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蠍座の僕は魔女に惹かれて今も時を彷徨う

蠍座の人間の性格と言えば、ざっとこんな感じである。「真面目で一途、広く浅くではなくて狭く深い付き合いを好む。情熱的。それらは逆に束縛しがちで重い人間として見られ、敬遠される場合もある……」ネットで記事を探してみてもどれも大差は無くこのように書かれている。まったく自分の性格そのままなのだが、これほど典型的な蠍座だと恥ずかしいぐらいだ。

少し前のある日、突然、僕は忘れていた初恋の女の子を思い出してこんな記事を書いた。幼馴染のリカを思い出したのだった。彼女のあだ名は『魔女リカマジョリカ』と言った。

この時リカは、いつの間にか僕の意識の底に入り込んだらしかった。少し後には気が付くと幼い頃のリカのことを書いていた。タイムリープに誘ったのはいったい誰だったのか。こんな過去があったかどうかさえ覚束おぼつかない僕は困惑するばかりだった。

とうとうリカの存在さえあやふやに感じるようになった僕は、彼女の痕跡を辿ってみることにした。丁度、用事ができて実家に行くことになったので、幼馴染だった彼女が当時住んでいた家を確認しようと思い立ったのだ。

西の彼方にそびえる山並みに日が落ちようとしていた。実家に着いた僕は、リカと僕が通った小学校を目指して歩き始めた。距離的には歩いて直ぐなのだが、実家から見えない位置にある。長い間、敢えて訪れることもしなかった。

少し歩くと驚きの余り立ち止まるしか無かった。なんと小学校は無くなっていて更地になっていたのだ。解体工事の跡がまだ残っていたから、つい最近取り壊されたようだった。随分前に統合により廃校になっていて、校舎だった建物は地域の集会所として再利用されていたはずだった。リカがいた記憶を辿ることができる痕跡が一つ無くなっていた。

しかし、それは思いがけない景色を生み出していた。目的の家が直ぐ目の前に現れたのだ。

リカの家は、僕の家から小学校を挟んだ反対側に在った。校舎の隣に体育間が在ってその直ぐ横がリカの家だった。しかし、更地になった今はもう遮る物は無く、剥き出しで目の前に在ったのだ。学校という大きな建物が消えたため位置感覚が狂ってしまい、それがそうであることに納得するまで少し時間が必要だったが、確かにあの白壁のリカの家だった。

住人を替えながらもその家はずっとそこに在ったのだろう。経過した時間を物語る色褪せこそ目立つものの白い壁の色はそのままで、誰かが今も住んでいるらしいことも見て取れた。それを見て僕は安堵した。その家が確かにリカがそこに存在していたことの証のような気がしたからだ。

わけも無く涙がぽろぽろと零れた。悲しいわけでは無かったし感情に無理に意味を持たせようとも思わなかった。夕闇が迫っていたのだ。

ところで、君と一緒にいたあの猫。うちの飼い猫で、ある日忽然と姿を消してしまったあの黒猫は、いったい何処へ行ったのだろう。

もしかしてそうなのかな?

ならば、もう一度誘ってはくれないだろうか。
今も君が黒猫と微睡まどろむあの場所へ。
 

 

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