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内集団バイアスと共進化「ブループリント」より

引き続き「ブループリント」からの知見をメモる。

■友を作れる能力には必ず敵もついてくる

内集団バイアスが強ければ強いほど、敵への憎しみも増幅するというのは、脳科学で勉強した「愛と憎しみは扁桃体という脳の部位のサイズに関連している」によく似ています(以下ブログ参照)。

著者曰く。
人間が他者に対して親切であるためには、「われわれ」と「かれら・かのじょら」を区別していなくてはならないらしい。愛の深い人は、憎しみも深いということ。愛と憎しみは表裏一体といいますから。

上のブログでも展開したように、本書でも「ヘンリ・タジフェル」「ロバーズ・ケイブ」の有名な実験が紹介されています。自分の属する集団は、きっかけさえあれば何でもよいのです。でも一旦集団になったら、内集団バイアスによって仲間意識が強くなり、同時に外集団を敵視する傾向が強くなります。

そこで著者は、外集団との競争がなくても内集団バイアスと協力が生じるかどうか、共同研究者と数理モデルを使って評価したところ、

「個人が帰属する集団を変えられるかどうかに尽きる」

としています。

集団を固定化せず、流動的にしておくことが、昨日の敵を今日の友に変えることができるといいます。

これは「あらゆる価値を認めよう」というような多文化主義というよりも、個人が個別に複数の価値観を保持したり、乗り換えたりするようなイメージ。哲学者千葉雅也の「脱コード化」に近い感じではないでしょうか。

■遺伝と文化は相互に影響しつつ環境に適応していく「共進化」

遺伝は、外的環境に合わせて選択圧がかかりますが、一方で人間の場合は「文化・文明を蓄積し、学習し、活用する」という能力によって、遺伝に頼らずに外的環境にマッチさせる能力も備わっています。

そしてその能力がまた遺伝にも影響する(「共進化」という)、というように他の生物とはまた違ったより環境適応的に優れた特殊能力を持つがゆえに、あらゆる選択圧にも耐えうる強靭な種ともいえます。

例えば
①農耕の発明
でんぷん食料の摂取を増大させ、でんぷん食料をより摂取しやすい体質の人間を増やす(=アミラーゼなどの酵素をコードする遺伝子を保持)

②牧畜の発明
牧畜が盛んになる → 肉だけでなく乳も飲める人が生き残りやすい → 大人になっても乳が飲める→ラクトーゼをコードするLCT遺伝子に突然変異が起こった(=大人になっても乳が飲める)人が増える

最終章で著者は

全世界の人間は皆、ある一定のタイプの社会を作るように最初からできている。それは愛情と友情と協力と学習に満ちた社会である。

と訴え、生物学的には生来人間は善なる生き物で協力的である以上、(難破船の事例のように私利私欲に溺れて全滅する集団はあるものの)総体的には今後も「人間の未来は明るい」としています。

著者の場合「善」の概念は社会性一式全般のこと。

大雑把にいうと「みんな仲良くして気持ちの良い社会を作りましょう」というのが著者のいう「善」。そして人間の「善」はあらゆる環境の選択圧の結果遺伝子に組み込まれた「人間の本性」であるとしています。

巷では陰謀論など、科学に対する信頼が揺らぐ現象も多発していますが「科学的に人間の本性をきちんと認識した上で、我々はどう生きるのか?」探っていかないといけないな、と改めて再認識させてくれた良書でした。

*写真;2019年 ニュージーランドの南島テカポ湖 マウントジョン展望台

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