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思想(哲学と宗教)

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価値観の学問そのものといって良い哲学、価値観そのものといってよい宗教を勉強する事で「価値観とは何か?」に迫りたいと思っています。
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2020年5月の記事一覧

「ソクラテスの弁明」プラトン著 書評

<概要> 「ソクラテスの弁明」のわかりやすい現代語訳とともに、その解説や読み進めるにあたってのキーポイントなど、翻訳者の丁寧なサポートが得られる著作。 <コメント> ソクラテスの死に至る裁判を題材にプラトンが脚色したのではといわれる「ソクラテスの弁明」。 有名な「無知の知」が掲載されている著作ですが、より正確には「不知の自覚」。 ソクラテスの弁明の中では、「不知」と「無知」という言葉が使い分けられていて「不知」は価値あることを知らないという事実を表すニュートラルな意味を

古事記神話入門 三浦佑之著 書評

<概要> 50年以上古事記を研究してきたという著者が、古事記の上中下巻のうち、神々の物語を扱う上巻を対象に原文の口語訳と共に解説した入門書。 <コメント> 神話なので、あくまでフィクションですが、大枠の日本の成り立ちを仮説としてイメージするには、きれいに整理されているなあと思います。 ◼️垂直的世界観 天孫(ヤマト)民族に興味を持って、それなら古事記ということで、専門家による入門書を読んだんですが、天孫民族というだけあって、大本の神話の構成は、上下の垂直(天地)関係で構成

哲学とは何か 竹田青嗣著 −社会理論編−

「哲学とは何か」のうち普遍的な認識方法としての本質学だけが存在・認識・言語の謎を解明したとは、前回説明した通りですが、特に社会理論については、項目を立てて近代以降の歴史を俯瞰した上で、本質学に基づく社会理論を展開しています。 ◼️社会理論:「自由」と「暴力回避」を普遍原理とした共通了解の前提条件 本質学に則れば「社会理論」という「数値化できない本質の領域」は、数学のように誰もが納得できる普遍的理論は原理的に成立しないので、時代だとか地域ごとの何らかの共同体ごとに「共通了解で

哲学とは何か 竹田青嗣著 ー本質学編ー

<概要> 「本質学」を提唱する竹田青嗣先生の最新作。哲学の課題を「存在の謎」「認識の謎」「言語の謎」の3つに整理し、ニーチェとフッサールの思想をベースにして、3つの謎に対する答えを誰でもわかりやすく解説した著作。 <コメント> ◼️学問の分類=哲学とは何か そもそも学問とは全て哲学のことだったのですが、西洋が近代になってから哲学の中で数値化できる領域のみ科学と呼ぶようになりました。残った「数値化できない世界」は引き続き哲学が主に扱う学問だとしています。 整理すると以下のよ

個人は社会に規定されている

「社会心理学講義」 小坂井敏晶著 書評 【概要】 個人と共同体(=社会)の相互関係性を解明しようとする学問「社会心理学」の手法に基づき「外的要因(=社会制度と遺伝)によって形成される個人と社会」という関係性を紹介したのち、社会について、同一性=閉ざされた社会(フェスティンガーの認知不協和理論)と変化=開かれた社会(モスコビッシの少数影響理論)、それぞれの個人と社会の相互影響関係を紹介した著作。 *ちょっと中身が広く深い著作なので「個人編」と「社会編」に分けて展開します。

「ゲンロン0観光客の哲学」東浩紀著 書評

今我々が生きているこの時代を様々な立場の人が論じていますが、現代哲学者は今の時代をどのように捉えているのか、本書は東氏なりの一つの現代社会に対する一つの解釈とその方向性を出してくれたのかなと思います。 著者によれば、現代社会をナショナリズム(政治、思考、コミュニタリアニズム、国民国家、スモールワールド、ツリー)の世界とグローバリゼーション(経済、欲望、リバタリアニズム、帝国、スケールフリー、リゾーム)の時代の二重構造と捉えた上で、この二重構造をリンクする新しい概念として「偶