哲学発祥の地「ミレトス」に行ってきました
今回のトルコ・ギリシア訪問の目的の一つは、トルコ、イオニア地方の古代都市ミレトス。
哲学はどうやって生まれたのか?その生まれた、まさにその場所に行ってみたかったのです。その場所はトルコ、西アナトリア地方の古代都市「ミレトス」。
ミレトスは、そこそこ遺跡も残っているものの、観光ツアーで行くような場所ではないし、
バスなど公共交通機関もないような辺鄙な場所なので、空港でレンタカー(フィアット クロス)借りて行ってきたのです。
▪️なぜ哲学は誕生したのか?
古代ギリシアでは、全ての学問は哲学ですから、ミレトスは学問の生まれた場所といってもいいと思います。
ここでイオニア学派と呼ばれる、タレス・アナクシマンドロス・アナクシメネスなどの哲学者が、哲学という思考方法を誕生させたのです。
哲学の思考方法は、宗教のように心の安定を求めることが目的ではありません。心の安定を求める宗教は、宗教ごとにその心の安定の求め方が異なるので、宗教間で共通了解が成り立たないという問題があります。
そこで哲学の出番となったのです。
つまり哲学の目的は、異なる文化や信念を持つ人たちが共通して持てる考え方はどうやって考えればいいだろう、ということ。したがって宗教とは語るジャンルが世界の原理や価値観などで重なるものの、その目的は全く異なるのです。
そういう人間の思考の切磋琢磨によって編み出されたのが哲学的思考方法。つまり神などの任意の前提をおかず、概念だけによって世界の原理を探ろうとしたのが哲学なのです。
例えばタレスは世界の原理は「水」だとしたのですが、今から見れば「そんなわけないでしょ」ということになります。
しかしここで重要なのは、タレスは物語を使わずに世界の原理を説明しようとしたその思考方法。
これまでの世界の原理説明は、神話などの物語による世界説明しかなかったのです。ところがタレスは、誰もが手にとって触って実感できる「水」という存在によって世界を説明しようとしたのです。
つまり誤解を恐れずに今の言葉で端的に言えば、神話ではなく、世界ではじめて科学的に世界を説明しようとしたのです。なのでタレスは自然哲学者とも言われています。
ちなみに今では哲学は、価値の領域を扱う「哲学」、事実の領域を扱う「科学」、の二つに分化していますが、任意の前提をおかずに概念だけで世界を説明しようとする思考方法が(科学含む)哲学なのです。
だからタレスは哲学の始祖と言われるわけです。
▪️なぜミレトスで哲学が誕生したのか?
それでは、哲学はどんな時代背景や外的環境によって生み出されたのでしょう。それは今から遡ること2600年前、古代ギリシアで、ミレトスという都市から始まったのです。
ミレトスは実際に行ってみれば沖積低地の傍にある洪積台地のキワにあるのですが、実はその沖積低地は、古代ギリシア時代はまだ湾(海)だったのです。その後、川から運ばれる土砂が堆積して湾が埋まり、今のような地形に変わる。
以下、ミレトス博物館の地図によると西暦1500年ぐらい、つまりオスマン帝国がロードス島を攻略した時代(1522年)のちょっと前に、湾は土砂で埋まり、港としての機能が失われて衰退していったのでしょう。
古代ギリシアにおいて、ミレトスは港湾都市として栄え、エーゲ海の島々やギリシア本土、そしてペルシャ・エジプトあたりと多くの交流があり、さまざまな文化や宗教を持った多様な人々がコミュニケーションをとる中で、どうやって共有できる考え方を生み出したらいいのか、といった試行錯誤の中で哲学は生まれたのでしょう。
さて、ここでも英国の科学ジャーナリスト、マット・リドレーのいう法則が成立していることに驚きます。彼は著書『繁栄』において
と提言し、最新著書『人類とイノベーション』でもイノベーションが生まれるためには「開かれた場所」が必要で、交易や交換が盛んな場所でイノベーションが起きる、と言います。
つまり哲学も、そのようなあらゆる文化や宗教が混ざり合う、交流が盛んな港湾都市ミレトスだったからこそ生まれたと言ってもいいでしょう。
そんな世界中においても、最も重要な場所の一つに違いないこのミレトスですが、実は世界遺産にもなっていないし、観光名所でもない。私が伺ったこのバカンスの時期では、それでも数十人の観光客はいましたが。。。
なんとも不思議なことですが、個人的にはこの暑い中「哲学発祥の地」に自分の脚で立てたこと、そしてこの地の雰囲気を味わえたことは、何物にも代え難い感動的な体験なのでした(それにしても暑かった!!)。
*いま、私たちがみるミレトスは、古代ローマ、ビザンチンでも整備され、遺跡自体は古代ギリシア・ローマ・ビザンチンの遺跡の集合体となっています。
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