それを制するように前のめりに、
「わたしたちを気にかけてくれる方がいらっしゃるかどうか…」
雅水は殊勝に応え、女性の反応を待った。

「そうですね。2組の申請がありました」
女性の言葉に対し、砂羽が妙な声を発する前に、
「何番の方ですか?」
と、間髪入れずに答える雅水。
女性はバインダ―を眺め、
「3番と、5番。それから時点で4番の方々ですね」
といい「お話を希望されますか?」と付け加えた。

「あ~」
雅水はすぐさま自分のスマートフォンを眺め、3番と5番の彼らがどんな相手だったかと確認する。その間「帰ろうよ」と耳打ちする砂羽の言葉は無視し、
「他の方々はどのように?」
「一組を残して、皆様フリータイムに入られるようです」
「じゃぁ、わたしたちもフリータイムで」
「かしこまりました」
事務的なやり取りをして、女性が去ったあと、
「2番はやっぱりだめだったか~」
と雅水は、彼らがどのテーブルを選んだのか確認するために、少し首を持ち上げた。

「なに!? 2番? だれかいいひといたの? 時点てなに?」
そもそも気のない砂羽には、少し前に会話した彼らの顔すら覚えていない。
「手応えあったかな~と思ったけど…」
「そんなそぶりあった?」
「そういうわけじゃないけど、2番は公務員だったから…あわよくば、と」
「あ~ね」
「教師だってバレたのかなー隠したつもりだけど」
「え? 教師はダメなの?」
「仮に同業者だった場合、十中八九選ばれない」
「ふ~ん。まぁ、そうかもね。…で、時点は?」
「4番? 電気屋さんと警備員」
「よく覚えてるね~。ってそうじゃなくて、」
「あぁ。申請は一組だけだから、マッチしない場合はフリータイムに自力で行く」
「あぁ。で、なんであんたはフリータイムしたの?」
「だって3番は年下だったし、5番は運転手だったでしょ」
「あ~フリーターのとこか。でも運転手はなんで?」
「話の様子からして長距離っぽかったから。それだとなかなか会えないだろうし、時間が不規則かと思って」
「へぇ~。ガチだね」
「あたしは平日は無理だから。…あ。もしかして、気になるひといた?」
「ぜんぜん…」
「だよね、職業すら覚えてないもんね」
「でも。失礼なこと言われたことは覚えてる」
「だれ?」
「さぁ。でも、なーんかバカにされた気がするのよね」


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