この怒りは、悔しさは他人事じゃないー『プロミシング・ヤング・ウーマン』(2020)
「痛快な復讐劇」そんなつもりで観に行った私は、最後には泣いていた。
『プロミシング・ヤング・ウーマン(原題:Promising Young Woman)』を観てきました。
今年のアカデミー賞で作品賞・監督賞・脚本賞・主演女優賞・編集賞にノミネートされ、脚本賞を受賞していたので、ずっと気になっていた作品です。
監督は、エメラルド・フェネル。
1985年、イギリス・ロンドン出身。ゴールデン・グローブ賞ノミネートとエミー賞ノミネートの実績を持つ脚本家、クリエイター、映画製作者、女優。「ザ・クラウン」シーズン3からカミラ・パーカー=ボウルズ役で出演、絶賛されている。
様々な顔を持つ彼女、『ザ・クラウン』ファンの私としては、あのカミラか!と驚きました。また、本作で重要な役を演じるボー・バーナムも、同じく多才な方のようで、ビックリです。
1990年、米・マサチューセッツ州出身。脚本家、監督、コメディアン、作曲家、俳優。2018年にサンダンス映画祭でプレミア上映された、初監督映画『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』が絶賛され、数々の映画賞にノミネートされる。
そして何よりも注目していたのは、主演のキャリー・マリガンです。「大人しくて、可愛らしい」イメージの女優さんと記憶していたので、派手な彼女のイメージを予告編で見て目を疑いました。(それが皮肉にも彼女がハマり役である理由だけども)
それではネタバレは避けつつ、感想を書きたいと思います。
冒頭のシーンで流れるのはCharli XCXの『Boys』。
ゲームサウンドのような音を使った耳に残るフレーズと、世界各国の「Boys」が登場するこのMV、覚えている人も多いのではないでしょうか。
※日本からは、TAKA(ロックバンド「ONE OK ROCK」のヴォーカル)SHOKICHI(EXILE THE SECONDのヴォーカル 兼 パフォーマー)が出演。
I was busy thinking 'bout boys
Boys, boys
I was busy dreaming 'bout boys
Boys, boys
Head is spinning thinking 'bout boys
私はただ「カワイイ曲だな」と思って、聞いていました。
しかし実はCharli XCXは、「女性がいつもビデオなどでさせられるセクシーなことを、男性にさせる」という思いをMVに込めていたり・・・と、
男性・女性という性の違いによって注がれる視線の違いがあることに問題意識を持って『Boys』をプロデュースしたみたいです。
そんな『Boys』をBGMにして映るのは、クネクネと踊る中年男性の特に魅力的でもない下半身(もちろん服は着てます笑)。
違和感の中で始まった、という感じでした。
なんだか、すごくイヤな感じの男性性の強調というか。
皮肉たっぷりのオープニングです。
踊る男性たちで賑やかなそのバーで、ひとり酔い潰れている女性がいます。
そう、彼女がこの映画の主人公・キャシー(キャリー・マリガン)です。
男たちが彼女をイヤらしい目で見る中、親切そうな男性が見かねて?彼女に声をかけます。
「大丈夫か」 「家まで送ってあげよう」
しかしその後、彼はキャシーを自宅に連れて帰り、既に酔い潰れたキャシーに更に酒を飲ませようとして・・・。
この映画を観てまず感じたのは「どうせ誰も信じられない、信じたくない」というキャシーの無力感でした。
派手な格好で、派手なメイクをして酔い潰れるキャシーの姿を見た男たちは、「アイツはイケるな」と手を出しに行きます。
キャシーが清楚な格好をして、シラフだったなら、手を出さない男もいるかもしれません。
では、襲われてしまうのは「そういう格好や外見」であったり、酔い潰れてしまう女性の責任なのでしょうか。
絶対に違います。
自分の欲求のままに手を出す人の責任です。
この映画では男性だけでなく、襲われてしまうのは女性の「弱さ=酔い潰れてしまう、拒否できない」の問題・責任だ、と考える女性がいることが描かれています。
そうしてPromising Young Man(将来有望な男性)だけが学校や組織、社会から守られ、女性は見放されるのです。
キャシーの親友、ニーナはそんな悪夢の犠牲者の1人だったのです。
そして、悪夢の記憶に耐えきれずに死んでしまいました。
一方で、彼女の人生を壊した張本人は何のお咎めもなく、美人モデルとの結婚を控えています。
どんだけ悪人ヅラの男かと期待すれば、
『ハイスクールミュージカル』のトロイや、『グリー』のフィン的な雰囲気の優イケ男。
そう、この映画ではこういう失望も味わえます。
見るからに危なそうで、悪そうな男だけが女性を傷つけるわけではないのです。
誰も信用できないのだというキャシーの残酷な現実を、我々は何度も突きつけられます。
私にとって、この映画は全く痛快ではありませんでした。
キャシーは、ニーナの受けた悪夢のような仕打ちに囚われ続けていました。ニーナを救えなかった自分自身を一番許すことができないからこそ、自分自身の人生を歩むことができなくなっていました。
キャシーの表情はいつも苦しそうで、「女性である」というだけで降りかかる全ての屈辱に怒っていました。
そしてニーナを傷つけた全ての人に、怒り・悔しさ・苦しみ・恐怖を「誰かのもの」ではなく「自分のもの」として、味あわせたかったたのだと思います。
映画が終わって流した涙は、やりきれない悔し涙でした。
脚本は、キャシーの作戦は、確かに優れていたけれど。
☆ 追記
予告編を見て、主演があの!キャリー・マリガンだ!ということに気づいて本当に驚いたんです!!!
それは、以前観た彼女の出演作品(『わたしを離さないで』や『華麗なるギャッツビー』)での印象とはかけ離れていたから。
上の写真は、『プロミシング・ヤング・ウーマン』で見せたド派手なナース姿。そして、下の写真の手前の女性が『わたしを離さないで』における彼女の姿です。印象は大きく変わっていますよね。
今では、キャシーをキャリー・マリガンが演じたということに、観る前は驚きと、そして観賞後は深い納得がついてくる素晴らしいキャスティングだと感じています。
あと、劇中で流れた音楽たちにどハマりしてます・・・!
”It's Raining Men”(DeathbyRomy)は、ガツンと顔面にパンチ食らった感じです。もともとThe Weather Girlsが1982年に歌った曲で、その後も頻繁にカバーされているみたいです。
It's raining men, hallelujah!
It's raining men, amen!
"Drinks"(Cyn)も良い!
そして、極め付けはBritney Spearsの"Toxic"のアレンジ演奏。
あの特徴的なメロディが、こんなにも不穏に不気味になるんですね・・・。
この映画を観てから、このプレイリストとBritneyを聞きまくっているのでした。
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