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専業主婦は2億円損する『2億円と専業主婦』橘玲著 読了


<概要>

2億円損する専業主婦ではなく、好きな仕事を見つけて(できればフリージェントで)生涯現役で働き、独身ならソロリッチ、結婚なら共働きを選択して、幸せに生きようと提言した著作。

<コメント>

最初に、本書の内容が当てはまる女性は、稼ぐ能力の高いであろう優秀な大卒女子か、専門的能力の高い女子だけ、です。

いったい日本人女性、約6,000万人のうち、どれだけ本書にマッチする女性がいるか、は私は知りません。

加えて、本書で懸念されている大企業メンバーシップ型雇用が該当する人は、日本人全体の26%程度しかいない、ということも知っておくべきでしょう(残りは地元型36%、残余型38%、詳細は以下)。

それでも上記に該当する女性なら、著者の主張はドンズバな主張で、特に優秀で上昇志向の強い今の女子高校生・大学生なら必読の著作だと思います。

そして今どき本書のような真っ当な著作を真面目に読んでくれそうな女子も、本書内容に該当する優秀で意識高い系の女性陣ぐらい(と残りの一部男性)でしょうから、マーケティング的には正しいアプローチなのかもしれません。

(ちなみにAmazonで初版電子書籍限定で期間限定無料にしたらダウンロード数1位になったとのこと)

さて、興味深い内容をいつも通り整理。

⒈専業主婦は2億円損している

本書のタイトルともなっている問題。著者自身は大卒女子の退職金込み・定年後再雇用賃金込みの3億円にしたかったそうですが、編集者から反対されて2億円に減額したそう。

一言で言うと大卒女子は働かなくなることで、2億円稼げるのに稼げなくなってしまっている、ということ。

とはいえ、大卒女子は女子全体の50%で、うち大卒女子で専業主婦経験者は、30%程度だから、合計2億円失う可能性のある女性は、日本人女性全体の 15%しかいません(ご参考:高卒女子生涯賃金1.5億円、短大・専門卒1.8億円)。

したがって、このあたりの数字のマジックにも注意すべきでしょう。

ちなみに著者もご指摘のように「専業主婦」という職業?は、世界の歴史的にも地理的にも、超レアな職業です。

近代社会以前の先進国および現代の発展途上国は、ほとんどが農民で共働きですし、さらにその前の原始狩猟社会も共働き。専業主婦という職業が一定の量で存在しているのは、現代の一部の「遅れた」先進国だけだからです。

なお本書では

「専業主婦のいる核家族」というのはわずか200年ほど前に登場した極めて特殊か家族制度です。それ以前の数百万年は、母親はずっと働きながら子供を育ててきたのです。

本書プロローグより

とのことですが、若干内容が誤っています。

生物学的にはヒト属(人類なら700万年前〜、ホモ・サピエンスだけなら20万年前〜)の子育ては「母親が育てる」というよりも、所属する社会集団全員が育てる、と言った方が正しい(ジャレド・ダイアモンド『昨日までの世界』)。母親だけで育てるようになったのは、近代先進国の一部の期間だけです。

⒉「いまの日本に生まれた」と言うだけで、とてつもなく幸運

全く同感です。ホモ・サピエンスが20万年前に誕生以来、今の日本ほど幸福な場所は、そうそうないと思います。

著者の「幸福な人生」は以下の通りで、この内容に反対する人はほとんどいないのでは、と思います。あえて個人的に付け加えるとすれば、以下の大前提としての「健康」と「平和」ぐらいか。

幸福な人生とは、
1 好きなひとと愛し合い、そのひとと家庭をつくる
2 独身なら、好きな家族や友だちに囲まれて暮らす
3 好きな仕事をして、みんなから感謝されたり、ほめられたりする
4 好きな洋服を着て、好きなものを食べ、人生を楽しむ

