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3:目標と散策

この日は山に囲まれた小さな町スコーミッシュへと向かう。
ここ1年ほど自分にとっての落ち着く場所、リラックスした過ごし方を考えることが多くなった。
昨年の11月にリラックスしようと宮古島へ行ったものの、広がるビーチで過ごすのは求めていたのとは違うようだ。
1人で落ち着く場所と誰かと一緒に落ち着く場所、また過ごし方というのは違うのだろう。

スコーミッシュにはハイキングや登山、クライミングなど多数のコースがあると知り興味を引かれた。

この日はトムの出勤が遅いことから一緒に街の方まで車で送ってもらう。
理学療法士として働くトム。彼自身もランナーということもあり、患者さんの8割はランナーだと言う。ケビンのクラブのランナーも怪我をした時はトムの元でリハビリや診察を行なってもらうのだと。

「ナイキの厚底シューズが発売されてから今までになかった怪我を見るようになったんだ。腰回り、股関節、仙骨の疲労骨折で来院する人が増えてきてね」

統計があるわけではなく、彼自身の経験談だが、日本でも似たような傾向はあると聞く。
トム自身は理学療法士、また人間の体の機能の観点からすると厚底シューズにはあまりいい印象を持っていないようだ。
「リハビリ過程のランナーにはできるだけソールの薄いシューズを勧めたのだけど、もうほとんど売ってなくて困ってるよ」

確かに自分が学生時代に履いていたタイプのシューズはほとんど見なくなった。

ケビンも厚底シューズへの懸念があるなら、まだデータが少ないことだと言っていた。確かにパフォーマンス向上への効果は高いが、数年後、数十年後の身体への影響がどんなものかは分からない。

新しいものの本当の効果は時間が経たないとなんとも言えない部分がある。

そうやって話すうちにトムの職場に到着する。ここで別れて、街のバスの乗り場へと向かう。

1時間少々でスコーミッシュへと到着した。
切り開かれた岩山の中間に存在する小さな町だ。

ホテルのチェックインを済ませ、早速近くのトレイルへと向かう。
下調べもなく、このトレイルの先に何があるのかも分からないが何か目的の場所を目指して歩くわけでもないので問題ない。
無意識に浮かんでくる考え、何があるか分からない道のりを楽しみながら進んでいく。
綺麗に整備された道もあれば、道と言っていいのか分からない、草むらの道を突っ切ることも。
途中には電車の線路が横切っているところも。
「ウォーキングデッドの世界ならゾンビが二匹くらい彷徨っているな」
と変なこと空想が膨らむ。

歩き始めて1時間くらい経過しただろうか。木々の隙間から水辺が見える。少し進んだ先にはひらけた場所があり、湿原と言うのだろうか、大きな岩山に囲まれた壮大な景色が姿を見せる。


都内の公園で散歩をする時もそうだが、歩くペースは基本ゆっくりだ。同じコースを歩いている人たちに抜かれることはよくある。
何事にも目的に応じた快適なペースがある。何か考え事をしながら、または心を彷徨わせたい時にはゆっくり歩くのが一番だ。
不思議なものでリラックスするだけなら寝転んだり、座っている方がいいように思うがそれだと求めている感覚は得られない。またちょっと早すぎたり、階段や急な上り下りがきても余裕が奪われてダメだ。誰かとの会話もリラックスの一つだが、考える余裕はなくなる。

「木々などの自然が近い場所で、平坦な道をまったりと歩く。どこに向かうかは問題ない」

一つ自分なりのリラックス方は再認識できた瞬間だ。

翌日は「チーフ」と呼ばれるトレイルコースを目指す。ファーストピーク、セカンドピーク、サードピークと呼ばれる3つの絶景ポイントがあり、これらを目指して山を登っていく。
山の標高700mと高くはないが、短い距離で登るので傾斜はキツく楽とは言えないようだ。ロッククライミングで登る人もいるという。

ガイドには6時間コースと記載してある。ホテルのチェックアウトが11時のためその前に戻ってきて、シャワーを済ませたいこともあり、少し早めにいく必要がありそうだ。
ホテルからトレイルの入り口まではGoogleマップで4km程度となっている。町のバスは7時過ぎからしかないので、入り口までは走っていくのが良さそうだ。

6時前にホテルを出発し、20分ほど走ると入り口に到着する。
入り口から数百メートルは緩やかな傾斜の道を進み、傾斜のきつい階段が見えてくる。
整備された階段、岩場、足場の安定しない斜面などを進んでいく。

以前に屋久島を訪れた時、11時間と記載された屋久杉までの登山ルートを登ったことがある。少し走ったりしながら進むと2時間弱で目的地に到着した。特別急いだわけでないにせよ、往復で3時間半程度。
一般的なガイド表記の時間は定期的な休憩、運動に慣れてない人に合わせたものが多いのかもしれない。勝手な経験則ではあるが、約3分の1の時間では登って下れるのでないかと思っている。

