台本を公開しながら更新して完成させてみる~『ありの一決』という台本③~

 部屋は一瞬無人になる。
 少ししてジバさんとヒメ子が入ってくる。
 
ヒメ子 全然違ってた。こっちか。
ジバさん 直らんね。
ヒメ子 直そうと思ってない。
ジバさん ですよね。
 
 ジバさん、ヒメ子の順で傘を傘立てにしまう。
 ヒメ子はすでに置いてある会長の傘に目をやる。
 
ヒメ子 アタシには穂希(ほまれ)いるから。
ジバさん 目の前にいる時だけ言うな。
ヒメ子 ばれた?
ジバさん 余裕でばれてる。
 
 ジバさんは3人の姿が見えず一瞬戸惑う。
 
ヒメ子 みんな屋上行ってるって。
 
 ヒメ子はスマホを取り出しながら上着を脱いでいる。
 
ジバさん 屋上? あ、今日干してたな。
ヒメ子 あのお茶用の草?
ジバさん 草って。
ヒメ子 草じゃん。
ジバさん いやそうだけど。ヒメ子だなあ。
ヒメ子 語彙力無いから。てか、あれしらない? あれ、服かけるやつ。
ジバさん おっさんやん。
ヒメ子 いやマジおじさん。どんどんおじさんになってる。
ジバさん 辛い。
ヒメ子 穂希もすぐこうなるから。
ジバさん おばさんじゃなくて?
ヒメ子 あー……どっちかな。おばさんっぽさは前からあるしな。
ジバさん サラッと酷くない。
ヒメ子 いやよく知ってるでしょ。
ジバさん 知ってる。
ヒメ子 てかどこ?
 
 ヒメ子は上着を持ちながらさまよっている。
 
ジバさん あ、貸してそれ。
 
 ジバさんはヒメ子の上着をウォールハンガーにひっかける。
 
ヒメ子 うわ。ちょっと進化してる!
ジバさん 他にもあるよ。
ヒメ子 ……植物?
ジバさん あってるけど、それは趣味、ただの。
ヒメ子 えー何?
ジバさん ヒント、壁。
ヒメ子 それも壁? ええ?
 
 ヒメ子は辺りの壁それぞれに目をやるが、めぼしいものは見つからない。
 
ヒメ子 全然わからん。メニュー?
ジバさん ノー。
ヒメ子 ギブ。
ジバさん 壁紙です。
ヒメ子 え? ああー……ああ?
 
 ヒメ子は壁紙に顔を近づけて目を凝らす。
 
ヒメ子 いやこれはわかんないって。だって色変わってないじゃん。てかホントに変わってる?
ジバさん 変わってるよ。
ヒメ子 やるならもっと大胆にやりゃいのに。
ジバさん 言いました。
ヒメ子 言うよね。みんな言うと思う。てかマスター手伝わなくていいの? 全然戻ってこないし。
ジバさん いいでしょ。3人いるし。
ヒメ子 ですよね!
ジバさん 絶対手伝う気ないやん。
ヒメ子 あるよ! やらないだけ。
ジバさん 自信持って言う?
ヒメ子 自身を持ってやらんと言うのだ。
ジバさん どういうこと。
ヒメ子 てか遅いね。結構大変なの?
ジバさん たぶんいつものハーブ以外もたくさん干してるから今日。まな板とかタオルとか。
ヒメ子 まあ雨ばっかりだったもんね。
ジバさん せめて夜までもってほしかったけど。
ヒメ子 まあ最初からあの3人いても疲れるし。ゆーーーっくり戻ってきてほしい。時間かけて。
ジバさん それな。実際うるさいから出てきた感ある。
ヒメ子 流石ジバさん。
 
 ジバさんは急に笑いを堪えて顔に手を当てる。
 
ヒメ子 え、怖。
ジバさん いや、そりゃそうよなって。
ヒメ子 何?
ジバさん 久しぶりに皆いるなって思ってさ。そりゃあの3人ならトゲっちだわ。
ヒメ子 急に当てつけ?
ジバさん 違うよ。逆に学生の時はどうだったの? あの時も消去法?
ヒメ子 消去法って言うなよ。
ジバさん ごめん。リベンジ。
ヒメ子 穂希だからいいけど。
ジバさん あざす。
ヒメ子 まあ最初は……なんか他より綺麗だったし。
ジバさん わかる。十代とかがんばってもおぼこいやん? けどトゲっちちゃんと落ち着いてたもん。
ヒメ子 それ、整ってた。
ジバさん さっきの話聞いてたら余計別れなくても良かったんじゃって思う。
 
 ヒメ子は自分の口の前に指で×を作る。それから奥側のドアの方を見る
 
ジバさん え?
ヒメ子 あたしはいいけど。一応、今日いるし。
ジバさん ……今度聞く。
ヒメ子 そうして。
ジバさん トゲっちさ、結婚するんだって。
ヒメ子 よかったじゃん。やっと落ち着いたね。
ジバさん 相手には苦労しなさそうだけどね。
ヒメ子 ……穂希さ。いや、ちょい待ち。
ジバさん 何?
 
