頂上

連載『オスカルな女たち』

《 秘密の効用 》・・・13

「さすがに平日は人が少ないですね」
 とはいうものの、遠くから子どものはしゃぐ声がする。橋を渡り切った左手に、ちょっとした売店と管理事務所の入った建物が見え、その奥は遊具施設になっているらしかった。

「こっち。ちょっと行きたいところがあるんです…」
(行きたいところ…?)
 遠慮なさらずに…そう言って真田は再び手を差し延べた。どうやら向かおうとしている先は小さい丸太で作られた階段になっているらしく、織瀬(おりせ)は戸惑いながらも今度は真田の手を取った。

 森林公園というだけあって植物にはひとつひとつ、丁寧に名札のようなものがつけられていた。それを眺めながら、
「よく来るの?」
 握られた手に心臓が移ってしまうのじゃないかと思うほどに鼓動で胸が熱くなる。少しでも気を紛らわせたい織瀬は、とにかくなにか話さなくてはと口を開いた。
「はい。考えごとなんかしたいときに…」
 先ほどまでの勢いのある口調とは打って変わり、いつもの冷静な真田の口調に戻っていた。
「へぇ…考えごと」
(ひとりで…?)
 余計な詮索をしてはまた落ち込む、まるで女子高生に戻ったかのような気分の織瀬。自分で自分が歯がゆくて仕方がない。

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