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トップコーチに学ぶ指導法〜走ることから楽しみを見つける大切さ

メルボルン在住のショーン・ウィリアムズコーチ。


オーストラリアの名コーチの1人。クラブチームにて3歳から60歳以上までのランナーを幅広く指導。その中には世界陸上、オリンピック、世界クロカン、などの国際舞台で活躍する選手達もいます。そんな彼のコーチング理論について聞くことができました。また私自身も2015年から2016年にかけて9ヶ月間の指導を受けた経験も元に紹介します。

彼自身が指導した選手の中には以下の選手たちがいます。
ベン・セントローレンス(ロンドン、リオ五輪5000,10000m代表)
ハリー・サマーズ(2019年世界クロカン代表)
オリバー・ホア(NCAA 1500m優勝)
モーガン・マクドナルド(NCAA5000m,クロスカントリー優勝)
ビクトリア・ミシェル(リオ五輪女子3000mSC 代表)
セルマ・カジン(リオ五輪女子800m 代表)

以前紹介したニキさんもショーンの指導を受けます。





ランニングを始めたのは9歳の時で両親に勧められて参加したアスレティッククラブでは投擲や跳躍など幅広く行いました。最初はいろんな種目を楽しんで、本格的にコーチを付けて走り始めたのは11歳の時でした。


現在でもコーチングの傍、自身もトラックやパークランなどに参加。今でも走ることは日常の中にあります。


コーチングで一番大切にしているのはスポーツの楽しさを伝えることだそうです。
もちろんエリート選手の指導も行いますが、彼にとって速い選手が特別というわけではありません。誰に対してもフレンドリーに分け隔てなく指導を行う姿に多数のランナーが引かれていくのでしょう。

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ショーンコーチのジュニア選手に対する考えを聞かせていただきました。

「まずは一人一人が違うということを頭に入れておくことです。私が指導するジュニア選手の練習の95%は芝生などの柔らかい地面や起伏を含んだトレイルなどで行います。トラックを走るのは多くても週に1回。トレイルやビーチなどの近くで自然に触れて走ることが大切です。将来は5000m、またはそれ以上の距離に適正のあるランナーでも、夏は200m,400mなどのいろんな種目に触れてスピードを養うことを、冬はクロスカントリーで持久力を養うことが基礎になり、強い身体の基盤を作ります
2006年の福岡で行われた世界クロカンでは高校生女子チームのコーチと話す機会がありました。そのチーム全員が同じ練習を行なって、毎週150km走り、そのほとんどの練習がアスファルト、トラックの上で行われていることを聞きました。その年、女子ジュニアの部団体で日本チームはケニア、エチオピアに次いでの3位の成績を納め、言うまでもなく日本の長距離の強さを示していました。ただそれでもジュニア選手に同じようなことをやらせようとは思えません。アメリカの学生選手権で優勝をしたモーガンやオリバーも大学へ入学する前には多くても週80kmでした。ジュニア選手はもっと基礎的なトレーニングで十分です。また私は他のスポーツをすることも勧めています。モーガンはサッカーを、オリバーはライフセービングを同時にやっていました」

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私の経験上でもショーンコーチの練習はほとんど芝生、もしくはトレイルの上で行われます。これができるのはオーストラリアの環境のおかげでもあると思いますが、タータントラックの練習は2週間に1度程度でした。

こんなジュニア選手なら、こんなタイプの選手なら、こんなタイムを狙う選手ならどう指導する?故障明けの選手にどのくらい時間をかける?」

以前にこんな質問をしたことがありましたが返ってくる答えは以下のような感じです。

「一人一人の反応には必ず違いがある。それはトレーニングでも、リカバリーでも同じ。だからこれだという答えは出せない。目の前の選手とのコミュニケーションをしっかりとって、そのニーズを把握するのがコーチの役目」

トレーニング理論を学ぶのはすごく大事なことではあると思います。ただ自分の知識に自信過剰になって、目の前の人の反応を無視してしまうとそれはただの押し付けかもしれません。


