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生物に世界はどう見えるか「昆虫&鳥」編

引き続き「生物に世界はどう見えるか」からの知見。今回は昆虫と鳥類。

⒈昆虫編

昆虫に世界はどう見えているのでしょうか?

昆虫は、動物界150万種のうち、その4分の3を占め、種類と数量に関しては最も繁栄している動物(重量ベースでは哺乳類)。

昆虫の生き物フローは、全て本能によって司られています。高等哺乳類のように学習する機能がないため、生まれながらにして、その高度な行動を制御(特にアリやハチなどの社会性昆虫)。本書では主にミツバチを対象に昆虫の世界を説明。

⑴赤い色は、昆虫にはみえない

(アゲハチョウ除く)

人間などの類人猿は、哺乳類の中で数少ない「赤い色」を識別できる動物ですが、これは赤い果実を判別できる方が生存に有利だったから。

一方で植物の側からみると、赤い色が識別できる動物は、主に鳥類。例えばツバキの花が赤い色をしているのは、鳥類に花粉を媒介してもらう一方、蜜を取られる昆虫には近寄ってほしくないから。つまり赤い花をつける植物は、鳥類が好きで昆虫は嫌いなのです。

そうすると私の勝手な想像ですが「ハチミツの元となる植物の花には赤い花はない」ということになります。リンゴ、クローバー、アカシア、レモンなどが有名ですが、確かに赤い花はないかもしれません。

⑵アリやハチは、太陽と月の偏光を利用して経路計算

アリやハチは、自分の巣に戻る行動をとりますが、どうやって巣に戻るかといえば、昼行性は太陽、夜行性は月の発する偏光をコンパスとして用いるらしい。偏光とは振動の方向が揃った光。自然光は進行方向に直角に振動しているので、これで自分の位置を測っているという理屈。

街灯などの人工の光に昆虫が集まってきてしまうのは、人工の光の光源が偏光ではないから。並行になるように飛ぼうとすると、光源の周りをグルグル螺旋状に飛んでしまい、最後には光源に衝突してしまうのです。

⑶匂いと紫外線によって花を探索し、その場所を共有

ミツバチは、匂いや匂いの飛んできた方向(風)を感知することで、おおよその場所を特定し、オシベ・メシベが密集したあたりから発している紫外線を見ることによって花の蜜のありかを特定。場所を特定したら帰巣し、八の字ダンスによってその場所の方向と距離を他のミツバチたちと共有化。この間、餌場を見つけたハチは、一時的に餌場の方向と距離を記憶しています。

あとは自然光に基づく経路計算によって、同じ蜂の巣に住むハチたちは、特定された花の場所に繰り返し蜜を取りに出かけられるようになります。

以上の他、変わったところでは、サバクアリは自分の歩いた歩数をカウントして距離を計算しているらしい。

⒉鳥編

鳥類は恐竜の子孫。一般に恐竜は絶滅したということになっていますが、実は絶滅していなくて、鳥類として今に生き残っているのです。鳥も人間の能力とは全く異なる特殊な能力を保持することで、この世を謳歌しています。

鴨川シーワールドにて

⑴渡りの機能

特に驚異的なのは(人間からみて、ということですが)、渡りの機能。鳥類1万種のうち、半数は渡りをするらしい。

最長の渡りは、キョクアジサシ。北極と南極を行ったり来たり。
最高の渡りは、アネハヅル。  標高8000メートルのヒマラヤ越えをします。

渡りをしない鳥のうち、ハトも遥か遠くから自分の巣に戻れる能力を持っています。この能力を活用したのが伝書鳩。第二次世界大戦の時には軍事情報の通信機能の重要な役割を担ったといいます。

⑵動物の中で最も発達した目の機能

人間も目の機能は「赤色が見える」という点で優れていますが、鳥は、人間の見える可視光線全てに加え、紫外線も見えます。

鳥=4原色、人間=3原色、大半の哺乳類=2原色

しかも鳥は目の中に油滴のフィルターを持っていて、このフィルターを活用することで6原色が見えるのと同等の能力を持ちます。

遠距離についても、ワシなどは目の正面に望遠機能を持っており、網膜の中で光受容細胞が100万個も集中していて、光を屈折させて6倍ー8倍ズーム。

千葉県いすみ市にてトンビ(2020年撮影)

視界も広く、人間の視野は180度ちょっとですが、鳩は300度、ヤマシギは360度。

⑶どうやって渡りをするのか?