30分ほど進むと次第に岩場が増えてきて、ハシゴや岩場に繋がれた鎖を支えに登る場所も。
頂上までの最後のエリアは四つん這いになって這うように岩場を登っていく。


ファーストピークからの眺め

頂上からは湖、町を眺めることができ絶景だ。少し頂上でまったりしてこの景色を目に焼き付ける。
ここで昨日行った散歩、登山の大きな違いに気づく。

険しいルートそのものを楽しむという人ももちろんいるだろう。登山が趣味の人、登山家などは登ることを楽しみ、特定の場所、頂上にたどり着くのが最終目標ではないと思う。ただ険しいルートを進むうえではその先に何があるのか、目指すもの、いわば目標があることで乗り越えやすい。

一方で自分にとっての散歩というのは何かを目指すのではなく、その過程での発見、経験を楽しむことが目的となる。
頂上が目的でなく登山そのものを楽しむ人もいると思うので一概に登山という散歩違いで分けて考える必要もないが、自分の場合は登山はきついのでどこかを目指す目標を用意しないとやらないと思う。

目標を持った取り組み、目標を持たずに過程そのものを楽しむ取り組み、これらの両方を自分が実現しやすいやり方で見つけていくのが人生を有意義に過ごすうえで大切なのだと思う。

ランニングでも似たような観点はある。記録や順位を目指すのはランニングを楽しむうえで役に立つ。しかしそればかりだと気持ちも擦り切れてしまいやすい。
練習を通して人とのつながりを感じる、気分をスッキリさせる、など何か特別な目標を設定せずに走る時間も続けていくうえでは必要だろう。

目標を据えた楽しみ方、散策すること、活動自体を楽しむことを必要な時に取り入れていく。

ランニングを行う目的が経験を重ねるうちに後者の方が大きくなっていると感じる。

予定よりも早くホテルに戻り、支度を済ませるとバスの時間まで町の周辺を散歩することにした。
川沿いのトレイルを歩いていると木々の間に設置されたベンチがあり、動き疲れた身体を休ませる。

少しひんやりする心地よい風がいっそう居心地をよくする。
自然に囲まれただぼーっと座る。簡単ことなのに、なかなかやることのないただぼーっとすること。
普段ならちょっと隙間時間があればすぐにスマホへと手が伸びる。何か目的があるわけでもなく、画面をスクロールする。
ただこれは散歩の時の心の状態とは大きく違う。スマホを無意味にいじって頭がスッキリするとか、気分が爽快になるなんてことはない。

この時、スマホはポケットに入っていたが不思議とその存在を忘れいた。
スマホの存在すらも意識しないでいいすごく落ち着いた状態いられたようだ。

昼過ぎのバスに乗り夕方にはバンクーバーに到着。

レイチェルの紹介で毎週金曜日17時からTurF Cafeで行われいる女性のコミュニティランニングに参加することに。
ヨガなどのレッスンも行われるスタジオとカフェ兼レストランが一体となった施設のようだ。
この日はレイチェルの働くHettas(女性向けランニングシューズ会社)がシューズの試し履きも行っていて、いつもより参加者が多いとのこと。20-30人くらいだろうか。


ランニング前の準備運動

練習というよりはビーチ沿いを6kmゆっくり走るだけだが、運動習慣をつける目的の人にはうってつけかもしれない。事前の予約も必要なく、その場に来て参加することを伝えればいい。
走り始めたばかりの人、これからの人にとっては何の練習をするのかは大きな問題ではない。どのように習慣づけていくのか、持続可能なやり方を見つけることのほうが大事になる。
ランニングクラブよりも、このようなコミュニティランは精神的なハードルも低いように感じるし、女性にとっては女性限定は安心できるものだと思う。

女性限定にする必要性はないが、スポーツをやる割合はやはり男性の方が多い。そのため一斉に募集をかけると男性の割合が多くなり、運動に慣れない女性からすると少し躊躇ってしまうのもあるのだろう。

ランニング後にはカフェがビールやドリンクを無料で提供していた。
走ったことで少し気分がハイになっている分、会話も弾んでいるようだ。その後、仲間同士でご飯に行く人たちも。

色んなコミュニティのあり方を見て参考にできる部分、また自分がどんなものを好むのかを考えるきっかけになる。

帰宅する頃には疲れがどっと押し寄せてくる。
キムがテーブルに夕食を用意してくれていた。

22時ごろになると眠くなってくる。どうやら身体も現地の時間に合わせてきているようだ。

日常からの学び、ランニング情報を伝えていきたいと思います。次の活動を広げるためにいいなと思った方サポートいただけるとありがたいです。。