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【ディスクレビュー】吉田一郎不可触世界 / えぴせし (2020.5.13 発売)

どこか懐かしく、日常を感じる。

猫のこと、コーヒーのこと、おばけのこと。
生活に出てくるキーワードが歌詞には並んでいる。

メロディもキャッチーで、優しい人柄が出ているような落ち着いた声に癒される。

でも、シュールなのだ。
パズルのピースは全部揃っているのに、正確に当てはめていっても、いびつで凸凹なものが完成してしまうような感覚。

1つ1つの単語や文はありふれているのに、まとまりで聴いてみると「味わい深い」とも、「哲学的」とも、「?!」とも感じる歌詞がインパクト大。

化石になってる 恐竜は死んでいた
きみのくちの形に 見惚れてしまったよ
やさしさを食べさせてあげる 憎しみを味わわせてあげる
"えぴせし"
最適解がハマって ゼリーの雨が降ってる
かたちじゃないのよ かたちなの
流行歌に別れを交わしたよ 別にそんな気ないけど
”ゼリーの雨で眠れない”

音像はシンセポップ、アーバンポップなど、全体的にはどこか90年代の音楽のよう。ビートが効いている曲が多いが、その後ろではではディレイやリバーブがかかった音が流れていて、その対比がなんとも心地よい。そして、歌モノかと思わせて、小気味よいダンスが踊れるくらいにはノレてしまう曲もあって、これは不思議な感覚。

日常だからいびつなのか、いびつだから日常なのか、いびつなのに心地よいのか、だから日常なのか。そして、それが楽しいのか、絶望なのか、虚無なのか。

どんな方向からでも言い表せない、今ここの現実世界が見えるようでもある。


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