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薬局薬剤師のお仕事⑤ 医療用麻薬

「薬局薬剤師のお仕事」シリーズ。
第五回は「医療用麻薬」です。



前回はコチラ。



前回の在宅医療にも深く関わる部分です。
薬局で最も取り扱いに注意を要する医薬品。

それが医療用麻薬。

「この薬は医療用麻薬です」と私が説明すると、
本人は「もう終わりだ」という顔をして、ご家族からは「使いたくない」と言われてしまいます。

でも、それは誤解なんです。

今回は「医療用麻薬」について、皆さんに正しく理解してもらうことを目標とします。



医療用麻薬は「麻薬」とは違う


医療用麻薬は皆さんの考える「麻薬」とは異なります。

いきなりよく分からないことを書いてしまい恐縮ですが、これは言葉遊びではありません。

皆さんの思っている「麻薬」のイメージを当ててみましょう。

・依存になる
・中毒になる
・頭がおかしくなる

幼少期に口酸っぱく教えられた「ダメゼッタイ!」のイメージそのままだと思います。
そりゃそうです。むしろそれぐらい警戒しておいたほうがいい。

でもこれらは正確には「違法麻薬」の特徴です。


「医療用麻薬」とは、

麻薬及び向精神薬取締法により、医療用に使用が許可されている麻薬

のことで、つまりは医薬品。

簡単に言えば「依存にも中毒にもならないように、医師が細心の注意を払って処方する麻薬」なのです。



※なお、以降は医療用麻薬のことを単に「麻薬」と表記します。


身の置きどころのない痛み


ではそもそもなぜ麻薬が必要となるのか。

それは麻薬が「最強の痛み止め」に当たるからです。

特に、がん患者さんの痛みに対応する手段として用いられます。


がん末期の患者さんが感じる痛みは、よく「身の置きどころのない痛み」と表現されます。


経験したことのない強烈な痛みが続くことのほか、意識が混濁したり、孤独感にさいなまれたりします。

そうした複数の状況から発生する「身の置きどころのない痛み」とは、本人以外には決して理解できないものです。


そしてその痛みを唯一緩和できる可能性があるのが「麻薬」というわけです。



厳重な取り扱い


さて、そんな麻薬ですが、医師が適切に処方していたとしても、勝手に飲み方を変えたり、悪用したりすれば依存も中毒も起こします

そうすれば違法麻薬と変わらなくなります。


つまりそれは、薬局でも厳重な取り扱いが求められるということ。
盗まれでもしたらとんでもないことです。


たとえば以下のようなルールがあります。

金庫で保管しなければならない
数量の推移を全て国に報告しなければならない
薬局で廃棄するときは保健所の職員を呼んで廃棄する 


廃棄するときは、品目ごとに推奨される廃棄方法が決まっています。

出典:東京都保健医療局HP


麻薬が生み出した「時間」で


俺は麻薬には頼らない
麻薬を使いだしたらいよいよ終わりだ
医者が私を麻薬漬けにしようとしている

そんな言葉を何度も耳にしてきました。

でも、違うんですよ。
医療人として、それは明確に否定しておきたい。

私たちは、あなたの敵ではないです。
敵になるハズがありません。


私が一番、強調しておきたいことがあります。
それは「麻薬を何のために使うのか?」です。


麻薬を正しく使って「時間を生み出す」んです。



あなたが「つらい」としか思えないその時間が、「何をしようかな」と考える時間に変わります

あなたがベッドの上でうずくまって耐え続けている時間が、家族と話す時間に変わるのです

麻薬は、そのためにあります。



その痛みを本当の意味で理解できもしない、一介の医療人が偉そうなことは言えません。

でも「医療用麻薬」を過剰に怖がる必要はありません。
薬剤師として、それだけは正しく伝えさせていただきたいのです。


まとめ


今回は皆さんに誤解されやすい存在である「医療用麻薬」について書きました。

「適切に使う」といっても副作用はありますし、今回説明したような良い面ばかりではないのも事実です。

だからこそ、私が一番に伝えたかったことに絞って書きました。


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