「ハワイの歴史と文化」矢口裕人著 書評
<概要>
ハワイの歴史と文化について、先住民・移民・戦争・観光をキーワードに日本人&日本移民&日系人の歴史を主語に紹介した新書。
<コメント>
世界的なパンデミックも落ち着きつつある状況下、3年ぶりの海外旅行に、まずはお手軽なハワイを選択。
ハワイはお手軽といっても生物学・歴史学・地理学など、あらゆる学問において特質すべきことが多い注目のエリア。
今回は9年前の初ハワイの時に読んだ本書。改めて再読
ヒルトン・ハワイアンビレッジよりホノルルの街並
タイトルは「ハワイの歴史と文化」ですが、ハワイに移住した日系ハワイ人の歴史に重点がおかれた本。そのため、我々日本人が読むと、日系人の視点でハワイの歴史を学ぶことができるようになっています。
一方で、本書が外国語訳されてこのタイトルのままで他の国の人が読んだら、大変な違和感を感じるような本です。内容に沿ってタイトルを見直せば「日本からみたハワイの歴史と文化」か。
最初(3〜7世紀)にハワイ諸島にやってきたホモ・サピエンス=ポリネシアン系先住民のことについてもっと深く知りたい人にとっては、やや不満な内容に思えますが、日本人向けに書かれた本なのでこれはこれでいいとは思います。さてざっと以下整理。
■西洋文明がもたらした、カメハメハのハワイ統一
ポリネシアン系の次にハワイにやってきたホモ・サピエンスはアングロ・サクソン系、つまりキャプテン・クックたち。1778年だからポリネシアン系が移住してその後おおよそ1000年後にやってきたわけです。
クックの航海以降、鯨油を確保すべく日本近海はじめ太平洋中を西洋の船(=捕鯨船)が行き来し、鯨たちを根こそぎ乱獲していたのですが、その補給拠点としてハワイ諸島は最適だったのです。
クック来航以来、諸国の王(アリイイヌイワイ)が群雄割拠していたポリネシアン系国家は、西洋人に「白檀」を売って西洋の最新武器を積極的に手に入れた王「カメハメハ」が、軍事力&統率力を発揮し、一気にハワイ諸島統一(1810年)。
特にカメハメハの息子(カメハメハ二世)の代に実験を握った妻カアフマヌは、西洋文化に同化すべくキリスト教に入信するなど徹底した西洋化で他勢力を排除。政権にも多くの西洋人を登用するなど、西洋化によって王国を維持する政策を採用。
しかし1893年に王国は西洋人資本家によるクーデターによって共和国化し、最終的には(1898年)にアメリカに併合され、結局統一王国は88年という短い期間しか存在しませんでした。
■西洋人資本家の巧妙な移民政策
奴隷ではなく移民を受け入れて移民を促進したのが、サトウキビのプランテーション。
カメハメハ許可の下、西洋人は土地を私有し現地人を労働者として使おうと目論んだのですが「侵略すれば感染症で現地人は大量死」という新大陸同様、現地人は激減。
そこで当時であれば、奴隷を連れてくる所ですが、ハワイではサトウキビ栽培のための移民労働者受け入れ促進。移民受け入れにあたっては、中国人や日本人、フィリピン人、朝鮮(韓国)人などのアジア系がメインだったものの、ドイツ、ノルウェー、スコットランド、プエルトリコからも移民を受け入れるなど、民族集団をあえて多様化。
多民族化させることで、民族ごとの内集団バイアスを活用して競わせ、分断させて労働運動やストなどの対資本家に対する敵対行動を弱体化させたのです。
■ハワイ日系人の波乱万丈の歴史
ハワイの日系人は、日本の移民促進政策もあって、1885年以降、広島県・山口県・熊本県、そして沖縄から多くの人が移住。特に山口県の周防大島では島民の三割が移民したといいます。
1920年にはハワイ人口の40%(220千人)が日本移民に。
白人についで人口が多い日系人は、日本軍による真珠湾攻撃後、アメリカ本土の日系人同様収容所に入れようにも人数が多すぎて収容所に入れられませんでした。
しかし彼らのナショナルアイデンティティは、(日系一世だけは米国籍が取得できなくても)明らかに「アメリカ人」であり、日本人ではありません。
それでもルーツは日本であり、日本の真珠湾攻撃に対してローレンス・サカモトは、
アメリカ軍がハワイの日系人1500人を兵士として募集したところ、1万人も応募し、この結果2700人が入隊。その後増員しつつ、そして日系人部隊442連隊は最も危険なヨーロッパの最前線に送られ、その勇猛果敢さで伝説となりました。
一方で、総勢7500人中700名戦死、700名が手足を失い、1000名が重傷を負うなど、その代償は大きかったのです。
現在、ホノルルの空港は日系二世上院議員ダニエル・イノウエの名が冠せられていますが、彼はヨーロッパ戦線で右腕を失って医者を諦め、政治家になった方。
以上の他、戦後日本人のハワイ観光におけるその位置付けなど、観光に関する記述も多いのですが、やはりハワイ日系人の波乱万丈の歴史に一番関心を寄せざるを得ない著作でした。
*写真:ワイマナロビーチ
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