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欲望論 第2巻「価値」の原理論 竹田青嗣著

第1巻含む「欲望論」は私のとってのメートル原器です。

今のところこれ以上納得できる論理に出会ったことはありません。今後はすべて欲望論の考えをベースに物事を考えていきたいと思います。したがって第1巻、第2巻とも大著ですが、今後も何か考えに迷った時に必ず読み返すことになると思います。

第2巻も550ページに及ぶ大作。著者の展開する現象学の手法に基づいて真善美の価値観について論じたのが第2巻の内容。先人の知恵も拝借しながら、著者独自の論を展開。「価値観はどのように形成されるのか?」という問いについて、見事な形で答えたのが本書。竹田現象学を勉強している方にとっては、結論は「まさにこうなるな」と納得できる内容です。

人間社会における真善美の価値審級は、人間が形成する集合的言語ゲームから、このゲームのうちでのみ現れ出、成立し、維持される。人間的言語ゲームは、関係的な禁止と約束の体系であり、また多様な要求ー応答関係の網の目である。この言語ゲームのうちで、人間はそのつどつねに、事物とことがらについて言語による「よいーわるい」「きれいーきたない」「ほんとうーうそ」という関係的分節を作り出す。この言語行為の連続的な集合性だけが「善悪」「美醜」「真偽」の秩序とその実在的な信憑を生み出し維持する

本書90節

この引用が、本書第2巻のほぼ結論といってもいいのではないかと思います。

それぞれの集合的言語ゲームという限定した集団において真善美の価値観の基準となるということだから、人間集団が変われば、その集団に応じて価値観は変わってきます。

一見「なんでもあり」の現代思想的価値相対主義と同じように感じますが、集合的言語ゲームという枠組みの中での普遍的な価値観があるということなんで、全く違う考え方。

例えば、先日終了したG7でも共同宣言は出せないような分断の時代において国家間での集団的言語ゲームが成立する範囲が狭まっていきつつあるのが今の状況。

一般的に自由貿易の方が経済が発展するというのが定説ですが、短期的な視点での国益を追求する方向性に行っていることから、現在は保護貿易方向へシフトしつつある過渡期のため、意見の一致が難しい状況が生まれている。

このように集合的言語ゲームが、さまざまな場において展開されて行く中で、共通理解に向けた営みを展開し、お互いを理解し合うことで暴力をなくしていけたらというのが、この哲学の根底にあります。

*写真:ニュージーランド プカキ湖

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