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怪異猟兵のノクターン

 怪異猟兵と称される兵科が生まれたのは西暦一九四一年。奇怪なるオカルト部隊を編成したナチスドイツに対する神秘学的武装集団として英国で生まれた。

 それまでハンターと呼ばれる者や悪魔祓い師が個別に行っていた幽霊狩りを、今後は国軍が行う事にもなった。大戦が終われば、その思想は各国に普及し始める。それは日本皇国も例外ではなかった。

 植民地放棄政策が功を奏して第二次世界大戦に参戦しなかった日本皇国だったが、何故か怪異による陰惨な事件が多発していた。一九四五年に起きた幾つかの大火災も怪異の仕業とされている。

 国の舵取りを誤った所為だ、それ故に世の理が乱れたのだと言う流言飛語まで飛び交った。人の口に戸は立てられぬと判断した時の政府が、事件の元凶たる怪異を討つ事に躍起になったのも、無理からぬことであった。

 そして、生まれたのが皇国軍憲兵局付怪異猟兵部隊。西暦二〇二八年の今現在も、彼らは山岳猟兵や空挺猟兵などと同じく厳しい訓練をくぐり抜けたエリート部隊と目されている。

※※

「怪異猟兵は貴様で最後だ、一ノ瀬」
「私が最後か」

 相対者する黒づくめの男に仲間の死を告げられても、軍帽を目深にかぶった若き士官は梅雨に打たれながら笑うと、士官の傍らに立つゴシックドレス姿の少女も同じく笑った。

「我ら猟兵を、貴様らカルトが狩れると?」
「蛇が歪めた歴史は正さねばならない、何人にも邪魔させぬ」
「左様か」

 短く言い捨てて、若き士官は腰に帯びた刃を抜き放った。
 
「狂信者よ。いかにこの世が間違っていようとも、命を弄ぶ所業は私が許さん」
「よう言った、晃人。それでこそ我が弟子よ!」

 傍らの少女も言葉を添え刃を抜き構えると、黒づくめの男も刃を抜いて吠える。

「正しき歴史と神の前に散れ!」
「ほざけ! 師より伝授された怪異討滅の刃、その身に刻め!」

 交差する刃が火花を散らす。若き猟兵と怪異達との戦いの幕が切って落とされた。

【続く】

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