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【詩】近くて遠いあなたへ

昼の空の明度を下げて

セピアな色味を加えて

雲にほんのり桃色を差して

今、私が帰りの電車から見つめた一瞬の空

そこに浮かぶ月は

白とも黄とも金とも言えぬ

白銀のような、穢れなき淡い輝きがある

月が昇ってからまだ時は浅い

まだ手の届きそうなところに、あなたは浮かぶ


できもしないような高い目標を目指すことを

月を射る、と言うらしい

まだ、みんながあなたが空に昇ったことに気づかないうちには

あなたを近くに感じる

今なら、そこに行けるだろうか

でも日が沈み、あなたが空高く私たちの頭上に上がる頃には

あなたは遠い

いつか

青青と茂った草原が広がる小高い丘から

あなたを射ってみようか

いいや

きっと私たちのあいだにあるこの距離が大切だ

暗闇を生きる私たちを照らす、孤独な責任を負う前に

東の空の低いところに浮かぶあなたと

私だけの関係がある


太陽のじんわりとした明るさが差し引かれて

深い青が限りなく黒に近づいていく空に

あなたが昇っていく

顎を高く上げて、背筋を伸ばし、何か大切な舞台への階段を

一段一段、上がっていく貴婦人のように


近いようで果てなく遠いあなた


私はいつもあなたがそこにいることを想っている

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