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PTAで「活動エントリー制」を導入する意味

 「PTA問題」とはPTAの運営・活動における「強制」の問題と考えられます。その「PTA問題」の解決のためには、「運営の適正化」「活動参加の適正化」「目的と活動の適正化」の「PTAの三つの適正化」が必要だと考えてきました。

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 「PTAの三つの適正化」の「活動参加の適正化」を進めるための方法の一つとして、参加したい活動に選んで参加する「活動エントリー制」があります。
 「参加したい活動に参加する」というのは、考えてみれば特別なことではなく、どのような団体でも当たり前のことです。しかし、これまでPTAでは「参加したくない活動にも参加しなければならない」となっていることが多くありました。「参加したい活動に参加する」が当たり前にならなかった大きな背景には「『PTAは親の義務』神話」があると考えていますが、より具体的には「(強制参加の)委員会制度」とそれを支える「(強制加入の)全員自動加入」があったからだと考えます。

「入会申込書」の整備だけで「PTA問題」が解決できるとは限らない

 そもそもPTAにも「入退会の自由」は当然の前提としてあります。
 「入退会の自由」が保障されていれば、もし「委員会への所属」が「会員の義務」としてあったとしても、その義務を履行できない人は入会しない、もしくは退会することができるので「強制参加」の問題はないはずです。しかし実態は、これまでの「全員加入」の慣習や、さまざまな事情や強い信念などによって、「入退会の自由」、すなわち「運営の適正化」の実現は容易ではないようです。
 「入退会の自由」の実現のためには、そのPTAを運営する役員や学校管理職が、PTAが「入退会自由」であることを前提として受け入れ、これまでの「全員加入」を諦められるかどうかが、越えなければならない大きなハードルになります。
 このところ、教育委員会から学校(長)に対して、PTAの「『入退会の自由』の周知」や「入会意思確認の徹底」が求められるところもあり、「運営の適正化」が一つの流れになってきているようでもあります。しかし、そのような流れを受けて表面的・形式的に手続き上の「入会申込書」「退会届」が導入されても、「全員加入」を諦められないままであれば、非加入世帯を出さないために、やめられないような、やめにくいような工夫、すなわち、「未加入世帯児童・生徒差別」のような、いわゆる「退会障壁」が作られるケースもあるようです。
 「全員加入」を諦められないまま「入会申込書」「退会届」が整備されても、それが形式的なものでしかなく、実際には加入しない選択ができない、もしくは極端に選択しにくいものであれば。「入会意思確認」としての意味がありません。
「入会申込書」「退会届」の整備さえすれば、「強制」の問題が解消できるというわけにはいかないようです。

本当の「入退会の自由」「運営の適正化」を実現するためには

 それでは、「入会申込書」「退会届」を形式的なものにせず、本当の「入退会の自由」「運営の適正化」を実現するためにはどうしたらいいのでしょうか。
 そのためにはまず、PTAを運営する役員や学校管理職がこれまでの「全員加入」を諦めるしかありません。ここでポイントとなるのは「100%の加入」を諦めるということです。
 教育委員会から学校(長)に対して指導がされるような流れが今後も大きくなることが予想される中では、とにかく「100%の加入」は無理だということを受け入れ、その上でなるべく多くの人に加入してもらう努力をするように切り換えていくしかありません。
 なるべく多くの人に加入してもらうためには、まず「義務の最小化」が必要だと考えます。それは加入のハードルをできる限り低くすることともいえます。これまでは「会費納入」と「活動参加」が会員の「義務」とされてきたPTAが多くありました。この「義務」を最小化するためにできることは、「会費の最少化」と「活動参加の義務の廃止」だと考えます。
 「会費の最少化」は使途の精査をして会費の減額をするしかありません。
 「活動参加の義務の廃止」は、これまで多くのPTAで行われてきた「1子1回ルール」や「ポイント制」などの「義務的参加ノルマ制」を廃止することです。この「義務的参加ノルマ制」の多くは「委員」に選出されて「委員会」に所属することがノルマとしてカウントされてきました。「義務的参加ノルマ制」を廃止するための最もわかりやすい方法は「委員会」を廃止することです。そのための方法の一つが、参加したい活動に選んで参加する「活動エントリー制」です。
 「活動エントリー制」は、「義務の最小化」をしながらなるべく多くの人に活動に参加してもらうための一つのアイディアです。「入退会の自由」という「運営の適正化」を実現するためには、「活動エントリー制」などの導入による「活動参加の適正化」が必要だと考えます。

なるべく多くの人に加入・参加してもらう努力は必要か?

