マガジンのカバー画像

-小説- うたたねのこぼれ種

10
運営しているクリエイター

2022年10月の記事一覧

-小説- うたたねのこぼれ種 【1.ゆず】

-小説- うたたねのこぼれ種 【1.ゆず】

窓の外から、あいさつ、笑い声、名前を呼ぶ声、様々な声色が混ざり合って聞こえてくる。下校する声の波が、大きくなったり小さくなったりしながら、次第に遠く引いていく。僕は、その波の中にいるよりも、離れたところで聞いている方が好きだ。

ピアノの鍵盤の上で指が遊ぶ。指を跳ね返す鍵盤の感覚が心地いい。このピアノは、いつもにぎやかな声を聞いているからか、音がはっきりとしていて元気なピアノだなと思う。

放課後

もっとみる
-小説- うたたねのこぼれ種 【2.いちご】

-小説- うたたねのこぼれ種 【2.いちご】

見上げた空はとても優しい色をしていた。遠くに雲が薄く浮かんでいる。シンの店「珈琲と音楽 うたたね」のそばにある川は今日も静かに流れていく。開店前に店の周りを散歩して、庭の様子を眺めるのがシンの毎朝の日課だ。朝の空気をしっかりと吸いながら歩いているうちに、体が起きてくる。

庭のハーブに引っかかった枯れ葉を集めていると、かすかにいい香りがしてくる。指に触れる朝露が心地よく、不思議と指先が温まってくる

もっとみる
-小説- うたたねのこぼれ種 【3.ヤマモモ】

-小説- うたたねのこぼれ種 【3.ヤマモモ】

昨日一日来なかっただけで、店には静寂がしっかりと詰まっている。昨日は、父親の病院への付き添いがあったため、シンは店を休みにしていた。シンは、どこかよそよそしい雰囲気を取り払うように、窓を開け、空気を入れ替えて、テーブルを丁寧に拭いて、店の前の掃き掃除をして回る。

もっとみる
-小説- うたたねのこぼれ種【4.ぶどう】

-小説- うたたねのこぼれ種【4.ぶどう】

夏の定番となった数々の大型フェスの中、小規模・中規模のフェスもまた勢いを増している。小規模から中規模フェスへの過渡期にある「UNBIRTHDAY FES」から目が離せない。
このフェスを仕掛けるのは、岩瀬(いわせ)アリス。彼女の歌声に励まされてきた人も多いはずだ。
今回のインタビューでは、「UNBIRTHDAY FES」に込めた思いや、魅力について話を聞いた。「UNBIRTHDAY FES」につい

もっとみる