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初恋の相手が魔女だった話

記憶というものがこんなに不確かなものだということに驚いている今日この頃である。初恋の相手が魔女だったなんてすっかり記憶から抜け落ちていたのだから。

自分で言うのも何だが、一途な人間である。いや、カッコつけてるわけじゃなくて浮気と言うものができない性分なだけだ。勝手に自分で感情にロックを掛けてしまう。それは、初恋の相手が魔女だったからかも知れなかった。彼女を裏切ったらきっとひどい目にあう。心のどこかでそう思い込むように不思議な力が働いていたように感じたからだ。

ところで、漫画の怪物君に出てくる「怪子ちゃん」が初恋の相手だったことは前に書いた通りだ。

これから書こうとしているのはリアルな女の子への初恋についてである。ガキの頃から変な奴だったんだなと思われてもしかたがないが、最初に好きになった女の子が漫画に出てくる怪物で、その次は魔女だったと言うのだから確かに少し変わった子供だったのだと我ながら思う。

それは、小学校の低学年の頃だった。突然、変な話で申し訳ないがその頃、僕は魔女に対して畏敬の念を抱いていた。とはいえ、後々、アレイスター・クロウリーなどに傾倒するとか、そっち方面には行かなかったからオカルトに深く関わりたいわけでもない。子供だったので、単純にディズニーアニメのストーリー上の最強人物がいつも魔女だったことに影響されたのだと思う。

実家の近所に住んでいたリカは、同い年の幼馴染で大好きな女の子だった。明るくて良く笑う子だった。そして美少女だった。そう思っていたのは僕だけだったとしても全く気にしない。惚れた女の記憶は都合良く美化されるらしいから……スラっと背が高くスレンダー(痩せっぽち)。病的なまでにという言葉があるけど本当にそれで、透き通るように白い肌(青白い顔)に地毛にしてはやけに茶色のくしゃっとした髪の毛(ぼさぼさ頭)、同じようにやけに茶色の透明度の高い(色素が薄い)大きな目が印象的だった。どうでもいいが、その時から好きな女の子のタイプは基本的に変わっていないのだな。

リカは学校を休みがちだった。小学校に入学以来、登校してきた日数よりも休んでいたことの方が多かったように思う。病気で入退院を繰り返しているらしかった。こういうのってナイチンゲール効果と言うんだっけ? そういうのがあったのかは自分ではわからない。でも、彼女が教室にいるだけで、ずっとわくわくした気持ちでいたことを今でも薄っすらとではあるが思い出せる。

クラスでは、いつからか誰が言うでもなくリカのことを「魔女リカマジョリカ」と呼ぶようになっていた。元となったのは、当時の子供ならみんなが見ていたテレビ番組、「ひょっこりひょうたん島」に出てくるキャラクターの「魔女リカ」だった。本人はあまり気に入ってない様子だったが、どこかエキゾチックな容姿に似合うニックネームだと思った。リカは、からかわれても怒るでもなくいつものようにニコニコしていた。本当に屈託なく笑う子で僕は、そんなところが好きだった。
 

リカリカ魔女リカ 魔女の中の魔女 魔女リカ
どこへでも行く魔女 魔女リカ

『魔女リカのテーマ(リカリカ魔女リカ)』より

 
いつしか、魔女に畏敬の念を持っていた僕は、リカのニックネームを重ね合わせて、魔女の中の魔女として崇めるに至った。リカをからかっている奴らはかならず魔法を掛けられてひどい目にあうんだ。僕はそんなことはしない。リカを守るんだ。永遠に。それによって僕も守られる。心の中でそんなふうにつぶやいていた。我ながら本当に変なガキだった。

「リカ リカ 魔女リカ 魔女の中の魔女 魔女リカ」

テレビの「魔女リカ」にはテーマソングがあって中毒性のある歌だった。僕の脳内では一定時間毎に再生された。リカが学校を休んでいる時は、その度にリカのことを思い浮かべた。
 

 
そんなある日のことだった。あっけなく別れはやってきた。先生が淡々と語った言葉が全てだった。

「長い間、お休みしていたリカさんは転校することになりました」

入院していた大きな病院がある隣町に家族で引っ越すらしかった。お別れの言葉も何もなかった。空席だった机がいつの間にか片付けられた。それだけだった。

大好きな幼馴染の女の子にして魔女のリカはいとも簡単に姿を消した。それでもテレビの中で「魔女リカ」は、掃除機に乗って空を飛んでいた。
 

 
これは、自己防衛本能なのだろうか。一定以上に悲しい出来事は、忘れ去ろうとするメカニズムが働くものらしかった。

つい最近、初恋の人について何か書こうと思って記憶を辿ったのがきっかけだった。ずっと長い間、僕の記憶の中には、別の女の子が初恋の相手として存在していた。

でも、ふと、それは記憶の底から浮かび上がってきたのだ。

「私を忘れたの?」

記憶とは曖昧なものだ。しかし長い間、忘れ去られていたリカへの想いが蘇ったことで当時の記憶が徐々に整理されたように感じる。

「長い間忘れててごめん」

リカはきっとどこかにいて、魔法を使ったに違いない。

僕の初恋の相手は魔女だったのだ。


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