【黄昏時】伊勢屋
良い宿に泊まると、心が洗われませんか。
素晴らしい空間に、素晴らしいスタッフのサービス。
大切な人と泊まるのも良いし、一人で過ごすのも良い。
宿には百人百通りの過ごし方があるから良いと思うんだ
お久しぶりの方も、初めましての方も。
おふろcafé utataneというおふろ+カフェ+ホテルの施設でホテリエをしているぐちこです。今回も宿への愛を綴っていきますね〜。
3月に行った長崎。少し寒かったんだけど、やっぱり夏に行きたいな〜
絶対気持ちいいだろうな〜
伝えたい想い
HPに記載されている宿のメッセージ。
お客様にどんな世界観を体験していただきたいか、どんな過ごし方をしていただきたいかが記されています。僕が思うに、ホテリエにとって、
宿を営む理由が詰まっているもの。
創業寛文九年(一六六九年)より現在に至るまで、
愛され続ける小浜の伊勢屋旅館。
全室オーシャンビューで屋内から海が望める極上のプライベート空間。
自家源泉掛け流し温泉をお部屋でもお楽しみいただけます。
歴史の中で大切に受け継がれてきた
伊勢屋のひとときをこころゆくまでご堪能ください。
すごくシンプル。
でもこの短い文章の中には、
あらゆる人々が紡いできた歴史と、想いが詰まっていると感じるのです。
言葉としては飾っていないのですが、一つ一つの要素が素晴らしすぎて。
それはこの後、記していこうと思います。
そういえば、今まで宿の歴史に関してはあまり触れてきませんでした。
ライフスタイルホテルの先駆けのCLASKAの時くらいかな?
そしてまた、この文章も。
現在では、全国の温泉の中で熱量・温度とともに一位を誇り、町に30カ所もある源泉は温度100度の湯を一日に15,000トンも湧きだしているそうです。
小浜温泉は、全国でも有数の高温泉で豊富な湯量が自慢です。
芯まであたたまる温泉は、生活と密接に関係していることがまた、
小浜温泉の魅力であることと思います。
基本情報を記しているだけかもしれません。でも、最後の二文。
これこそが伊勢屋の魅力だと思いますし、伊勢屋が体現していること、
伊勢屋そのものを表した素晴らしい表現だなぁと思うのです。
人に惹かれて
宿選びの基準は人それぞれ。
誰かの評判や、ランキングではなく、
自らの感性が赴くままに選ぶ人が、
そして選ばれる宿が一つでも増えてくれたら。
実は旅館のホテル滞在記を記したのは、これが初めてです。
旅館って、小さい頃に家族旅行で行った以来。ホテルやホステルと違って、そもそもの価格が高いからこそ学生では行きずらかった....。
そんな旅館に久しぶりに訪れたのは、田中幹人さんがいたから。
田中さんとはそれまで直接面識がなかったのですが、L&Gで働いていた時から、twitter/noteでの発言をちょくちょく追っていました。ブティックホテル論とかは、とても面白い考察なので、是非見てみてください!
そんな田中さんが3月で転職をされて、長崎の旅館に行かれるということをお聞きし、田中さんが転職される宿は、さぞ素晴らしいだろう!ということで今回訪れたのです。
(ちなみに、また新たな挑戦をさせるということでこれも楽しみ....!おめでとうございます!)
人に会いにいくことでホテルを選ぶ人って少ないですよね。
でも、この理由、飲食店ならあり得ると思うんです。
もちろん、料理が美味しいから、あの料理を食べたいから行くのもある。
でも、あの大将と話したいから、女将さんに話を聞いて欲しいから行く人もいるのではないでしょうか。バーはその典型かもしれません。お酒だけに値段を払っているわけではなく、空間そしてバーテンダーとの会話にお金を払っている。
今までは人々のニーズが均一だった為、大規模ホテルが多かったですが、ニーズが多様化している中、小規模でオーナーシップが強いホテルが増えてくると、人に会いに行くためにホテルを選ぶことが増えてくるのでは....
自己表現としてのホテル・そして表現への共感としてのファン=ゲスト。
愛に溢れた選び方が増えてくる社会になったら良いな....
出逢い
宿との出逢いは人との出逢いと同じようなもの。
言葉を交わさなくても、何かを感じることもある。
時間をかけることによって分かることもある。
目に見えないものこそ本当の魅力かもしれません。
小浜という地域は僕もゆかりがあって。
僕の生まれ故郷は福井県です。福井県にも実は小浜という地域があります。かつて、アメリカの大統領がオバマ大統領だった頃、小浜市はその名にちなんでPRをしていたのを、子供ながらに覚えています。
福井県の小浜も長崎の小浜のように海沿いに面した地域で、後ろは山に囲まれている港町。それでも両者が違うのは、温泉か鮮魚かということです。
長崎県の小浜という地域は、温泉がとても有名。古くは713年「肥前風土記」に“高来(たかく)の峰の西南より、温泉の湧出するのが見ゆ”と記されているそうです。高校の日本史で習った以来、風土記という単語久しぶりに聞きました。710年が奈良の平城京ができた年なので、本当に太古の昔.......想像できません笑
そもそもなんで温泉が?というのは、実は小浜という地域は雲仙市に位置しており、火山の雲仙普賢岳と深い関わりがある場所。これも地学の授業以来の単語....雲仙普賢岳は溶岩ドームと言って、粘り気のある溶岩が特徴。だからか、小浜の地形は海の側にすぐ山があり、しかも斜面が急!
