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星形の記憶(演劇集団LGBTI東京『Re 貴方の記憶コレクション』を観て)

あらかじめお断りしておきます。
今回は思いっきりネタバレありで書きます。
もう公演の幕は下りているお芝居の感想記録ですが、念のため。
あと、途中上演台本から台詞を引用しています。
ご容赦ください。


前置き

泣くことと、心に残るとは違う。
芝居や映画でも、大した泣かせどころでも泣くことはある。
その場での感動で泣くことはいくらでもある。
でも、その後の記憶には残らないことが多い。
今回は違う。
涙が自然と出ていた。
そして何より、いまだに心が揺さぶられている。

演劇集団LGBTI東京とのお付き合い

いつからお付き合いになるだろうか。小住優利子さん(ゆりこさん)と、ゆりこさんが主宰する「演劇集団LGBTI東京」と出会い、10年近いお付き合いさせていただいていると思う。


思う、というのは、正確な記憶がないからだ。この前後は俺自身に嵐が来ていて、前後の出来事がごちゃまぜになっているせいだ。

2016年に劇団が主催したイベントの、帰る間際にゆりこさんから「ニイモトさん、台本書いてください」とひとこと言われて、それを機に本格的に文章を書くことを再開させてもらった。
翌年もクリスマス公演の台本を書かせてもらい、それ以来、劇団及びゆりこさんには自分の演劇人生において節目節目でお世話になっている。
大変に恩義を感じている。

今回の本公演

その劇団の2023年の本公演「Re 貴方の記憶コレクション」を、初日の5月2日のソワレと6日のマチネに観劇をしに行った。
この劇団は毎年GWに本公演を打っている。
今回は5年前上演された「貴方の記憶コレクション」に「Re」をつけて再演。
この「Re」は、「リターン」または「リミックス」かな、と、推測しているけど、俺は「リミックス」だとして受け取った。

今回は6日間の公演日程のうち3日で区切られ、2~4日がAチーム5~7日がBチームと、公演日程の前半後半で役者が違う。
要するに座組2つでの公演。
うち4人が両方出ているけれど役が違う。
観る側は楽しいけど、やる側、特に自分に課したハードルとは言え、演出の優利子さんの負担は推して知るべし、だ。

本編に入る前に

演劇集団LGBTI東京は、その名前の通り、LGBTIQ Etc.のいわゆる「セクシャルマイノリティ」(セクマイ)の方が中心となって構成されている。性自認が「ストレート」の、「ストレートアライ」の方もいる。
「LGBT(IQ Etc.)」については、もう各自わかっていなさい、と思うし、俺がここで延々と講釈をたれて当事者の方から違うと思われることも嫌なので、割愛したいのだけれど。

俺自身、深く関わるまではLGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダー)という認識は持っていたけれど、Tのトランスジェンダーをよく理解していなかったし、多くのセクシャリティの方がいる、とまでは認識できていなかった。
それでいて、関わってこられたのは、この劇団に所属している方々が全員魅力的だからだ。

ゆりこさんに出会う前にも、過去にセクマイの方が身の回りにいたせいもあるだろう。
だからセクマイの方にフィルターがない。
逆にフェミニストの友人に「あなたは女性を神聖化しすぎている」と言われるくらいに、「性」に関して「差別感」を持っていないのだと、自己分析している。
合っているかどうかはわからないけれど。

いろいろな経験を積んできたセクシャリティマイノリティの方々と芝居を作るのは、そういったわけで、自然な流れに身を任せていたからそうなった、と訳だ。

この劇団の特色としてあげられるのは、「セクシャルマイノリティの方が所属する劇団」ということと、「役に役者が会わせず、役に役者のセクシャリティを合わせる」という点にある。
だから、当て書きをしないで書いた。
(したとて、配役は演出のゆりこさんに任せるので)

さてと

前書きが長くなった。

本公演は劇団員の方だけでなく、客演に様々なセクシャリティの方を呼んで、よりカラフルな色合いの強い芝居を作る。
今回はおーティションをかねたワークショップで選ばれた客演の方が多かったのと、俺が台本を書かせてもらった時より劇団員の方が増えたおかげで、2チームの座組、と相成ったわけだ。

本編

ここで、話を上演内容に移す。

「Re 貴方の記憶コレクション」の大雑把なあらすじとして。
大学から落ちこぼれかけている、現実に夢を見つけられない「普通」の大学生・いアオイが、友人のハルが自分の夢を叶えることを知り、自分自身の夢の「記憶」が欠落していることに迷いが芽生えるところから始まる。
ひとりで歩いていると、たまたま出会った建物「想起廊」(そうきろう)の中へ入ることになり、そこで出会ったオーナーに記憶を奪われてしまう。そこは「人の記憶からこぼれ落ちたもの」をコレクションする美術館だった……。
というファンタジー作品。