 店の奥側からナベ、ムネオが出てくる。
 
ナベ ちょっとボヤ事件のこと思い出してました。
ムネオ 俺も。
 
  2人が入ってくるのを見て小声で話すジバさんとヒメ子。 
 
ジバさん 勘えぐ。
ヒメ子 こういうのあたしマジですごいから。
ジバさん うんうん。
 
 入ってくる2人を黙って見るジバさんとヒメ子。
 トゲっちも現れる。
 
トゲっち 頑固、ではないんだけどなあ。
ナベ あの時も最初「大丈夫大丈夫」って、全然大丈夫じゃないんですよ。
ムネオ マジそれな。
ナベ ちょっと過大評価してるんすよね。
 
 少し遅れてマスター出てくる。
 
マスター 何とかなるかと思ったんだけど。
ムネオ 前も同じようなこと言ってましたよ。
トゲっち そうっすよ。
マスター 気をつけます。ちょっとあったかいの何か出そうか……あ! いらっしゃい!
ヒメ子 ご無沙汰です。
ナベ ヒメ子さん‼ おつかれさまです! ご無沙汰してます。
トゲっち おつかれ!
ムネオ 久しぶり。
ナベ さおりちゃん元気ですか?
ヒメ子 元気すぎ。朝から晩までずっと何か喋ってる。
ナベ 可愛いですねー!
 
 マスターは皆を横目にキッチン側で作業をしている。
 
トゲっち 今日料理するんですか?
ナベ 復活?
マスター まさか。
 
 マスターはインスタント料理のパッケージを見せる。
 
ナベ ああ……。
マスター さおりちゃん……2歳だっけ?
ヒメ子 はい。来月で。もうあと2週間。
マスター 一番かわいい頃だね。イヤイヤ多くて大変でしょ?
ヒメ子 大変です! マジで大変! イヤイヤっていうか、世界に好きか嫌いしかない感じ? そこにルール教えていくっていうか。
ナベ お母さんっすねえ。
ヒメ子 代わってみる?
ナベ そこは旦那さんの、ね! 荷が重いですよ、僕なんかじゃ。
ムネオ やったらいいんじゃね。色々鍛えられるって。
ジバさん ムネオこそやってみた方がいいと思うけど。
ムネオ 俺? 俺はいつでもやる気満々だよ。
ジバさん やる気でなんとかなるもんなの?
ヒメ子 全然。あれやればこれが解決する、じゃないから。
ジバさん だってさ。
ムネオ 大丈夫。俺ならできると信じてる。
トゲっち けどあれだな、参加できるようなキャンプ考えなきゃ。
ヒメ子 まあ、あたしは行けたら行くでいいよ。正直当日になってみなきゃわかんないし。
トゲっち いやいやせっかく今日来てくれたんだし。
ヒメ子 ありがと。けど急に熱出したりとかあるから。
ジバさん そっかー。
ナベ ムネさんのとか絶対無理でしょ。どこ持ってきたんですか?
ムネオ 最初から決めんなよ。
ナベ じゃどこなんですか?
ムネオ 勝浦。
ナベ 近! てか海じゃないですか。何で?
ムネオ たまにはいいだろ。
ナベ いやいやおかしいでしょ。さっきまでの話し合い覚えてます? ねえ刺さん。
トゲっち お前急に日和ったな。(ムネオに)
ムネオ そんなことないよ。それに最初から誰か参加できない前提はおかしいだろ。
ナベ いやそれはそうですけど、ヒメ子さんは来れるか来れないかわからないんですよ。
ヒメ子 うん、あたしはどっちでもいいよ。
ムネオ だと言って可能性ゼロにするのは違うじゃん。
 
 マスターがピーナッツなどが入った皿を持ってくる。
 
マスター はいはい。頭使うんならナッツがいいよ。
トゲっち ありがとうございます。
ジバさん つまみだけ……。
ナベ 逆ですよね、順番
マスター 出すよ出すよ。
ムネオ おめーも手伝って来いよ。
ナベ いや話し合う空気だから座ってるんですよ。
マスター お待たせしました。ね、せっかく集まったんだし。
トゲっち こちらがですよ。全員じゃないけど、とりあえず始めます。
 