温泉が湧き出ているとはいえ、斜面に沿って建物や温泉があるので、管理がとても大変そう.....(温浴施設も併設しているから、特に源泉が大変なのはわかる)しかも湧出量が多いから、他のところにも運んでいるのかな.....そうだとしても、運ぶのも一苦労そう....
今回は長崎市の方から向かったので、途中の田んぼが一面に広がる平野を抜け、山を越えて下った直後に、この街と出会いました。指定された駐車場に車を停めると、すぐ横に足湯が。沈んで行く夕日を見ながら足湯を楽しむと、なんだか時間がゆっくりと流れていくようでした。
車に乗っていたのに、すでに体がポカポカの状態でチェックインすると、
田中さんが待っていてくださいました。
地元の人を大切にする宿
小浜温泉伊勢屋は、硫黄の香りがする温泉が特徴的です。
1Fフロントの向かいには、日帰り温泉が併設されています。
よくある大浴場が一般開放されているのではなく、伊勢屋は日帰りのお客様のためのお風呂です。では、宿泊者の為には....なんと全客室に源泉掛け流しの露天風呂があります!
どうりで客室含めて宿全体が硫黄の香りがするわけです!
そしてレストランも。
宿泊者だけではなく、ランチタイムは一般の方も入れるようになっています。宿の作りを見ると、左手に大浴場、右手にレストランとなっている通路を抜けて、正面の玄関。中に入ると日帰りの人もくつろげるラウンジスペースがあって、右手にちょこっとフロントがあるんです。
ここまでフロントがミニマムな旅館は他にないのでは。そして宴会場や食事処ではなく、外から見えるレストラン・見えなくても外からわかる大浴場(流石に1Fで正面に面しているから外は見えないけれど、日差しや外気を感じられる露天風呂があるよ!)それだけ地元の方と宿泊の方どちらも大切にしているからだと思いました。
暖かさ・温かさ・あたたかさ
旅館での食事なんて何年ぶりだろう。
そんなことを思いながら、レストランで食事をいただきました。
コース料理が始まる前に、田中さんから一言。内容は挨拶とコースの紹介。たった1分ですが、挨拶があるのとないのでは、全然違くて。
自分たちが多くのお客様の中の1組ではなく、
目の前の1組だということを感じさせてくれます。
僕はこの伊勢屋のスタンスがとても好きでした。
ゲストの性別や年齢や予約をどっちが取ったかなど、関係なく、一人一人に対して向き合ってくれる。スマートさはやっぱり自分に合っていない笑
一般的なレストランには、淡々と始まっていくコースもあります。
むしろ予約してない相手はコースかどうかも知らぬまま進んでいくことも。椅子を引いてくれるとか、上着を預かってくれるなどもそう。
逆に入ってくるなり、「おー久しぶりだね」と何も言わずビールが出てきたり、一品サービスしてくれたり。それが親しみやすさだったり、スマートだったり、格式をあげていたり。
まさにサービスは料理と同じでそのお店のスタンスだと感じるのです。
ちょうどいいを感じさせないちょうど良さ
伊勢屋で感じたのはちょうど良さです。
着物やアメニティが自分で選べたり、窓際の机の高さがPC作業に絶妙な高さだったり、ベッドから見える窓の向こうの海の姿だったり、食事内容やサービス。
いろんな側面で、ちょうど良かった。そして何よりそのちょうど良さを感じさせない自然な装いです。うまく設計されているな〜と思ったし、何よりこれは働いているホテリエの皆さんのソフトの力、やろうと思ってというより、日々の姿勢やスタンス、そして人間としてという部分が滲み出ているものなのだと思います。
この淡雪卵も夕日を表しているって聞くと、
もう全然美味しさが変わってきますよね。
この「ちょうど良さ」が歴史ある旅館をリノベーションした伊勢屋の特徴だと感じています。単なるいいとこ取りでも、表面的な変化でもなく、両方の要素が「ちょうど良く」融合しているそんな宿でした。
『NAGASAKI SEA SIDE HOTEL月と海』では西側の海でしたが、
『伊勢屋』は東側、夕日の美しい海です。
両方の景色を観れる素晴らしい宿がある長崎県いいなぁ.......
ちなみに伊勢屋のHPには今日の『日の入り時刻』が書いてあるんです....
その時刻に合わせてチェックインしたり、観にいったり....最高かよ....
最後に。
『伊勢屋』お気に入りの一枚。
そういえば看板って旅館ならではかも。
では、また次の最高の1日で。
ぐちこ。1997年、福井生まれ福井育ち。京都の大学に進むも、大学時代は体育会のボートに打ち込み、大半を滋賀の琵琶湖のほとりで過ごす。地域に関わる仕事がしたいということで、“地域を沸かせ”をミッションにしている株式会社温泉道場に進む。おふろcaféブランドの旗艦店での宿泊業務を担当することでホテルへの関心を強め、月に2回ホテルに泊まる生活を始める。ちなみに『ぐちこ』は中学時代、たった一人だけに呼ばれていたあだ名。
この度はサポートいただきありがとうございます。 少しでも皆様が元気になったり、ためになるコンテンツをお贈りしますので、どうぞよろしく御願いします。わからないことがあれば、いつでもご連絡待ってます!