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思想(哲学と宗教)

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価値観の学問そのものといって良い哲学、価値観そのものといってよい宗教を勉強する事で「価値観とは何か?」に迫りたいと思っています。
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2019年12月の記事一覧

異なる考え方を受け入れることの難しさと大切さ

今年1年を振り返り、一番感銘を受けたのはインドネシアの国是である「多様性の中の統一」。「多様性を認め合いましょう」というダイバーシティの価値観を先取りしたこのインドネシアの国是は自分の価値観として内面化(自分の考えと一体化すること)していきたい(まだできていない)、そう思っています。 とはいえ、政治的なポリシーや信仰はもちろん、異なる考え方を受け入れるのは、本当に難しいこと。 結局、自分の考えは内面化することによってその出発点は「快か不快か」になり、一旦固まった自分の考え

不思議なキリスト教 橋爪大三郎著 書評

ユダヤ教もキリスト教もイスラム教も同じ神様を信仰していて、その神様の信じ方が違うだけというのは知っていましたが、更に一神教のユダヤ教からキリスト教に至るまでの流れを、対話方式で解説していてこれでやっと「キリスト教とはなんぞや」というのがなんとなく理解できました。キリスト教関連の本を読んでも「すっと」頭に入ってこなかったのですが本書はその根本を理解するのにちょうど良い本だと思います。 面白かったのは、ユダヤ教・イスラム教とキリスト教の決定的な違いで、それは何と言ってもユダ

人工知能と欲望論

人工知能に関して「欲望論」をもう一度確認のために当該箇所のみ再読。 欲望論でも、巷で有名なジョン・サール(哲学者)の「中国人の部屋」の事例なども紹介されていますが「人工知能は人間と全く同じになるかどうか」という点に関しては人工知能の専門家と概ね同じ意見。様々な形で否定しているが、一部紹介すると以下の通り。 人工知能という二進法(欲望論ではスイッチのオンオフと表現)によって情報処理される機械が、人間の生理的機能も、心の心的機能も、認識論的にも全て置換できるという前提そのもの

五十にして天命を知る

50歳になった時、改めて論語の「五十にして天命を知る」について考えてみたことがある。 私にとって「天命を知る」というのは、簡単にいうと「天命(=自然や社会などの外的環境の法則)を知る(理解する)」ということになる。 実は儒教などの中国思想は、春秋戦国時代に群雄割拠した国家群が、生き残り戦略、あるいは統一戦略を遂行するにあたり「どのような政策によって国家運営すれば生き残れるか?あわよくば天下統一できるか」といい発想から生まれた思想。 例えば儒教の場合は、四書五経という儒教

人工知能と人間の境目「人工知能に哲学を教えたら」読了

人工知能の可能性については不確定要素が多いという断りを入れた上で、その可能性の行き着く先について、哲学の対象となるテーマごとに思考実験した本。人工知能は人間ではないものの、人工知能も「哲学できる」という結論。いわゆる哲学の問題「世界とは何か?」「良き根拠とは何か」など、哲学のテーマについて人工知能としての問題解決能力があるということです。そして「信念」もある。しかし人工知能は生き物でももちろん人間でもないので、生き物としての本能だとか人間としての自我や情動だとか意識みたいなも

「人工知能は人間を超えるか」松尾豊著 読了

人工知能は、人間の脳にどこまで近づいていて、どこまで近づこうとしているのか?ディープランニングは、数多ある人間の脳の能力のどの部分を代替しようとしているのか?がよくわかる本です。 人間は、攻殻機動隊のテーマでもある「ゴースト」を持っている。ゴーストはどこに宿るのか?それは間違いなく脳だと思うが、それは意識であり、意思であり、自我そのものだ。 著者の松尾氏曰く「人間=知能+生命」。つまり、人工知能は、現段階の科学ではどこまで行っても知能を代替することはできても、生命を代替す

AI原論  西垣通著 読了

AIと人間の思考含む生き物の行動原理の根本的違いとして、AIは「他律的」、生き物は「自律的」として原理的にAI(ここでは汎用AI)は生き物になることはできないということを解説した書籍。 「生きている」とは他者からは「不可知的」であるとし、その行動原理(というか存在)を哲学者メイヤスー「思弁的実在論」の「偶然性」の概念を参照しつつ「自律的」とは「偶然性が必然」であるという考え方から解説。 そもそも西洋人が汎用AIを人智を超えた存在として位置付けたがるのはキリスト教の三位一体

世界は4大文明でできている 読了

世界の人口のほとんどは、グローバルスタンダードになりうるキリスト教、イスラム教、ヒンドゥー教、儒教の各社会でカバーされている。この4大宗教をベースにした価値観を持つ4つの文明を学ぶ事で、グローバルなコミュニケーションが外国人とできるという内容。 橋爪大三郎氏は、専門的なことを簡潔に説明することに関しては本当に天才的だなあと思います。 彼の共著の「不思議なキリスト教」「ゆかいな仏教」を更に簡潔に説明しているので、さらっとした4大宗教論としても読める。 この内容に興味があれ

歴史の評価を哲学的に考えてみる

特に近現代史において歴史の評価は常に問題となる。 これがユリウス・カエサル、ナポレオンや足利尊氏、織田信長などの古代・中世の人物や時代においては、現代の価値観に照らして評価されないために問題にはなりにくい(豊臣秀吉のように例外はある)が、近現代史の場合は今我々が生きる「現代」に繋がった時代。 今の国家、地域の成り立ちや存在意義に直結するので、それぞれの視点(価値観)によって大きく異なってしまい、特にかつて侵略された側とした側になった地域・国家同士では決して一致することはな

100分で名著「ソクラテスの弁明」西研著 読了

哲学には2大テーマがあってそれは、 「世界原理の追求」と「価値への問い」 ソクラテスは、世界の原理は見方によって色々変わるので問い続けても意味がない。むしろ人間が問い続けるべきは「良さ」(価値)の根拠を問い続けることだと提唱。 著者自身もニーチェの著作を読んで「君が探している真理なんてどこにもないんだよ。真理を欲しがっている君がいるだけさ。君は真理を探すんではなくて、何が君に心からの悦びを与えてくれるのか、と問わなくちゃいけない」というメッセージを感じたそうです。

近代市民社会の原理は本当に普遍的か?

これまで勉強した結果、認知革命としての人間社会を制御する普遍的な価値観(社会の虚構)は、基本的人権の尊重や自由・機会平等などのいわゆる近代西洋が発明した「近代市民社会の原理」ということになっています。 とはいうものの、中国・北朝鮮・ベトナムなどの共産主義を名目にした独裁国家、サウジアラビア・UAEなどの中東諸国の王家による独裁国家から、軍事政権や情報操作等による緩やかな独裁国家のロシアやエジプト、カンボジアはじめ、近代市民社会の原理が明確なルール・規範とはいえない国家も70