花茶

連載『オスカルな女たち』

《 ブレインストーム 》・・・20

「そんな、そんなことだけでいいの?」
 織瀬(おりせ)は拍子抜け…とばかりに、つい口に出してしまった。あたしの力説はいったいなんだったのか…と。
「今は、それだけで充分です」
 そう頬を染めて答える明日香に、ばかばかしい…とは言えなかった。〈夫婦喧嘩は犬も食わぬ〉を目の前で見た瞬間だった。

 ふと、視線の先の扉が目につき、細い隙間から玲(あきら)が手招きしているのが見える。
「ぁ…、ちょっと、失礼します」
 そんな言葉などふたりの耳に届いているのかさえ怪しいものだが、つき合ってられない…といった感じで織瀬は、自分のバッグを持って立ち上がった。
「玲。ちょっと悪趣味なんじゃない?」
 なんなのこの茶番…と、扉を出るなり織瀬は明日香に抗議した。
 そんな織瀬に「まぁ、こんなものかしら」と玲は言い、
「ありがとう。本当にありがとう。これで明日香さんも家に帰ると思うわ。見た? あの花束…ロマンチストでもない、無粋極まりないあの聖(ひじり)兄さまが、薔薇よ」
 くすくすと笑って見せる玲に、
「玲…? あたしひとりバカみたいなんだけど…」
 と、冷たい視線で返した。

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