展示品として飾られていた「あお」と「レイ」のふたりの子供に連れられて、この想起廊から外の世界に戻るために、館内、というか、様々な人々の記憶をめぐっていく。
アオイがふたりの子供と共に現実世界でいる大人たちからこぼれ落ちた記憶がそこにはあり、ひとりひとり・ひとつひとつの「忘れていったもの」との出会いを通じて、自分自身の「記憶からこぼれ落ちたもの」と出会うまでが描かれる。

現実世界において大人達の記憶を追うピンクのバクと、甘い星に形を変えた人々のこぼれ落ちた記憶をつり上げる猫のニコルが象徴的に登場する。
バクと言えば、一般的にも夢の象徴としてお馴染みだけれど、この芝居のバクは大きい人形(と、ピンクの出で立ちをした演者)で表現される。
また、「甘い星」と言えば「銀河鉄道の夜」も想起させる。
銀河鉄道もいろいろな解釈があるけれど、ジョバンニの「夢」である、とも思える。
「人が眠るときの夢」と「人が抱く希望としての夢」のダブルミーニングで、夢が使われ、そして、「夢」と「記憶」が密接につながっている、というのがこのお芝居の主眼だと思う。
アオイが出会ったあおはアオイ自身の「こぼれ落ちた記憶」であり、レイはアオイの記憶の中から「こぼれ落ちた記憶」だということがわかり、アオイは記憶を取り戻し、想起廊から出て行く。

アオイが現実に戻った時、アオイの授業を担当している大学教授との会話で、教授はもっとアオイはもっと出来るのにどこか手を抜いていると指摘し、その上でアオイはこう言う。
「私、まっすぐに向き合うことが怖かったんだと思います。子どもの頃のようにひたむきに、何かと向き合うことが。失ったり叶わなかったりするんじゃないかって」
教授は、
「時間というものは矢のように過ぎ去っていきます。過去の美しさにばかり気を取られ、今を見つめることを疎かにしていては、そばにある大切なものを見落としてしまいますよ」と告げる。

俺はこのシーンで涙が出た。
5年前に同じ演目を観ているはずなのに、今回の方がグサッときた。
今の自分自身に、あまりに重なるからだと思う。
今、療養期間として、いったん環境を変えて何とか自分を新たにしたいと思っている。
だけれど、それが何か、迷い、見失っている。
どうしたいか、どうなりたいか、それははっきりしている。
ただ、「何かと向き合うことが」怖くて、「失ったり叶わなかったりするんじゃないか」と思っているのだろう。だろう、というのは、明確に行動できないでいる現実があるからだ。
その現実に対して、記憶の、「過去の美しさにばかり気を取られ、今を見つめることを疎かにしていては、そばにある大切なものを見落としてしまい」かけているのだろう。
5年前にはあまり響かなかったこのシーンが、この芝居のラストが、こんなにも腑に落ちるとは思わなかった。

俺自身に「記憶からこぼれ落ちたもの」の存在があるのだろう。
それを今、ここで答えがでたとしても、提出することはとても怖い。
ただ、その存在がはっきりと見えたことを、ここに言語化して書き留めていることは大切だと思う。

5年前の上演より深く刺さった、そのことに「Re」が「リターン」ではなく「リミックス」だと感じる所以だ。
チラシのビジュアルが一新されたことからも、それはうかがえる。

役柄と役者さんの紹介

ここからの文章は、役を紹介しながら、役者さんの印象を書き残して、締めようと思う。

悩める主人公・アオイ役。
Aチームの長月うさぎさんは初日に観劇したせいもあり、硬さがあったけれど、あおとレイに振り回される姿がファンタジーを盛り上げていて座頭として頑張っていたと思う。
Bチームの山同燐さんはカーテンコールで「Bチームの座長」として紹介されたことからもわかる、凜とした演技で主人公として話に芯をもたらしていた。

アオイとつるんでいる友人ハル役。
Aチームの中井晴輝さんは初舞台とのこととだが、全く感じさせない堂々と、現実のコミカルさ・記憶の中のプリティさが出ていたと思う。
Bチームの犬山こころさんは山同さんとの息もバッチリで、Aチームの中井さんとはまた違う意味でプリティだった。演技が俺好みだったな。

アオイを振り回し、想起廊から脱出させようとする、過去のアオイである、あお役。
Aチームの丹冴夏さんは、前回も同役を演じていて、芝居の押さえどころがわかっているおかげで、うさぎさんを振り回すのが上手かった。回想シーンもよかった。
Bチームは燈村美樹さん。アオイを振り回しながら、丹さんのあおより、より行動的だった印象。ロングヘアが揺れるさまが可愛かった。
Aチームのあおは活発に役でうさぎさんをリードし、Bチームのあおは自由に物語の中でアオイを振り回していた、という感じ。

