見出し画像

連載『オスカルな女たち』

《 過去からの手紙 》・・・10

〈章悟くん…!〉
 つかさが救急外来に着いた時、真田はひとり診察室の外にたたずんでいた。
 肩を落とした力ない影は、まるで恋人の安否を気遣う姿そのものにつかさの目には映った。織瀬(おりせ)に思いを寄せているのだから当然と言えば当然の姿ではあったが、目に飛び込んできた瞬間ドキリとさせられたことは言うまでもない。
〈つかささん…〉
〈おりちゃんは?〉
〈今、処置室で…〉
 織瀬は既に血液検査を済ませ、検査結果が出るまでの間診察室奥の処置室で「胃カメラ検査」をしているのだということだった。
〈胃カメラ?〉
〈はい…〉
 運良く、休日の救急外来に他の患者の姿はなく当然ながらシン…としていて、処置室から苦しそうな織瀬の嗚咽が漏れ聞こえてきた。いたたまれないつかさは、どうにか気を紛らわそうと会話を続けた。
〈胃が痛いって…?〉
 最近の織瀬の様子から、胃というよりは生理痛に苦しんでいた…というバーでの話を思い出し、なにか深刻な病気ではないかと心配した。
〈最初はそんな感じじゃなかったんですが、帰り際急に痛み出したようで動けなくなってしまって…〉
 そう語る真田は、実に申し訳なさそうな顔をしていた。それゆえ「なにがあったのか」とそれまでの経緯を聞ける様子ではなかった。

いつもお読みいただきありがとうございます とにかく今は、やり遂げることを目標にしています ご意見、ご感想などいただけましたら幸いです