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教育現場で使える「仕掛学」

みなさんこんにちは。
土日は部活と指導をして、平日は授業とボランティアとnoteを書く。
流石にこの流れも2年目の後半ともなると慣れてきました。
大学3年生の大杉です。

ところで最近私の中でのホットワードがあります。
それは「心理学」です。

「駆け引き」「発達心理学」「バイアス」などなど、私の中に心理学的な言葉が溢れてますね。

さて今日は、そういった心理に近い一つの学問「仕掛学」について、教育現場でも使えそうな要素を交えながらお話したいと思います。


仕掛学とは?

では最初に。仕掛学とはなんでしょうか。

仕掛学は、
人の意識や行動を変える「仕掛け」によって社会的課題を解決することを試みる研究テーマ(松村,2012)のことです。

仕掛学の例として近年見るようになったのは『投票型喫煙所』です。

画像引用:株式会社コソド

投票方喫煙所は、二択や三択の投票が書かれた灰皿のついている喫煙所です。

ただ吸い殻を捨てるだけではなく投票型にすることで、つい投票したくなる、つい使いたくなる仕組みを作り出しているのです。

この投票所はただ話題性の生産だけではなく、ポイ捨てを実際に削減する(渋谷での実証実験で9割減!)ことにもつながっているのです。


このように、仕掛学は人々の
「ついやってみたくなる」
を環境やモノを相互的に作用させながら実現しているのです。


もう一つ、仕掛学の面白い例を出します。

これはフォルクスワーゲンの「TheFuntheory.com」というサイトでの活動で、他にも音のするゴミ箱など、たくさんの面白い仕掛けを提供しています。

今回の動画はピアノの音のする階段で、実際に設置してから階段の使用率が66%以上もアップしたそうです。

ついやってみたくなる仕掛けは日本だけでなく世界にも広がっています。

仕掛学の基本

さて、そんな仕掛けはどうやって生まれるのでしょう。

ここまでにたびたび書いているのですが、その原則は
「ついやってみたくなる」
です。

そして、共通していることは
「目的としているものが『結果として』達成されている」ということです。

ついやってみたくなる

大事なのは、やらされるのではなくやってみたくなることです。
ここで、大阪大学の松村教授の著書
「仕掛学ー人を動かすアイデアの作り方ー,2016」
において示されている仕掛けの定義「FAD要件」も絡ませながら少し深掘りしましょう。

FAD要件は仕掛けを定義づける3つの要件のことで、

  • Fairness(公平性)

  • Attractiveness(誘引性)

  • Duality of purpose(目的の二重性)

を表します。

ついやってみたくなるに関係しているのはFとAで、
まず仕掛けによって誰も不利益を被らないような設計が必要です(公平性)。

そして、あくまで行動を「誘う」ものであり、「強要」するものではないことが重要です(誘引性)。
これに関連して、仕掛けは「行動の選択肢を増やすもの」ということができます。
もちろん行動をしない、これまで通りの行動をするという選択肢もありますが、そこに「誘う」仕掛けを使ってみたくなるという選択肢を増やすのです。


目的としているものが「結果として」達成されている

ここで3要件の最後の一つ、目的の二重性が出てきます。
あくまでも、仕掛ける側の目的(解決したい問題)と仕掛けられる側の目的(行動したくなる理由)は違います。

さっきの階段の例を出してみましょう。
仕掛ける側は、エレベーターの混雑を回避したい。または、運動量の増加を目的としているかもしれません。
ただ、仕掛けられる側はそんなことは微塵も考えず、ピアノみたいな階段を登るとどうなるのか。音が鳴ることを楽しみたい。そう思って階段を登るのです。


