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PTAの三つの適正化

これからのPTA

 PTAはいま岐路に立っています。
 「世帯数の減少」と「専業主婦の減少」による「担い手不足」が深刻化することで、負担感・強制感は大きくなっています(「PTA問題」の背景)。また、ネットやマスコミの情報で「PTA問題」(「強制のないPTA」とは?)が取り上げられたことで、任意に入退会自由の団体であることは広く知られるようになりました。さらに、個人情報保護法の改正により、PTAも個人情報取扱事業者になったことで、より適切な取り扱いが求められています。
 このような状況の変化によって、これまで多くのPTAで行われてきた「自動入会」や「活動参加の強制」の運営では、今後PTAという団体は存続できなくなると考えます。
 これからもPTAが存続していくためにはそのあり方を変えていく必要があります。

PTAの適正化

 近年、PTAのあり方をよくしていこうとしている人たちの中で使われている言葉が「PTAの適正化」です。新しく使われるようになった言葉ですから、「『適正』とはどのようなことか?」というようなその定義の定まったものではありません。PTAのあり方を変えるときに使われる「PTA改革」という言葉への違和感から使われるようになってきたような印象があります。
 「PTAの適正化」は「PTA改革」とはニュアンスが異なります。「PTAの適正化」は主に「強制」をなくすことを主眼にしているように感じます。一方で「PTA改革」には「担い手不足」を解消するために「ポイント制」を導入した、というようなケースも含まれて報道されたこともありました。子どもがその学校を卒業するまでに決められたポイントをクリアしなければならない、という「ポイント制」は、効率よく平等に「強制」するためのものですから、「PTAの適正化」という言葉には馴染みません。このような違和感もあり、PTAのあり方をよくしていくことを「PTAの適正化」と言われるようになったのではないでしょうか。

三つの適正化

 「PTAの適正化」には決まった定義があるわけではありませんが、この「PTAの適正化」を以下の三つに分類して考えています。

・運営の適正化
・活動参加の適正化
・目的と活動の適正化

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・運営の適正化

 「運営の適正化」は、「適正化」の中でもっとも基本的・基底的なもので、これまで慣習的に行われてこなかった手続きの整備を行います。

 ・入会申込書と退会届の整備
 ・個人情報保護法に則った個人情報の取り扱いの整備
 ・入退会の方法や個人情報について定めた規約・会則の整備
 ・会費の徴収やその使い道の適正な処理

 会員の個人情報を入会申込書によって入手することにすることで、ほとんどの問題を解決することができます。
 しかし、この「入会申込書」の整備には反対されることも多いようです。「入会申込書」を整備すれば、これまで当たり前だった「(ほぼ)全員加入」ができなくなり、会員が減少することになります。これまでの当たり前が当たり前じゃなくなることには抵抗もあるでしょう。「PTAはイヤイヤやるもの」という前提であれば、「入会申込書」の整備によって堰を切ったように入会しない人・退会する会員が続出・激減する不安もあるでしょう。
 「入会申込書」を整備すれば多少の会員減少は織り込む必要がありますが、これは個人情報保護法改正への対応でもあり、「全員自動入会」はもはや不可能だと諦めるしかありません。会員の激減を避けたいと思うのであれば、微減にとどめることができるような工夫をするしかありません。
 もっとも基底的な「運営の適正化」を、会員が激減することなく実行するためには、「活動参加の適正化」「目的と活動の適正化」という他の二つの「適正化」が必要だと考えます。

・活動参加の適正化

 「活動参加の適正化」は、活動への参加の「強制」をなくし、全ての活動に会員が主体的に参加するようなシステムを構築することです。
 子ども一人につき一回は役割を引き受ける「一子一回ルール」や、子どもがその学校を卒業するまでに決められたポイントをクリアしなければならない「ポイント制」など、活動への参加の「強制」のための工夫があります。これらの「強制」をなくして、「参加してもいい」、「参加したい」と思ったものに、会員がそれぞれ選んで参加することができるようにすることで、「PTAはイヤイヤやるもの」という前提をなくすことが必要です。
 筆者はこれを「活動エントリー制」と呼んでいますが、各地のPTAで「この指とまれ方式」、「サポーター制」、「ボランティア制」などとも呼ばれ導入されてきています。

・目的と活動の適正化

 「目的と活動の適正化」はPTAの目的を明確にすること、そして、その目的に沿った活動を行うことです。
 「運営の適正化」によって入会・退会が自由になっても会員が激減しないようにするためには、PTAの目的・活動に賛同して「入会してもいい」、「入会したい」と思ってもらうことが必要です。さらに、「活動参加の適正化」を実施して、会員がそれぞれ選んで参加するようなシステムを導入しても、活動を継続していくためには「参加してもいい」、「参加したい」と思えるような活動が必要です。
 PTAを「強制ベース」から「賛同ベース」へ、「イヤイヤベース」から「やりがいベース」へ転換していくためにも、「目的と活動の適正化」は重要です。
 PTAに「入ってもいい」、活動に「参加してもいい」と思ってもらうためには、PTAの目的、それぞれの活動の目的を伝わるように説明する必要があります。伝えるためには、まずはPTAの目的を明確にしておく必要があります。

三つの適正化をどう進めるか

 三つの適正化を同時に進められるのであればそれに越したことはありません。
 まず、「活動参加の適正化」を進めて「活動参加の強制」をなくすことができれば、PTAの困りごとの多くは解消できるでしょう。しかし、「活動参加の強制」がなければ「入会の強制」があってもいいわけではありません。「運営の適正化」は手続きの整備のことですから、しようと思ったときにしてしまえば、基本的にはそのときには完了します。しかし、「入退会」の手続きだけを導入しようとしても、反対にあって進まないという話も多くあるようです。
 筆者が会長を務めた名古屋市立吹上小学校PTAの場合は、個人情報保護法改正を控えたときに「活動エントリー制」を導入し「活動参加の適正化」を進め、改正後に「運営の適正化」を行いました。「活動参加の強制」をなくし「入会してもいい」PTAにして、それでも問題なく運営できることを確認して「運営の適正化」を行い、会員激減とはならず入会率は97%ででした。
 一方で「目的と活動の適正化」は活動をしながら、その年ごとに検討を繰り返していくことが必要です。吹上小学校PTAは「保護者と教職員の信頼関係づくり」を目的として、その目的に沿った活動を模索しています。

 三つの適正化は、もっとも基底となる「運営の適正化」を維持するために、「活動参加の適正化」「目的と活動の適正化」がリンクして機能します。「強制のないPTA」を作るためには「運営の適正化」「活動参加の適正化」を進める必要がありますが、それを支えるために「目的と活動の適正化」が大切です。
 つまり、三つの適正化はそのどれかだけを進めるのではなく、リンクさせて考えながら運営していくことがこれからのPTAにとって必要だと考えます。

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