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-小説- うたたねのこぼれ種

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2022年11月の記事一覧

-小説- うたたねのこぼれ種【5.メロン】

-小説- うたたねのこぼれ種【5.メロン】

UNBIRTHDAY FESのステージで、シンはRound Scapeとしてピアノを弾いた。自分の演奏が明るく響きわたる感覚は久しぶりだった。Round Scapeの音を聞いて笑顔が揺れる景色は忘れられない。
ぴったりとくるものは見ればわかる。亮と若葉が並ぶ姿を見て、シンは一歩踏み出すことができた。今となっては、不器用でまっすぐな二人をそばで見ているのが楽しいとすら感じている。

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-小説- うたたねのこぼれ種【6.りんご】

-小説- うたたねのこぼれ種【6.りんご】

俺は、バンドを始めることにした。

暇そうにしていた大介(だいすけ)、光樹(こうき)、拓海(たくみ)を誘ってみたら、意外にもあっさりOKしてくれた。それから、音楽のことがわかる奴もいた方がいいと思って、ほとんど喋ったことはないが、中学の時に吹奏楽部でトランペットをしていた聡(さとる)にも声をかけると、「僕でよければ」という控えめな言葉と共に入ってくれた。

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-小説- うたたねのこぼれ種【7.桃】

-小説- うたたねのこぼれ種【7.桃】



「店、ここやで」
「ここか。例のウーロン茶のうまい店は」
大介の後に続いて亮が「居酒屋 ぐるり」と書かれたのれんをくぐると、威勢のいい声が響いた。
「いらっしゃい。おー、来たな、亮」
「おい、拓海か。ここで働いてんのか」
「俺の店や。店長さんやで」
 続いて、カウンターに座る客が亮に声をかけた。
「亮、久しぶり。俺らわかるか?」
「おー、光樹と聡や。久しぶりやな」

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-小説- うたたねのこぼれ種【8.栗】

-小説- うたたねのこぼれ種【8.栗】


「森下さん、バイト辞めるんだって?」
「はい。今日で最後です。最近、たくさんシフト変わってもらってありがとうございました」
「別に。私は、バイトの他にすることもないからさ」
「お世話になりました」
若葉のバイト先の百円均一ショップのロッカールームで、同じくバイトの土屋茉子(つちやまこ)に声をかけられた。同じくらいの年齢だが、挨拶をするくらいで特に話をすることもなかったから、若葉は少し驚いた。

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-小説- うたたねのこぼれ種【9.あんず】

-小説- うたたねのこぼれ種【9.あんず】

「はじめまして」
「はじめまして。ニーナデザインの新野彩と申します。よろしくお願いします」
「佐久間創(さくまつくる)です。よろしくお願いします」
お互いに名刺を受け取ると、その文字を見てはっとした。

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