頂上

連載『オスカルな女たち』

《 秘密の効用 》・・・16

「足元、気をつけてください」
 そう言って真田は、腰を落としながら静かに地面に足をつけてくれた。
「ありがと…」
「どうですか? 気持ちいいでしょう」
「うん…。これはいやなこと忘れるね」
 
 ふたりはしばらく黙ってその光景を目に焼き付けた。
(こんな景色見せられたら、素直になっちゃうじゃない…)
 織瀬(おりせ)はそっと、右の手で真田のTシャツの裾を掴んだ。
「こんなところにまでついてきて…。あたしのこと、ちょろいって思ってる?」
「そんな風に思ってたら、もっと前にたぶらかしてますよ」
「そっか…」
 どのくらいそうしていただろうか、随分と時間が経っているような、わずかな時間のような、空の様子が変わり始めた頃、真田が口を開いた。
「織瀬さん…」
「ン…?」
「さっきみたいな顔、久しぶりですね」
「そう?」
 確かに「結婚記念日」前あたりから無条件に笑っていなかったのは事実だ。

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