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街猫街犬パラダイス、トルコ 5

セルチュク、メルヘンのようなレストラン

 ヨシオの旅も終わりに近づいてきた。パムッカレのカラハユットで2泊した後、バスでエーゲ海にも近いエフェス遺跡観光の拠点セルチュクへ。連泊した後、イスタンブールからの帰国便に間に合うよう、セルチュクからは電車で1時間ほど北のトルコ第3の都市イズミルへ行って国内線でイスタンブール国際空港に飛ぶ。
 中学校の教科書にも出てくるローマ時代のエフェス遺跡(確かエフェソスと習ったような)は、ヨシオにとって若いころからの憧れに近い世界だった。
 今回の旅で改めて分かったのは、木馬伝説で知られるトロイ遺跡もトルコにある。近代に入ってギリシャとトルコは戦火を交えるものの、古代からギリシャやローマ世界と現在のトルコ西部は濃密に混じり合っていた。

セルチュの石畳を黒猫が行く。街の中心から城壁や小さなホテルが建ち並ぶ一帯は坂が多く道は迷路のように入り組んでいるが、趣のある所だ

 歴史の話から突然ちょっと。というのも今回、ヨシオは70歳を目前に、今回は以前の旅よりむしろ快適に旅を続けてきた。もちろんタクシー運転手に料金を二重でカード決済されたり、道に迷ってへたり込んだりしたこともあったものの、トルコにはいいシステムがあったからだ。
 トイレである。日本が誇る温水洗浄便座に頼って生活しているヨシオは、海外では当然困って調子を崩してしまうことが多かった。しかし、トルコのトイレには便座後方の数センチ下にノズルが付いていて、壁の蛇口をひねると水平に水鉄砲が飛ぶ。そこに当てればスッキリなのだ。
 ムーブだとかソフトとか温度調節など、精密な仕組みを提供してくれる日本の技術はありがたい。しかし、単純明快な水鉄砲で十分ではないか。

セルチュクの商店街。後ろの店にはザクロやオレンジがどっさり。生搾りのジュースがおいしい

 セルチュクのホテルで若い従業員にヨシオが「君らはどんなレストランに行くんだ?」と尋ねると、「アマゾンだ」とと返ってきた。
 その店は中心街とは少し外れた丘の麓にあって、腹の出た無口なおやじが仕切り、奥に年配のコックが控える。
 ドアを開けると店内は中庭になっていて、所々にブドウの木が茂っている。乳母車を引いた地元客、もちろん街猫、街犬がうろつき夕日が差し込むとメルヘンのような店だった。ヨシオは「チキン・アマゾン・スペシャル」なる料理を注文した。ちぎった鶏肉の焼いたものにヨーグルトとハーブ、ニンニクなどのソース。まさにスペシャル。

レストラン「アマゾン」の前で遊ぶ街犬たち

 石畳の街には黒猫がよく似合う。

シニアの旅に挑戦しながら、旅行記や短編小説を書きます。写真も好きで、歴史へのこだわりも。新聞社時代の裏話もたまに登場します。「面白そう」と思われたら、ご支援を!