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思想(哲学と宗教)

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価値観の学問そのものといって良い哲学、価値観そのものといってよい宗教を勉強する事で「価値観とは何か?」に迫りたいと思っています。
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2020年6月の記事一覧

言葉を知らなくても人間は生きていけるのか?

<概要> 世界には言葉を知らずに大人になる人がいる。耳の聞こえない人=ろうあ者は、手話という独自の言語を習得する必要があるが、手話を教えてもらえない環境に育った場合、言葉を知らずにそのまま大人になってしまう。 果たして言葉がない人の世界とは?そもそも言葉を知らずに大人になっても言葉は覚えられるのか?耳が聞こえず言葉を知らない27歳のメキシコ人男性イルデフォンソと彼に言葉(=手話)を教えた24歳のアメリカ人女性の数奇なる感動のノンフィクション。 <コメント> スティーブン・

「メノン」 プラトン著 書評

<概要> 若きエリート「メノン」とソクラテスの対話を通して、プラトンが、アレテー(徳)とは何か?をテーマに、知識・論駁偏重型のソフィスト的思考から理解重視・本質洞察型思考への転換を目指した著作 <コメント> アレテーとは「もののあり方の卓越性」のことで、日本語では「徳」と訳されていますが、一般的な日本語の「徳」は道徳の「徳」であって、単なる卓越性ではなく利他的・社会貢献的性質の卓越性だから、そのまま「徳」をイメージして読んでしまうと意味がよくわからなくなってしまいます。

言語を生み出す本能(上)スティーブン・ピンカー著 書評

<概要> 言語のうち「書き言葉」は文明だが「話し言葉」は本能であり、カラスが空を飛べるように人間が本能的に持ち合わせた先天的な能力であって、どんな言語でも共通の心的言語を基盤にして成立していることを主張した書籍。 <コメント> 言語学は全くの門外漢ですが、本書を読む限り「確かにその通り」という印象。英語の比較文や文法的言語の解析を口語・文語双方ともおこなって精密に論を展開していく(特に4章の言語のしくみ)ので、理解するのに手間暇がかかりますが、ちゃんと真面目に読んでいけば、

「正しい」とは?海外ドラマ「ウォーキング・デッド」

新型コロナ自粛中からステイホームでAmazonプライムの海外ドラマシリーズ視聴継続。 グッド・ワイフ→グッド・ファイト →ゲーム・オブ・スローンズ→ゴシップガールに引き続き、今はウォーキング・デッドを視聴して、とうとうシーズン8に突入。 このドラマは、感染症パンデミック後のデストピア系・ゾンビ(ウォーカーという)系の長編テレビドラマで、現在もシーズン10が進行中。 ただし今は新型コロナ問題で中断している模様。すでにシーズン11放映も決定しており、大人気ドラマシリーズにな

「パイドン」 プラトン著 書評

<概要> 事実に基づく世界説明から価値に基づく世界説明、イデア論の展開、自殺禁止論、魂と肉体の関係、不死の魂など、プラトン哲学の重要な論点が散りばめられた傑作。 <コメント> プラトンまたはソクラテスによる現代にも通じる重要な哲学的テーマが展開されていて、そのレベルの高さに驚嘆せざるを得ません。 個人的には 「事実による世界説明」を否定して「価値による世界説明」をはじめて主張した点で、深く納得。 ◼️「事実」による世界説明から「価値」による世界説明へ 何よりも画期的な

生き物は、殺していいかどうか?

最近、服部文祥著「息子と狩猟に」という著作を読んだのですが、 何を「殺し」の基準にするか、を問う問題として非常に興味深い内容になっていますので紹介。 詐欺犯罪者が人殺しをして、山中に被害者を埋める場面に、息子を連れた鹿狩りの狩猟者である倉内が遭遇してしまう。そして狩猟者の息子を捕らえた詐欺犯罪者が、その息子を人質に猟銃を交換しようとして人質にし、結果、親の倉内が詐欺犯罪者を殺してしまう。 狩猟者の倉内曰く 「自分がすごく変なことを言っているのはわかる。でも大きい動物を

「移動の自由」の重要性とは

新型コロナによって移動の自由が制限されています。「ステイホーム」つまり家の外には出るなということで、歴史上でもよく出てくる「軟禁」という拘束方法に近い状況です。 移動の自由は、実は自由の中でも一番と言っても良い基本的な自由の要件です。 「人を拘束する」とよくいいます。罪を犯せば罰は「移動の自由禁止」です。 歴史的には、拷問や死刑などの罰の方が主流だっったと思いますが、現代世界においては(イスラム国家では鞭打ちという拷問もまだ残存しているらしい)、刑務所に拘束して移動の自

「饗宴」プラトン著 書評

<概要>青年愛(成人男子⇄中高生世代の男子)を題材にしているとはいえ、エロスに関する本質的な考察が、この時代において深く哲学されていることに驚きの念を感じ得ない傑作。翻訳者中澤務氏による当時の価値観を基準に理解する視点としての丁寧な解説とともに、翻訳は新しければ新しいほど、現代人の言語世界にフィットするという意味で非常に理解しやすい翻訳書。 <コメント>ギリシア哲学の翻訳版を読み始めて2冊目ですが、2冊目にして何とも感動すべき傑作でした。 私も、当時のアテネ市民の生活環境