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また色々問題のある女子選手の体重や貧血、生理不順の問題は彼が指導するランナーにもあるようです。

「多くの女性選手が痩せているほど、より速く走れると思っています。特にジュニア選手ですが、もちろんシニア選手の中にもいます。もちろんそんなことはありません。体重問題で生理不順や骨粗しょう症による疲労骨折、貧血など問題を抱える女子選手を多く見てきました。これは選手寿命を縮める大きな要因で、悪い場合は出産にも影響を与えます。食べるものを選んでしっかり栄養を摂ることが強い身体を作り、良いパフォーマンスに繋がることをいつも伝えています」

週末の練習後にはカフェなどで選手と一緒にご飯をとることが多かったのですが、何よりも練習を含め楽しい時間を過ごすことを大事にしている様子が伺えました。上記の紹介の仕方だと少し緩い感じが伝わるかもしれませんが、年齢関係なくもう少し追い込みが必要な選手にはプッシュする時もあります。

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選手のレベル関係なくまずはランニングを楽しむことに重点を置くショーンコーチ。その理由は多くの人に、たとえ高齢になっても、長く走ることを続けて欲しいという気持ちがあるそうです。その事はエリート選手にも同じように伝え、長いスパンでのプロセスがランナーとしての成功に役立つことを勧めていると言います。
時にオーストラリアでも、クラブのコーチがいい選手を引き抜いて自分の名やクラブの名を上げようとする事はあるようです。
もちろんショーンコーチのクラブから別のコーチに変える選手もいます。ただそんな時も常に指導するランナーを第一に考え後押しする姿がありました。
誰よりも走ることを楽しむ姿を見せる姿勢が多くのランナーを魅了する秘訣なのかもしれません。

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最後に私の経験も含め、ショーンコーチの練習スケジュールを紹介します。
基本的には以下のような流れです。

火曜日: 400m,1000等のインターバル
木曜日:ヒルトレーニング、ファルトレク
土曜日: ロングインターバル、テンポ走
日曜日:ロング走

インターバルの中でも変化を持たせるのが多かったですが、いくつか紹介したいと思います。

・3000m×2(300mを流して、700mを3kmペース程度で3回繰り返す)
ハリーやベンは8'25程度。

・100m Hill×30(1分サイクル)
クラブ全員で行う坂道練習。10m刻みで距離を調整。70mで行うランナーもいれば、エリート選手は120mで行います。 

・400m×10 or 500m Hill×8+4kmテンポ走
400m,500mのインターバル(
1分のリカバリー、500mは90秒)、5分休憩、4kmのテンポ走。

またこちらは2011年の ベン・セントローレンス例

月曜日 AM 16km jog  PM 7km jog
火曜日 AM 8km jog   PM 5km (14'00)
水曜日 AM 22km jog PM 7km jog
木曜日 AM 7km jog    PM 120m hill×30 (1分サイクル)
金曜日 AM 16km         PM 6km 
土曜日 AM 12km(3'05)
日曜日 AM 29km ロング走

走行距離163km

その他
1000m×9(4分サイクル)2'40 ラスト1本2'35以内
2000m×4(9分サイクル)  5'30
400m×10(2分サイクル) 61+4km (12'20)

調整(メルボルントラッククラシック5000m)13'10
金曜日 AM 12km jog PM 6km jog
土曜日 AM 4km(11'30)+100mhill×5(1分サイクル)
日曜日 AM 15km jog
月曜日 AM 6km PM 800m+400m+200m×4 (2'05-62-31)
火曜日 PM 8km jog
水曜日 PM 6km jog
木曜日 AM 4km jog  PM 5000m(13'10)
走行距離 91km

もちろんこれはベン選手のために作られたメニューで、調整方法も人によって異なります。

日常からの学び、ランニング情報を伝えていきたいと思います。次の活動を広げるためにいいなと思った方サポートいただけるとありがたいです。。