見出し画像

1:再びバンクーバーを訪れて

「I’ll walk you through the stretches and drills I do before a workout」

声を張って人前で話すことは昔から苦手で、どんな仕事をやりたいのかは全然分からなかったが、どんなことをやりたくないかははっきりしていた。その一つが「人前に立って話すことが多い仕事」具体的には教師など人に何かを教える仕事がまさにそうだった。

人前で話すことは今でも苦手に変わりはないが、ちょっとずつステップを踏むことで自分の進歩を垣間見る時がある。苦手なこと、ひと昔は絶対できないと思っていたことを「できる」と実感できた瞬間の内なる喜びがある。
前提条件としてちょっと渋りたくなる状況に身を置く必要があるため、中々経験できるものでもない。そのためここ最近は少し忘れがちになっていた感情だ。
自ら向かって今の実力を試しにいく場合もあれば、思いもしない形でその機会は訪れることもある。

カナダ・バンクーバーの地で知り合いのランニングクラブに参加した時にその機会は訪れた。「第2言語でウォーミングアップの指導」と言う初めての状況だ。

旅というのは時に予想をしない形で自分が試される時がある。これもまた旅の醍醐味の一つなのかもしれない。


2014年から2015年の約9ヶ月間、ワーキングホリデービザを使って滞在したカナダ・バンクーバーの街。
あれから9年の月日が経ち、再びこの街を訪れることになった。きっかけは当時働いてRunning Roomというランニングシューズの販売店の同僚であるキム(キンバリー)と日本で再会したことがきっかけだ。
博士課程で民俗学を専攻する彼女は日本の駅伝文化を研究している。そのため昨冬3ヶ月間、東京に滞在して駅伝のレースやチームの練習、市民ランナーへのインタビューを行った。通訳サポートやレースの案内など手伝ってほしいと連絡が来たことが再会のきっかけとなった。

本日M高史さんと、日本で駅伝の魅力について研究をされているカナダ出身のキンバリーさんが私たちを取材してくださいました!🇨🇦🇯🇵 キンバリーさんは日本の駅伝競技に非常に興味を持ち、私たちが大学で英語を勉強している駅伝チームであるというご縁で...

Posted by 関西外大 女子駅伝部 on Friday, December 8, 2023

バンクーバーを離れてからは連絡を取ることはなかったが、またランニングをきっかけにお互いの道が交差する時がくる。時々起こるこのような再会は胸が躍る。
キムの夫のトムも当時の同僚で箱根駅伝の観戦に合わせて東京を訪れた。
2人と話していると当時の記憶が蘇ってくる。
こんな話をしていると心踊る旅に出かけたくなる。キムのプロジェクトの話を聞いているとどこか羨ましく思えてきたのかもしれない。
それから1ヶ月後くらいだったろうか。ANAのタイムセールの広告を見つけると勢いのままに航空券を購入した。
場所よりも人に惹きつけられて旅の行き先が決まる。ここ数年はこんな感じだ。
「もうウキウキで練習どころじゃないかと思いました」
カナダに1週間行くことを話すと、どうやら出発が待ち遠しくてたまらない心境だと思われることが多いようだ。
もちろん飛行機を予約した時、旅の大まかな予定を立てる時などは今回はどんな旅が待っているのかと期待が膨らむ。しかしいざ出発の時が近づいてくると、空港までの移動めんどくさいな、長時間のフライト耐えれるかな、時差ボケ大丈夫かな、など細かいことを気にしたりばかりだ。
今回に限らず昨年のオーストラリアを訪れたときも近いような心境になる。
日常の変化を求めているようで、日常のリズムを崩されたくない、変化を拒む気持ちと求める気持ちか入り混じっているようだ。

気持ちがどうあれ、飛行機に乗り込みさえすればあとは到着を待つだけだ。
くだらない心配事はすぐに終わり、空港を降りると懐かしのバンクーバーだ。

今回の滞在ではキムとトムの家に泊めてもらう。キムが大学院生のためUBC(ブリティッシュ・コロンビア大学)の敷居にある建物に住んでいるようだ。
空港から電車とバスを乗り継いで約1時間。キムと息子のセイガン(Sagan)が迎えてくれた。

同じような建物がいくつも並び、ここに多くの家族が住んでいるという。仕事をしながら、または一度仕事を辞めてから大学院で学ぶ人が多いようで、両親のどちらかがUBCの生徒なら家族で住むことができるという。(ただキムも明確なルールは分かっていないようだ)