本書第2章

海外に行って地理的な外の環境を体験しても、歴史を学んで、過去の世界の状況を把握しても、というかそれらを知れば知るほど、いかに今の日本が著者の「幸福の定義」を叶えられる可能性が高い環境にいるか、実感できます。

幸福とは、自分が好きなように生きることです。これを「自己決定権」といいますが、ようするに「自由な生き方」のことです。

同上

まさにルソーの考え方と同じで「人間は生まれながらに自由」であることが自然状態です。これは普遍的価値観と言っても過言ではありません。

この観点からみても「経済的自由(自立)」がいかに大切か、が理解できると思います。お金持ちと貧乏人の違いは自己決定権の違いです。著者によれば、貧乏になると嫌なことに費やす時間が増え、お金があると、より多くの時間を自分の自由に使えるようになる、というのも納得です。

著者曰く

幸福とは自由(自己決定権)のことであり、そのためには経済的に独立していなければならない。

持ち家と1億円の貯金があれば「なにがあってもとりあえず生きていける」

同上

さて、この考え方を専業主婦に当てはめるとどうでしょう。

専業主婦は経済的に生活のすべてを夫に依存しており、離婚すれば、あっという間に「経済的自由」は喪失します(巨額のへそくりがある人は除外)。つまり自分の幸福を完全に夫に依存しててしまっているのです。これほどリスキーな人生はありません。しかも今の夫婦は三組に一組が離婚するといいますから、本当に危険な職業です。

(それでも不思議なのは、いまだに専業主婦になりたい女子が多いことです。本書対象外の優秀じゃない女子はこっちを選択する、ということかもしれません)

⒊人生の八つのパターン、目指すべきはどれ?

著者は、人生は「三つの資本の充実度でパターン化できる」といいます。

⑴社会資本(絆)

人間関係のこと。充実した人間関係がどれだけ充実しているか、によって人の幸福は左右されると著者はいいます。つまり愛情や友情が人を幸福にする、というのが社会資本。

⑵人的資本(働くちから)

自分の稼ぐ能力のこと。日本人の平均年収は約430万円ですが、同800万円までは、幸福度と年収が比例関係にあるというのが心理学的な定説(800万円を超えると「限界低減の法則」が働いて年収増分ほど幸福度が増えなくなる)。

ちなみに年収430万円の人的資本は、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の2021年ポートフォリオによる過去20年間の実績(年利回り率5.9%:マイインデックスで試算)に鑑みると、金融資本換算で7,300万円の金融資本と同等の価値があります。

言い換えれば、7,300万円の金融資産を、GPIFポートフォリオで運用すれば、平均年収分の収入が得られる可能性がある、ということです(もちろん20年実績通りにはいかないかも、なので、あくまで可能性です)。

⑶金融資本(お金)

金融資産のことですが、不動産などを加えてもいいと思います。つまり自分がどれだけ現金、株などの金融資産や土地建物を保有しているか、ということです。

上の三つの資本をもとに「人生のパターン→幸福の類型」を整理した表が下表。

自作

どれか一つでも充実していれば、人間は幸福度が上がるのですが、特に重要なのは「人的資本」で自分がどれだけ稼げるか、によって幸福度は大きく左右するといいます。

⒋「仕事」の3区分とは?

著者によれば就業者は、⑴クリエイター、⑵スペシャリスト、⑶マックジョブ(バックオフィス)の三つに区分できるといいます。

⑴クリエイター

創造的な仕事に従事する人たちで、芸術家、タレントはもちろん、起業家・事業家などもクリエイター。

⑵スペシャリスト

国家資格などを保有した専門家集団の人たちで、弁護士、建築家、医者など。

⑶マックジョブ

マクドナルドのアルバイトのような時間給で働く単純労働者。

なお、上述したように日本の雇用の一部(26%)は、上記三つのどれにも該当しません。

著者によれば、メンバーシップ型雇用の正規雇用従業員=サラリーマン(&サラリーウーマン)は三つの区分のうち「スペシャリスト」と「マックジョブ」の間を行き来するような存在。