渡鳥はその季節になると、渡りをしたくてしたくてたまらないむずむずした感覚になります。

鳥籠に入れられた鳥は、渡りの時期になると鳥籠に身体をぶつけて暴れ回る。部屋に閉じ込められた鳥は一定の方角に向かって飛ぼうとして何度も壁に頭をぶつけてしまう。

本書154頁

また

鳥によっては渡りの前には脂肪の蓄積によって体重が2倍にもなる。日照時間が時期を示し、体内の脂肪が一定量だけ蓄積されると、鳥の体内でホルモンが放出される。これが渡りへの衝動を生み出すことになる。

本書153頁

生物の目的は「生存」と「繁殖」ですから、渡りの目的は「餌を得るため」「過ごしにくい季節を回避するため」「天敵のいない安全な環境で子育てするため」となります。季節と場所の組み合わせで最適な場所は1年を通じて異なっており、常に最適な場所で過ごすために「渡り」をするのです。

渡りの本能は、飛んでいく方角と時間が先天的に刻印されており、あとは群れの行動の中で、学習します。

渡りの季節になると、上昇期流が発生して視界の良いタイミングの時に、群れは一斉に飛び立ち、地磁気(おおよその方角)・低周波(大気の流れや海洋の波を感知)・視覚(昼は太陽、夜は星)・体内時計を活用して、新たな目的地に向かいます。

特に地磁気の感知は、長距離移動をする動物(回遊魚やクジラなど)の多くが活用しており、重要な信号らしい。

南アフリカ ケープ半島のセミクジラ(2008年撮影)

このように鳥は、視覚だけでなく、人間の能力をはるかに越えたさまざまな信号を取得することで、渡りを実現しているのです。

度々登場の鳩は渡りをしませんが、鳩を麻酔して眠らせて運んでから放しても、ちゃんと自分の巣に戻るそうです。眠っていても体内時計と羅針盤(地磁気などを感知する器官)は働いているかららしい。

南アフリカ ベティーズベイのケープペンギン(2008年撮影)

⑷書き換え可能な記憶装置

以前紹介したホシガラスの事例。

ホシガラスは、何平方キロメートルもの範囲の何百という場所に松の実を2万個以上隠して、その大半を見つけることができますが、本書によれば、これは記憶装置としての脳の部位「海馬」の書き換えすることにより一時的に大量の記憶を保管できるから。

人間の場合は、一旦記憶して海馬に記憶が刻まれると、ずっと覚えていますが鳥の場合には人間ほど海馬の容量が大きくないので、毎年「海馬」をアップデートするらしい。

(鳥の)記憶を司っているのは海馬だ。これは哺乳類と同じである。食料を貯蔵して後で取り出すという行動をとる種は、その行動をしない種よりも海馬が大きく発達している。

本書157頁

しかし鳥の脳は小さくて限界があるので、1年に1回記憶を書き換えることになった。次の年の秋が来ると新しい木の実がなって前の年の記憶は不要となる。このため鳥の海馬は10月ごろになると急速に更新が進んで、毎日2%の細胞が死んではまた新しく誕生し、新しい海馬ができていく。こうしてほとんどの記憶がリセットされてしまうものと考えられる。

同上

なので鳥は人間同様、一夫一妻制なんですが、毎年記憶がリセットされてしまうため、年が変わるとまた新しいパートナーを探します!!

上野動物園のハシビロコウ(?撮影)

鳥は「卵を温めるのは子供が可愛いからではなく、卵が温かくて気持ちいいから」だとか「言葉の理解は類人猿と同等レベルのオウムがいる」だとか、非常に興味深い動物種。

別個、鳥に関する勉強をしてもタイヘン面白いのではないかと思った次第です。

*写真:ケープペンギン(南アフリカ ベティーズベイにて)

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