到着したのじゃ午後6時ごろだが日の入りが9時10分のためまだまだ明るい。
「この周りにはたくさんのトレイルがあるの」
そう言ってマップを見せながら森の中にいくつも伸びるトレイルのコースを教えてくれた。
当時住んでた時はこのエリアをほとんど訪れたことがなかったので新たな発見だ。
このようなトレイルを見つけるにはもっと遠くの山の方に行く必要があると思っていたのでラッキーな気分だ。

ここ最近は緑に囲まれた中を歩いたり、走ったりすることに憧れを持ち始めていた。今回の旅の目的の一つに「緑豊かな自然に多く触れる」ことがある。
今回の旅の前には好きな本の一つ「NATURE FIX 自然が最高の脳をつくる」を読み直したことでより緑を求め出している自分がいる。

ということで到着して早々走りに行くことに。
キムは到着して最初にやることがランニングということにやや笑っていたが。

近くのトレイルの入り口までキムの家からわずか数分。
トレイルのアップダウンは少なく、道はクネクネしている。そのため数十メートル先しか見ることができない。「次のカーブを曲がった先はどうなっているのだろう」冒険に出たような気分で進んでいく。
途中で道が枝分けれるするポイントがいくつかあるが、そこには標識があってトレイルの名前が表記されている。最初に自分が走るトレイルの名前を覚えておけば帰ってくるのは困難ではない。
が、当然分かれ道が来ると予定の道よりも興味をそそる方に進みたくなるものだ。
予定のルートは無視して直感で行きたいと思う方に進んでいく。

パシフィック・スピリット・リージョナル・パーク内のトレイル

15分くらい経つとトレイルの出口が見えて渡った道の先には海が広がる。
緑に囲まれたトレイルから急に解放された海沿いを走る。ビーチでは日光浴をする人たち、ビーチバレーを楽しむ人たちと平日の夕方にも関わらず多くの人で賑わっている。
少し進むとバンクーバーのダウンタウンが見てくる。森をでたと思ったら海があり、その先には街が合う。こんなに景色を楽しみながら走ったのは久しぶりかもしれない。帰りは違うトレイルコースを走って帰り、30-40分で終える予定だったジョグも70分ほどになっていた。

帰宅するとキムが夕食を作り終えたところだ。
少しするとトムも仕事から帰ってくる。

自然に近いバンクーバーの街の良さについて話すと、キムとトムは東京の利便性、街の道の綺麗さについて語る。自然豊かなイメージはあるが確かに道にはゴミが捨てられているのが目立つのも事実だ。
「あんな大きな街にも関わらず東京の夜は静かで驚いた」とトムが言う。
「夜中に叫ぶ人がいない」と冗談で言っているのかと思ったが、のちにそれが本当だと分かる。
こうやって違う環境の人と話すことで、気にもとめていなかった点が素敵なことだと気づくことも。

「この本を買いたいけど、どこか売ってるかな?」とキムに聞く。
「ちょっと調べるから待ってて。」
「ないなら別にいいよ。ここにいる間にAmazonで頼むから」
「Oh、カナダのAmazonを日本と一緒にしたらダメよ。日本みたいに早く配達してくれないし、ここでは偽物や不良品が多数出品されているから信用してないの」
キムが日本で驚いたことの一つはAmazonの配達の早さと商品の質の高さだという。
「2つの書店で売ってあるみたい」
と言うことで買いたかった本は本屋で買うことに。

Not too late: The power of pushing Limits at Any age
ジャーナリストの女性が40代半ばに差し掛かった時にのめり込んだスパルタンレース。いつからでも何かをやり始めるに遅いことはないことを身をもって経験した話の本だ。

今回の旅のもう一つの目的は女性のランナーに話を聞くことだ。
学生を終えてスポーツをやめる、または全く運動をやらないまま大人になる女性は男性よりも多いように思う。一方で40代になっても第一線で活躍する選手、自己ベストを更新している女性の方が多いようだ。
女性向けのランニング指導を始めたのも「女性ランナーの可能性」への興味が大きい。
大学の女子駅伝部の指導の経験からも卒業後にぱったりと走ることをやめる生徒が多いことに気づいた。「自己ベスト、大会での成績」など結果にのみ支えられた練習は達成の可能性が見えなくなった時に崩れやすい。一方で「自身の可能性を模索する」、走る練習を用いたプロセスの魅力に女性の方が惹かれやすいのかもしれない。目標のためのプロセスよりも練習のプロセスへの栄養として使う目標と考えるべきか。
まだ分からないことばかりだが、ランニングの練習のプロセスを楽しむきっかけとなることが見つかればいいと思う。

「レイチェルからの返信。明日は12時に彼女の家の前だって」

明日はキムの友人でプロランナーのレイチェル・クリフとのランニングだ。



日常からの学び、ランニング情報を伝えていきたいと思います。次の活動を広げるためにいいなと思った方サポートいただけるとありがたいです。。