私の考えでは、レアな存在であるクリエイターをあえて区分するのはどうか、と思う一方、スペシャリストを、マネジメント型(管理職)・スタッフ型(専門職)に2分しつつ、加えてマックジョブ型(単純労働)の3区分で分ける方がわかりやすいようには感じます。

そして著者は、日本の雇用の問題は、

▪️メンバーシップ雇用で仕事内容や仕事場所が会社任せで一生続いてしまうこと
▪️身分制度としての正規雇用正社員と非正規雇用社員に分かれていること

としていますが、これも26%の人と大企業に勤める非正規雇用の場合のみ

転職が当たり前の地方労働者や都会の中小企業に勤める人たちなど、は対象外なので、もうちょっと深掘りしても良かったかな、とは思います。

⒌恋愛と結婚と出産の間の大きなギャップ

テレビ局の女は結婚できない」とし、実際の彼女たちの生涯未婚率は77%。そして「できない」のではなく「しない」のが真相らしい。

本書

でも、日本でもトップ10に入るぐらいの女性活躍企業に30年間勤務してきた自分としては、納得できるエピソードです。というのも、どれだけ育休制度・復職制度が充実していても、優秀で上昇志向の女性にとっては、結婚や子育てよりも、仕事してる方が充実していて楽しいから結婚しないのです。

一方で私の実感では不都合な現実があって、育休制度・復職制度などを最大限活用する女性の多くは、定年まで働きつつ、出世や責任ある仕事には興味のない「安定志向の人たちが多い」ということ。

でもこれって当たり前ですよね。

優秀でない人の方が圧倒的多数派ですし、多くの大企業は出世すればするほど責任は重くなり、仕事もキツくなる反面、たいして給料も上がらないのですから。

これは給与の国際比較をみれば一目瞭然ですが、日本は管理職の給与が低すぎ、逆に一般職の給与が高すぎるのです。なのでよっぽど優秀で出世志向で仕事が楽しい人以外は「安定志向」を選択するのです。

もっというと、正規雇用の管理職や非正規雇用は安すぎて、正規雇用の一般職は高すぎる。これが日本雇用の給与構造です(だから大企業の組合は問題あり)

なお、本書によれば働き方と結婚の関係について整理すると以下。

(1)男性の正社員はどの業種でもまんべんなく結婚している
(2)女性の正社員のうち、マスコミ、広告、IT系は生涯未婚率が高い。電力・ガスなど給与が高く安定している会社の女性も3人に1人は結婚しない
(3)男性の非正規社員は、4割が結婚していない
(4)女性の非正規社員は、ほとんどの業種で10人のうち9人以上が結婚している

本書第4章

上記のうち

⑶はよく言われる「給料が低い男性は結婚したくてもできない」という現実

⑷は主語が逆で「女性既婚者が、非正規雇用を選択している」と言った方が良い。

⒍それでもジェンダーの将来は明るい?

先日、寿司屋でなにげに会話したご夫婦の話は興味深かった。このご夫婦には三人の息子がいて、三男坊の幼稚園児の親と、小学高学年の長男坊の親とでは世代間ギャップが大きい、というのです。

具体的には今の幼稚園児を子に持つ世代の親(3035歳代?)は、ほぼ共働きで家事子育てもほぼ男女平等だといい、小学高学年を子に持つ親世代(3540歳代?)は、まだまだ家事・子育ては母親の負担の方が重い、とのこと。

もしこれが「サンプル1」ではなく、日本社会の縮図だとすれば、日本もあと何年か経てば、北欧のように男性も女性と同じ程度に家事・子育てする時代が来るのかもしれません。

(ただし少子化問題に関して、日本の場合は、まやかしの「日本の伝統」が邪魔して婚外子がネガティブなので、北欧やフランスのように劇的には改善することはないでしょう)

*写真:ジェンダー平等最先端?のノルウェー(2018年撮影)

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