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思想(哲学と宗教)

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価値観の学問そのものといって良い哲学、価値観そのものといってよい宗教を勉強する事で「価値観とは何か?」に迫りたいと思っています。
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2020年7月の記事一覧

「地形の思想史」 原武史著 書評

<概要> タイトルが小難しい印象にもかかわらず、内容はやさしくてかつ面白いので一気に読めてしまうエッセイ集。地形をテーマにしつつもそれぞれの土地を実際に訪れて土地土地にまつわる歴史的テーマを深掘りするので「あの土地にそんなことがあったんだ」的発見があって我々読者も、思わずその土地を訪れてみたくなってしまうという書籍。 <コメント> 私の生まれ育った実家(千葉県船橋市海神)も、「海神」という神話発祥っぽい地名が、ヤマトタケルとその妃オトタチバナにまつわる記紀神話(古事記&日本

言語が生み出す本能(下) スティーブン・ピンカー著 書評

<概要> 言語(話し言葉)に関しての系統的領域、発生論的領域、脳科学的領域、進化論的領域に加え、言語の流動性に関して考察した書籍。 <コメント> 下巻も言語が本能から発したというその論拠を様々な領域から展開して、これでもかとばかりに解明していきます。 ◼️系統的領域 地球上には4,000〜6,000の言語があり、種の進化のように1つの祖先から言語が枝分かれしたのかと思ったらそうではなく、言語タイプに全く相関関係がない場合が多いらしい。言語は本能だからもともとからしてホモ・

大東亜共栄圏と混合民族論「単一民族神話の起源」より

引き続き本書より。 あまり関心はなかったのですが、本書の戦前の民族論考察で「大東亜共栄圏」だとか「世界は一家、人類は皆兄弟」という戦前の思想がやっと理解できました。 結局、アイヌや琉球人はもちろん朝鮮人や台湾人などの植民地現地人を同化(日本名への変更、日本人との結婚奨励=混血、日本語教育、居住地の相互引越しなど)してアジア人の混血の象徴たる天皇のもとの臣民として他民族を抹消し、ヤマト民族として統合することだったのです。 その根拠としてヤマト民族は、そもそも北方民族や朝鮮

単一民族神話の起源 小熊英二著 書評

<概要> 日本民族論に関して、戦後は植民地を失うことによって初めて単一民族神話が広まり、明治時代以降から戦前までは海外への進出への大義名分として混合民族神話が主流であったということを様々な一次資料を駆使して証明した現代の古典。 <コメント> 著者小熊さんの「日本社会のしくみ」を読んで以来、小熊さんのその徹底した資料収集と解読にもとづく分析力に驚嘆しておりますが、本書はその威力をいかんなく発揮している作品で、現代の古典と本書の「オビ」にある通り、現代の古典たる圧倒的読後感です

「プロタゴラス」プラトン著 書評

<概要> 若き日のソクラテスが、その当時の知の巨人プロタゴラスにアレテー(徳)に関する対話を通して、アレテー・善悪・快不快・知識の関係について議論した著作。 <コメント> アレテーを媒介にして、快不快と善悪の関係やアレテーと知識の関係性について、ソフィストの第1人者たるプロタゴラスに挑んだソクラテスの生々しいやりとりが、脚本家プラトンによって展開されます。 当初はアレテーは教えられないものだとしながら最後には、アレテーとは知識だから教えられるものになってしまったという、結