仕掛けの作り方

さてそれでは、仕掛けを作るにはどうすればいいのかを考えてみましょう。

私の中では、大きく3つの方法があると思っています。

1.行動の多義性を活用する。

わかりやすくいうと、同じ動詞で違う結果に誘導するということです。

余計にわからなくなったかもしれません。すみません。

というわけで恒例の例を見てみましょう。

画像引用:wikipedia

みなさんはこれをご存知ですか?
そう、ローマにある彫刻「真実の口」です。
手を口に入れると、偽りの心を持っている人は手を噛まれるなんて伝説がありますね。

最近この口をいろいろな会社や飲食店で見かけることがあります。
そしてこの口の中に手を入れると、なんと消毒液が出てきます

ここでの行動の多義性は、
真実の口に「手を入れて」楽しむ、ワクワクすることと
真実の口に「手を入れて」消毒することです。

このように、同じ行動から2つの結果を生み出し、仕掛けた側にも仕掛けられた側にもメリットを生み出すことができるのが、行動の多義性を利用するということです。

2.負担が小さく、便益の大きいものを考える

ここでいう負担は、仕掛けられる側がその仕掛けをする際に通常よりも余計にかかる労力のことを指し、便益は仕掛けによって期待される社会課題への貢献度を指します。

負担が大きい場合、仕掛けられる側はその負担を辛く感じ、せっかくの仕掛けを行わなくなる恐れがあります。

負担に対して便益が小さいと、せっかく負担をかけたのにあまり意味のない仕掛けとなるため、良い仕掛けとは言えません。

負担をできるだけ小さく、かつそれで得られる便益が大きい仕掛けを考えることができると、それはとても大きな意味を持つことになります。


とはいえ、大きな負担でも場合によっては仕掛けが作用することもあります。
例えばディズニーランドで、石鹸が通常と異なる形で出る場所があります。

そこではわざわざ手を洗いに行こうと思ってでも仕掛けられる側がやってみたい体験が待っているため、少なからず手を清潔に保てるという便益を得ることができます。


3.関係ない要素を結びつける

世の中の仕掛けを見てみると、仕掛け自体と目的としている効果にはあまり関連がないものが多いです。

例えば階段の例を出してみると、普通ピアノと階段は直接は結びつきませんし、消毒の例だと真実の口なんて普通出てきません。

そんな一見関係のないものからこそ、意外な仕掛けが出てくることもあります。

教育現場での仕掛学

では、これを教育の現場ではどのように活かすことができるのでしょうか。

実はこれ、正直実生活より使いやすいのではないかと思います。

というのも、子どもは好奇心が旺盛です。
ということは、「ついやってみたくなる」の度合いが大人より大きいのです。

それを踏まえると、例えば廊下の真ん中に真っ直ぐの線を引くだけでも、自然と左右どちらか一方通行で通ろうと子どもが意識するようになるかもしれません。

もう一つ、皆さんも小学生の時にやったことがあるかもしれません、「読書ビンゴ」について仕掛学の観点から調べた論文(小田,2020)もありました。
ここでは、子どもたちはビンゴを揃えたい、ただ全体の目的は知識・スキルの獲得を目指し、学習の基盤を提供するものとして仕掛学が機能していると述べています。

他にも、荷物の置き場に困っている時、タバコの例を応用して投票型の荷物置きスペースを設置すると、その場に荷物が集まるだけでなく整頓されたり、さらにはグループ分けにも使えたり、子ども同士のコミュニケーションのきっかけを生み出せたりなど、たくさんの便益があります。

教育現場における「便益」の定義は教師によって決めていけば良いものだと思いますが、私は
子どもが現場での目的に達するためにより効率的・効果的な動作を選択すること
とおくことにします。

そのために、子どもたちが負担と感じない「やってみたくなる行動」を設定することが、教育現場における仕掛けになります。

加えて、年齢や子どもの実態に応じて柔軟にその方法を変えていくことも必要です。

まとめ

仕掛学を広義に捉えると、
「目的とする結果のために、やってみたくなる別の目的の動作を当てはめる」ことになります。

やはり肝は「ついやってみたくなる」であり、いかにその設計を思いつくかが重要となります。
そのための手法はいくつか紹介しましたが、当然それだけではなく仕掛けを生み出すヒントはいくらでもあります。

世の中の「仕掛け」に気づき、仕掛学の観点から物事を捉えていくことで自分自身が仕掛けを生み出すきっかけを得ることができるようになるかと思います。

私も指導現場で実践中ではありますが、皆さんもぜひ色々試してみてください。

それではまた!!!

参考文献

・『仕掛学 人を動かすアイディアのつくり方』,松村真宏, 2016

・「読書ビンゴ」を活用した学校図書室の実践ー仕掛学の学校現場での活用ー, 小田郁予, 共栄大学研究論集, 第 19 号, p,177~186, 2020

・仕掛学概論:人々の人々による人々のための仕掛学 ,
 松村真宏, 人工知能学会誌, 第 28 巻, 4号, 2013, pp.584~589

・不便を活かす仕掛学, 松村真宏, 計測と制御, 第51巻, 第8号, 2012年8月号

・【スウェーデン】「楽しさ」が人々の行動を変える。フォルクスワーゲンが提唱する「ファン・セオリー」, Susutainable Japan,
公開日:2014.07.03, 最終閲覧日:2024.06.12
https://sustainablejapan.jp/2014/07/03/funtheory/10978

投票型喫煙所『ASK THE TOBACCO』(アスク・ザ・タバコ), 株式会社コソド, 最終閲覧日:2024.06.12 
https://cosodo.co.jp/ask-the-tobacco/


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