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書評『子どもの貧困』


 日本の子ども(20歳未満の非婚者)の約7人に1人は貧困状態にある。この著書は2008年のものだが、14年経ったいまでも状況は大きく変わっていない。

 ここでいう貧困とは、「相対的貧困」のことである。衣食住に困るような状態である「絶対的貧困」とは区別される。「相対的貧困」とはある社会の「通常」の生活レベルに達していない状態のことを言う。

 著者は「通常」の基準を、OECDが用いる基準や「相対的剥奪」の概念を援用して定義している。それら基準について詳しく述べることはしないが、重要なのは、約7人に1人の子どもが日本における「通常」の生活を送れていないという事実である。

 貧困は、学力、健康、家庭環境、非行、虐待など、人生のさまざまな場面に影響を及ぼす。それら人生において不利な要素は、子へと受け継がれる。負の連鎖は止まらない。

 この負の連鎖を止めるために、日本を含め世界各国はさまざまな政策を行っている。しかし日本は先進国の中でもGDPに占める教育関連の支出が最低レベルである。家族関連の支出(児童手当、児童扶養手当など)でも日本は世界に遅れをとっている。

 前回紹介した『シルバー民主主義』でも現行の社会保障の脆弱性、不十分さが明らかにされていたが、本書にも似通った記述が見られた。社会保障制度は所得の再分配機能であるが、日本は再分配前よりも再分配後のほうが貧困率が上がるという調査がされている。このような国は先進国の中でも日本だけであり、日本の社会保障制度は低所得層にとって負担が大きいことがわかる。

 「子宝」とはよく言ったものだ。今の日本は子どもを「宝」として扱っていない。家庭、子どもへの支援の不十分さ、教育現場の人手不足など、子どもにまつわる問題は山積みである。本書はそれら問題の一端を「貧困」というキーワードを通して追っていく良書である。

阿部彩『子どもの貧困』岩波新書,2008

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