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【レビュー】THE NOVEMBERS / At The Beginning (2020年5月発売)


喜でも怒でも哀でも楽でも0でも1でもない思い

巷に溢れる曲の多くは、1曲を通じて1つの感情や思いが表現されるのが普通ではないかと考える。
1つの題材がいくつかの視点で切り取りとられたり、ストーリーに乗って展開されたりする。

例外もあると思うが、THE NOVEMBERSのこれまでの曲の多くも、1曲で1つの題材が表現されてきたと感じる。

しかし、今回のアルバムでは、1曲の中で複数の思いが感じられることがあった。

瞬間的には言葉で表せないような独特の感覚が、聴いたそばから、聴いた後でも強く残った。

例えば、1曲目の"Rainbow"では、優しく歌われているのにその後方で鳴る激しいビートから怒りが感じられたり、ポジティブな開放感を持つ伸びやかな歌声が途中からシャウトに変わって恐怖のように感じることがあった。

「Aメロからサビでリズムや音色がガラッと変わる」というように、曲の部分によって曲調が変わるのも、複数の思いが感じられる要因だとは思う。

しかし、アルバムを聴いていると、聴いたそばから同時進行的に複雑な感情を感じることが多かった。
それは今までであまり体験したことがない。


単純に振り分けられない思いを表現しているのだろうか?
それこそ1曲目のタイトルのように、様々な色が、感情が、混ざり合ったものかもしれない。

ジャケットイラストにある球体もまさに虹色で、それを象徴しているよう。
ただし、このイラストからは、世界の始まりを表しているとも、世界の終わりを表しているとも、また、その間の変化の途中を表しているとも見える。

聴いてすぐ感じる感情だけじゃなく、聴いて感じた後の解釈も、1つでなく何通りもできるかのようである。

不思議と、昨今の社会情勢や大きな社会的変化とリンクしているようでもある。
「良いか悪いか」ではない、「善か悪か」ではない、「○か×か」ではない、「二元論」ではないものの議論が急激に叫ばれ始めているように。


また、1曲1曲の多彩さもさる事ながら、とにかく曲のダイナミズムが大きい。しかも意図しないポイントでダイナミズムが急に現れる。

とてつもない高揚感を感じるし、根こそぎ気持ちが持っていかれる。
"理解者"のサビ終わりからトランシーなダンスビートに変わるポイントは、ライブで演奏されたら皆が狂乱の渦になりそうである。


全体通して、かなり挑戦的で、自分たちの存在証明を世界に突きつけているような印象を持った。
これまでの流れを含む作品だが、それでも他より突き抜けていて衝撃的なアルバム。

激しく複雑な思いが表されてはいるが、最終曲の"開け放たれた窓"のように、未来を見据えた優しさも随所で感じられる。
祈りのような、讃美歌のような、とても心地よく感じる。

ここからTHE NOVEMBERSがどう始まっていくのか、楽しみでならない。


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