 なるべく多くの人に加入・参加してもらう努力が必要かどうか。これまでの「100%の加入」を諦めやすくするための「方便」ではなく、その努力が必要な理由があります。
 そもそもPTAへの加入や活動への参加は「義務」ではなく、その学校の保護者と教職員の持つ「権利」です。本来PTAは保護者が教職員とともに学校での教育について相互共有・相互理解を図るための場をつくるためのもので、そこに参加する「権利」を得るために、その学校の保護者と教職員には入会する「権利」があり、その「権利」は平等に最大限保障されなければいけません。
 PTAの運営をすることは、その「権利」を最大限保障することです。ここで大事なポイントは、「権利」を最大限保障することと「権利の行使」を無理強いすることは違うということです。PTAの活動がたとえどれだけ重要・必要なものであったとしても、そこに参加する「権利」を最大限保障することは運営の大事な役割ですが、その「権利の行使」を無理強いすることはできません。なるべく多くの人に加入してもらう努力とは、「権利」を平等に最大限保障することです。
 また、「活動エントリー制」も、なるべく多くの人に活動に参加してもらう努力であり、活動に参加する「権利」を平等に最大限保障することが目的で、「活動エントリー制」で「義務の最小化」と「権利の最大化」ができると考えます。
 「活動エントリー制」で「活動参加の義務の廃止」ができれば、会員の「義務」は「会費の納入」だけになります。「義務の最小化」をすることで加入のハードルが下がることは、加入の「権利の最大化」ともいえます。
 また、本当の「入退会の自由」が実現された上で「なるべく多くの人に加入してもらう努力」をすることは「適正な運営」にとって必要なことです。なるべく多くの人に加入してもらいたいと思えば、「適正な運営」をしなければいけなくなり、加入率は「適正な運営」のバロメーターになります。また、多くの人が加入していることによって、「適正な運営」が行われていない場合の歯止めにもなります
 A.O.ハーシュマンの『離脱・発言・忠誠』という著書がありますが、PTAの「適正な運営」のためには、会員の「離脱・発言」の「権利」が保障されることが必要です。これまでの「PTA問題」は、この「離脱・発言」の「権利」が保障されてこなかったことに大きな要因があると考えます。

「活動エントリー制」でPTAの意味・価値を再考する

 参加したい活動に選んで参加する「活動エントリー制」で運営していこうと思うと、会員が「参加したい」と思うような選ばれる活動にする必要が出てきます。
 「義務的参加ノルマ制」でもどの委員になるかを選べる場合もあるようですが、「活動エントリー制」を導入すると、「義務的参加ノルマ制」で選んで参加するときと選ぶ基準が変わってきます。
 「義務的参加ノルマ制」の場合は「出席回数が少ない」「活動内容が簡単」といった「負担」の少なさ、「ラク」が基準で選ばれることが多くなりがちですが、選んで参加する「活動エントリー制」の場合は「ラク」なことは選ぶ基準にならず、「やりがいを感じられる」ことが基準になります。
 「活動エントリー制」での「全く集まらなければできない」という原則を守ると、「やりがい」を感じられない活動はなくなっていきます。しかし、PTAの活動の中には、わかりやすい「やりがい」のあるものばかりではありません。基本的には誰もが「やりがい」を感じる活動はないのが前提ですが、その活動の意味づけを丁寧にして、その活動の意味を伝え、共有することで「やりがい」を感じる人もいるかもしれません。「活動エントリー制」では「活動の意味づけ」をして、その活動の意味に賛同して参加するような、「強制ベース」から「賛同ベース」のPTAへの転換が必要になります。
 「強制ベース」のPTAであれば、特に「賛同」を必要としないので、「子どもたちのため」という大きすぎる「理念」だけでもよかったかもしれませんが、「賛同ベース」のPTAでは「活動の意味づけ」をするために、PTAの目的を明確にして、その目的に沿った活動にすることが必要になります。

主体的な参加によるPTAにするために

 本当の「入退会の自由」「運営の適正化」を実現するためには、「義務の最小化」と「権利の最大化」のために「活動エントリー制」「活動参加の適正化」が必要になります。
 「活動エントリー制」「活動参加の適正化」で運営するためには、「活動の意味づけ」が必要で、そのためには「目的の明確化」「目的と活動の適正化」が必要になります。
 主体的な参加によるPTAを作っていくためには、「活動エントリー制」などの「活動参加の適正化」がその中心的な役割を果たすと考えます。
 そして、「活動エントリー制」のPTAでの最も重要で大きな役割は、選んで参加するという行為そのものです。それぞれの個人が、PTAの目的や活動に意義や価値を感じられれば、それに応じて参加する・参加しないと「選択」が主体的にできることだと考えます。特に保護者としては、学校にどのように関わるのか、子どもの教育にどのように関わるのかを主体的に「選択」できることが必要です。

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