あおと共にアオイを想起廊から脱出させようとする、何故か喋れれないレイ役。
Aチームの南雲美香さんは、細かい身体表現で、体が有言に物語を進めていた。丹さんと組むことでより一層舞台を賑やかでファンタジックにしていた。
Bチームは、前回と同じ役だったCONANくん。劇団に復帰したということもあり、見せるところの勘所はさすが。南雲さんが動きで引っ張るとしたら、CONANくんは存在感で引っ張っていった。喋らなくても絵になる。

想起廊のオーナー。狂気的なところもあるけれど、それだけでは持たせることが出来ない難役。
Aチームは桜井まゆちゃん。思いっきりヅカ風でいて、ファンタジーというジャンルの狂気の部分(俺が思ったのはティム・バートン映画のジョニー・デップ)を上手く出していたように思う。
Bチームは佐藤圭ちゃん。こちらは自己陶酔している大人が持つ狂気をファンタジーの世界に持ち込んでいて(俺がイメージするのはティム・バートン映画のヘレナ・ボナム・カーター)、こちらも良かった。

現実世界ではカフェの店員で、想起廊ではパティシエ役で登場する、大切な人のためにお菓子を作る役柄。
Aチームはマリア・ボーゲンことマリア君。初日の硬さがちょっと出てたけど、柔らかい演技で現実離れしたパティシエが似合っていた。
Bチームは伊月さん。こちらはマリア君とはまた違った、現実の安定感とファンタジーの浮遊感の両面があって、良い演技と思った。

現実では配達人、想起廊では郵便屋さんになる役。
Aチームは天沢誠さんが、長身を活かした表現で、郵便屋さんのそそっかしさを上手く出していたと思う。
Bチームは新崎めるさん。コミカルだけど、地に足がついている、というか、ファンタジーの世界を生きていた。
今回改めて観て、この役は案外難しいと思った。

富豪の未亡人・フメル役。
Aチームは中村伊佐さん。前回からの続投で、後述するロココが慕うのもわかる優雅な婦人の役作りが、想起廊の自宅(の記憶)の気品を想起させていた。
Bチームは片田好美さん。中村さんとは違う優雅さがあり、これまたロココが従いたくなるのもわかる気品があった。ダンスシーンが美しかった。

フメルを慕う家政婦のロココ役。
Aチームは塚本圭さん。こちらは執事としてフメルをずっと支えてきたのがわかる、ファンタジー世界がビシッとハマっているロココ。
Bチームは立花みず季さん。こちらはメイドとしてフメルを慕う役作り。フメルのことを愛していることが伝わってきた。
塚本さんは支えることで愛情が表現されるロココ、みず季さんはストレートに愛を持ってフメルに接するロココ、といった感じ。

現実世界では厳しい大学教授、想起廊ではミステリーハンターを名乗る冒険家のソウノ役。
Aチームは綾部奈津子さん。堅い教授とミステリーハンターの演じ分けが見事ではまり役だなと思った。ほんと適役だったなぁ。
Bチームは桜井まゆちゃん。綾部さんの大学教授然とした役作りとは違い、現実感のある教授で、ラストの説得力はさすがだった。
どちらの教授も胸を打たれたのだけど、綾部さんの教授は胸を打たれ、まゆちゃんの教授には感情を揺り動かされた。
実は、おふたりの教授で両方涙が出た。
良かったです。

想起廊にいる星の釣り人、猫のニコル。
Aチームはコナンくん。ますむらひろしが描く銀河鉄道の世界を想起させるような、ファンタジー世界に気品を持ち込んでいた。
Bチームはマリア君で、こちらはマリア君の持ち味で演じられた、どこか浮世離れして、それでいて愛らしい猫だった。

ピンクの出で立ちで、大きなバクの人形を操る「バク」役。
Aチームは、LGBTI東京には常連出演している内藤有香さん。こちらは自在にバクの人形を操りながら存在感のある演技だった。
Bチームは長月うさぎさん。こちらは存在自体が舞台上で役柄そのもの賭してバクとして舞台に立っていると思った。
どっちがいい悪いではなく、2種類の演じ方がある、と思った次第。

スタッフワークは、大変だろうと思ったけれど、ミチノ君はじめ信頼できるスタッフさんが増えていっているのはいいなあ、と純粋に思いました。

最後に照明と演出のゆりこさん。
本当にお疲れ様でした。
立派に2本立ての興業になってました。
照明の細かさはさすがだし、演出面では配役の采配が相変わらず上手いと思いました。そしてセクシャリティを活かした演出は言わずもがな。
今回は脱線要素が少なく、引き締まった「Re」を見せてもらいました。

締め

そんなわけで、思いっきり長文になりましたが、今回の感想はここで終わります。

お付き合いありがとうございました。

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