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恋愛体質:date

『雅水と唯十』


3.interview


「あーいえばこういう。めんどくさいのに捕まっちゃたなー」
「ぜんぜん楽しそうだけど?」
店に着くなりスマートフォンとにらめっこの雅水まさみを珍獣でも見るような目で見据える砂羽さわ

「楽しいは過ぎたの」
「なんだそれ」
「会いたいって言うんだもん」
「会えば?」
「そのあとは?」
「やっぱ無理って」
「それがめんどいんじゃん」
それを楽しんでいたのではないか、とはあえて飲み込む。

「今まで会ったことないの? その、こないだのとは別に。今まで何回か行ってるよね、街コン」
今更ながらの疑問ではあるが、そう言えば雅水のその後の話を一度も聞いたことがないと目を見張る。
「あるよ」
「でも?」
「変な人が多い」
「そんな集まりヤツにあたしを誘ったわけ?」
信じらんないとグラスを傾ける砂羽は、そのまま飲み干し、店員のいる方に向かって掲げて見せる。
「すいませーん。ハイボール」
「こないだのは当たりだったでしょー」
「当たりもなにも、あたしは初めてだったし」
バツが悪そうな雅水の顔に「言い訳にしか聞こえない」とひとこと。
「所詮出会い系かー」
グラスをテーブルの端に置き、その手で目の前の枝豆をつまむ。
「あ~彼氏が欲しい。あたしがなんか悪いことした~?」
だれに向けた文句なのか、嘆く雅水に「それは思うよね」と激しく共感。
「でしょ」
ふたり、大きなため息をつく。

「その、変な人とやらの話を聞こうじゃない」
「え。思い出したくないんだけど」
「参考までに」
桃子とうこが来るまでまだ時間があるし、と詰め寄る砂羽。
「じゃぁ」
いちばん最悪なヤツね、と雅水は生ビールをひとくち流し込む。
「最悪なんだ」

それは自称IT企業社長との出会い。チャラ男のキライがあったが、起業家というものは得てして凡人とは違う要素を持ち得ているものと妥協してのことだった。
「ファミレスに誘われた時点で疑うべきだった」
そう言って生ビールを飲み干す雅水の様子ははすでに、うんざりを物語っていた。
「なんでも食べていいっていうからさ、てっきり奢ってくれるのかと思うじゃない? でも相手が食べてないのに頼むのもどうかと思ってさ、カフェオレにしたわよ」
「向こうは?」
「ただのアイスコーヒー。その時点でこっちの方が金額は高いんだけどさ」
その言い方からして「割り勘だったのか」と推測する。
「つまんない自慢話されたあと、結婚は考えてるんですかーって」
「それで?」
「よいご縁があるなら、って答えたわよ」
「そしたら?」
「自分はそのつもりで来てますっていうわけ」
「え、その時点ですでに結婚前提なわけ?」
「それがそうでもなくて。あなたはどういうつもりで街コンに参加しているんですか、よいご縁というのは大前提で、こうして会ってるわけですからもっと建設的な話をするべきでしょう、って説教よ」
「うわぁ。やだわ、それ」
「そうなのよ! で、さっさと切り上げたいと思ってたら向こうから『時間がないんで』って切り出してきたわけ。要はあたしにはもう用がないって言いたいわけよ」
「なんだか場慣れ感半端ないね」
「何度も同じこと言ってるんじゃない?」
「なるほど」

「いざ会計ってなってさ。一応出すじゃない」
「まぁね」
「でも小銭がなくて、700円のカフェオレに1000円札を出したわけ」
「受け取ったのね」
「しっかりね。で、おつりがあったの。アイスコーヒーは500円だったんじゃない? 300円戻ってきたから」
「それで?」
「そいつ! 200円を自分の財布に入れて、あたしに100円だけよこしたの!『割り勘ね』とか言って」
「はぁ? え、それ割り勘でもなんでもなくない?」
「そ~なの。700円のカフェオレに1000円出したんだから300円はあたしのものでしょ~。なのに100円って、せめてあたしが200円じゃない? しかもよ! 領収書貰ってた」
「社長なんだよね?」
「社長だからかもね。でもさ、同じ起業家でも上石あげいしくんたちはそんなことしなかった。少なくともあたしたちの前ではね」
「わ~」
あたしやっぱりもう街コンはいいや、と砂羽は心の中で呟いた。

「この話には後日談があるのよ」
「え、続くの?」
「続きは桃子が来てからね」







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