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遠洋航海がもたらしたハワイ人の巨体

以前から不思議に思っていたのですが、なぜ先住民としてのハワイ人は、身体が大きい人が多いのか?

ホノルル:ワイキキレイア(2022年7月撮影)

これはトンガ人やフィジー人などの他のポリネシア人も同じです。ハワイ人には小錦や曙、武蔵丸はじめ身体の大きさを武器にした力士がいましたし、ラグビーの世界でもフィジーやトンガ、サモアなど身体の大きなポリネシアンたちが活躍しています。

日本相撲協会HPより

一般的に動物学の世界では「バーグマンの法則」というものがあって、これは我々ホモ・サピエンスにも当てはまります。バーグマンの法則とは、

これは熊とか鹿などの地球上の比較的広い地域に生息する動物を見た場合、寒い地域に住む集団ほど体が大型化に傾くという現象である。

「ポリネシア人」片山一道著:150頁

現代の日本人でも同じ。以下20年の平均値ですがおおよそ東北の人は背が高く、九州や沖縄の人は背が低い。

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西洋でも、例外はありますが総体的に北欧人やロシア人は背が高いし、南欧人は背が低い。中国人でも東北地方の人は背が高い人が多いし、広東などの南の人は総じて背が低い。

動物学的には、身体が大きいほど保温効果が高く寒さに強いので北方人は背が高くくて身体も大きく南方人は背が低くて身体は小さい。肥満な方がよく薄着していますが、これは皮下脂肪が多い関係で痩せぎすの人よりも寒く感じないから。

バーグマンの法則は、この原理が遺伝的に人間含む動物の身体的特徴となって現れているのです。

では南北の回帰線内に住む(ニュージーランド除く)、つまりポリネシアン達は南の熱帯または亜熱帯に住む人たちなのになぜ「バーグマンの法則」が当てはまらないのでしょう。

ハワイ人は、その起源は我々と同じモンゴロイドで、元々は台湾あたりに住んでいた人々が5000年ぐらい前に南下し、東南アジアに移住してそのうちの海洋に進出した人々(ラピタ人という)が、遠洋航海の術を身につけてポリネシアの広大な太平洋を渡ってその島々に移動し、タヒチあたりからハワイ諸島に移住してきたといいます(1700年前ー1000年前)。

「こだわりアカデミー」片山一道氏

つまりポリネシアンは海洋民族であり、海洋民族に適した身体的特徴は寒冷地に適した身体的特徴と同じ特徴を示すのはなぜなんだろう、ということ。

それは

「寒さや飢えに強くないと遠洋航海できないから」

そして遺伝的には「倹約遺伝子を持っているから」です。

ダイビングやサーフィンをやる人は経験済だと思いますが、

「水は空気よりも約25倍もの速さで熱を伝える」

ので水に浸かるとあっという間に体温が奪われます。なので長期間水に浸かるダイビングやサーフィンではウェットスーツやドライスーツが必須です。

しかし、これは遠洋航海でも同じ。ポリネシアン達は海が荒れれば長期間、水に浸かった状態になり、体温が急速に奪われてしまう。なので寒冷地に住む人たちと同じように身体が大きくないとあっという間に低体温症で死んでしまうのです。

さらに長期間、水も食べ物もない大海の中で生活するので、1ヶ月以上の水・食糧を積んでいたという彼らの船(ダブル・カヌー)でも、食料が尽きたときにどれだけ生きながらえられるか、が生死の分かれ目となります。

ダブルカヌー「ポリネシア人」片山一道著210頁

(ダブルカヌー「ポリネシア人」210頁)

つまり寒さや飢えに強い身体を持ったものだけがポリネシアンとして絶海の孤島に移住できたからです。

すでにハワイ人は遠洋航海しなくなって相当な時間が経ってはいるものの、いまだに遠洋航海していた海洋民族としての遺伝子が残存しているので、アメリカ式の食生活になれば、元々背が高いのに加え、倹約遺伝子が活躍して、あっという間に太ってしまうのです。

なので、小錦や曙のような重量系力士を輩出。

ハワイの伝説的な歌手「イズラエル・カアノイ・カマカヴィヴォオレ」もその肥満体型が仇となって、38歳で死去。

ポリネシアンは、長距離航海に適した特異な遺伝子を、その歴史上の経緯から今でも保持しているのですね。

*写真:オアフ島ラニカイビーチ(2022年7月撮影)


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