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追われる国の経済学 リチャード・クー著 書評


リチャード・クー氏の書籍は通読していますが、本書はこれまでの主張に加え「バランスシートがキレイになった後の状況についての解説が新たに加わったこと」、更にその処方箋、そして貿易不均衡に関する資本移動の制約提言が加味された。バブル崩壊以降、各エコノミストの主張(リフレ派、構造改革派など)をずっと追っかけてきましたが、結局クー氏の理論が一番説得力があったという印象です。

これまでのクー氏の主張は、バブル崩壊以降の民間企業が借金返済している場合には「金融緩和をやっても効きません」ということで、日本の後に不況に陥った欧州や米国の不況に対する処方箋も、日本と同じ「追われる国」の不況対策と同じく「バランスシート不況」として、その処方箋を実際に使ったのが米国、使わなかったのが欧州ということになっています。

以下、本書に基づくエコノミストの当時の提言を整理してみました。

◼️リフレ論

インフレターゲットを設けて、マネタリーベースを増やせばマネーサプライは増え、銀行貸出も伸びてお金は循環し景気は良くなってインフレも起きる。

→日本はこの政策でマネタリーベースを増やしているが一向に銀行貸出は伸びない。借金するほどの投資に見合う案件(貸すにはリスクが大きすぎるなど)が国内に十分存在しないのでいくらお金を増やしても意味がない。

◼️構造改革論

国家の財政支出は極力減らして、徹底的な規制緩和によって競争環境を整え、民間供給サイドの生産性やイノベーションを重視して景気を浮揚する。

→その通りだが、不況で誰もお金を使わない時に最後の借り手である国が支出を抑えてしまっては更に不況になる。構造改革は経済が正常化して以降実施すべき。

◼️バランスシート不況論(クー氏の主張)

バブルが崩壊すると民間企業は株や不動産などの保有資産価値が激減してしまって企業が過剰借金状態に陥ってしまうため、儲けたお金を借金返済に回すのに必死で新たな投資に向かわない。だからこの間は政府が借金してひたすらお金を使って経済を回すしかない。

(1)戦前の世界

1929年の大恐慌以降の復活事例が興味深い。第1次世界大戦での敗戦国となったドイツも、ナチスドイツによって徹底した財政政策が行われ(アウトバーンなど)、景気が回復してナチスを暴走させるきっかけとなった。イギリスやフランスなどの戦勝国は、結局第2次世界大戦開戦で国家が莫大な借金をして戦費を使ったことで景気が良くなった。「戦争が財政政策」ということ。

この時代までは自由貿易体制ではないため、領土を増やす政策=帝国主義によってしか経済成長できなかったというのもとても説得力がある。

(2)戦後の世界

戦争の痛みが少ない米国が自由貿易体制を構築し、米国自ら市場開放することによって敗戦国の日本や西ドイツの経済成長が達成されたのは間違いない。中国も米国が戦後構築した自由貿易体制の恩恵を受け、米国に輸出することで経済成長してきたが、今は米国にとっては「中国から恩を仇で返される状況」。

もう米国に頼って経済成長する手法には限界がきたのかもしれない。日本の場合は資本収益率の高い外国への工場進出などの投資によって国内に利益を還元している状況が大半のため、米国の方針転換も一部農産物以外あまり影響はないかもしれない。

(3)今の日本

既にバランスシート不況は終わったので、民間は新たに借金をして投資に向かうはずだったが一向に借金せず、というか内部留保ばかり積み上げてお金を全然使わない。民間がお金を使わない限りお金は循環しないので、引き続き政府が借金してお金を使い経済を回していくしかないのが今の日本の状況。

この結果、積もり積もって1,000兆円以上の公的債務はあるものの、日本全体の金融資産は7,833兆円なのでまだだいぶ国全体の余裕はあります。しかし日本は資源国ではありません。ほっといても石油がジャブジャブ出てお金が稼げるような国ではありません。

国全体の余裕があるうちに、投資に見合うリターンを望めるイノベーションが生まれない限り、日本は衰退していくのみ。

◼️日本の今後の展望

クー氏も主張するようにイノベーションを起こすのは「人」。米国は、リベラルアーツ(権威から人間の知性を解放する闘いから生まれた知恵:本書第5章より)をベースにしたエリート教育の徹底や魅力ある教育環境と、積極的移民政策によってイノベーターを創造。

イノベーターが存分に活躍できるよう、レーガン大統領時代に始まる徹底的な規制緩和と労働組合などの既得権益の排除等で投資環境を整備し、最終的に徹底して成功者を優遇することで、不断のイノベーションを生み出しています。

この結果、世界をリードしているのはGAFA、つまりGoogleのペイジ(半分ユダヤ系)&ブリン(ユダヤ系)、Appleのスティーブ・ジョブス(半分アラブ系)、Facebookのザッカーバーグ(ユダヤ系)、Amazonのジェフ・ベゾス(デンマーク系)。そうです。みんなアメリカ人です。

以上、イノベーターの育成と活躍の場の提供、そして彼ら彼女らの徹底的評価(金持ち優遇)が、今後の日本にとっては最も必要だということです。

*写真:アメリカ合衆国 ニューヨーク タイムズスクエア


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