 マスターはオーダーメモとペンを手にする。
 
マスター もちろんミーティングも大事だけどね。男子3人と、ジバちゃんもビール?
ジバさん あ、はい。
マスター ヒメちゃんはアルコールはまだ?
ヒメ子 一応、ちょっとはいいらしいんですけど、抑えときます。何あるかわかんないし。
マスター 偉いね。とりあえずお茶作るね。店で一番体に優しいの出すから。
ヒメ子 ハーブティーですね。
マスター そう、ハーブティーなんだよ本当は。みんなお茶お茶言うけどさ、メニューにもちゃんと書いてるんだよ。
 
 マスターはそう言いながらキッチン側に向かう。
 
ジバさん さっき草って。
ヒメ子 え、良く聞こえなーい。
ナベ けどヒメ子さん変わらずオシャレじゃないですか。
トゲっち ナベ、それ。
ムネオ 思っとけ。お前は。
ナベ ええー。もうわかんないっすよ。
ヒメ子 いいよ。言ってくれるの嬉しい。何気に頑張ってるから。
ナベ 本当ですか?
ヒメ子 うん。ナベだったらまあ許せる。お前らは思っとけってなる。
 
 ヒメ子はムネオとトゲっちを見て言う。
 ナベも2人を見て得意げな表情をする。
 
ムネオ そうしてたじゃん。お前そのどや顔やめろよ。
トゲっち まあまあ。この煽ってくる感じ懐かしいわ。
ムネオ いらねー。
ヒメ子 2人もそのまま2人って感じ。
ムネオ そうか?
ヒメ子 うん。見た目はちゃんとおじさんになってるけど。
ムネオ だよなあ。30入ったら白髪が超増えてさ。
 
 マスターが飲み物をテーブルに持ってくる。
 
マスター はいまずビールね。
 
 トゲっち、ムネオ、ナベ、ジバさん各々に受け取る。
 そしてポット付きのティーセットを持ってくる。 
 
マスター お待たせしましたハーブティーです。今日のはレモンバームです。
ヒメ子 ありがとうございます。
 
 マスターがヒメ子の席にティーセットを置く。
 
マスター ちなみにさっきのはブレンド。
トゲっち へえ。何か違うんですか?
マスター ストックがあるからすぐ出せる。
トゲっち そういうことじゃないっすよ。
マスター ヒメちゃんのは上から持ってきたやつ。新品だよ。
ヒメ子 ああ。わざわざどうも。
マスター いえいえ。久しぶりだからゆっくりしてってね。
ヒメ子 はーい。
ムネオ じゃ会長まだだけど、とりあえず始めますか。
ジバさん そうしようか。
ムネオ 乾杯は?
ジバさん トゲっちお願い。
トゲっち 了解しました。
ナベ こういう時の副会長!
ムネオ 名ばかり!
トゲっち うるさいよ。こういう時だけ手を組むなよ。
ジバさん 泡消えてまーす。
トゲっち はい! じゃあまだみんな揃いきってないけど、まずは2年ぶりに集まれたってことで乾杯!
全員 乾杯!
 
 各々、自分たちの飲み物を口にする。
 
ムネオ あー……アルコールが染みる。
ナベ 絶対変ですよね? ムネさんの。
ムネオ 変じゃないよ。
ナベ アルコールが染みるって何かの試験紙ですか。
ジバさん リトマス紙的な。
ナベ そうそう。
ヒメ子 青から赤に変わる。
トゲっち 酔っぱらって。
ムネオ やめろ! 集中攻撃は。
トゲっち まあでも実際ムネオが一番健康的じゃね? 俺も気にするけど、気にするで終わっちゃうんだよな。
ジバさん ちゃんと行動するところが偉いよね。
ムネオ あ、ありがとう……何でニヤニヤしてるんだよ。(ヒメ子に)
ヒメ子 わかりやすい。
ムネオ いいじゃんかよ。
ナベ わかりやすい試験紙、高品質。
 
 ムネオはナベを睨む。
 
ジバさん まあ実際そんな気にするほどじゃないよ、白髪。
ムネオ 本当? 言ってくれるとちょっと安心する。いやさ、自分でも昔とちっとも変われてない所多くて。それで老けてくの大丈夫かって、やっぱ思うわけよ。
トゲっち ……ってどういうこと?
ヒメ子 内面の話?
ムネオ そう。
ヒメ子 自覚あるんだ。
ムネオ 手厳しいなあ。
ナベ ヒメ子さんもっと言ってやってください。
ヒメ子 もちろんナベも。
ナベ ……はい。
ジバさん 大丈夫でしょ。それこそマルチにハマって連絡とれんくらいになるよりさ。
ムネオ おたけと比べんなよ。
 
 マスターがカップを人数分運んでくる。
 
マスター はいスープです。インスタントだけどね。
ムネオ&ナベ ありがとうございます。
トゲっち 全然いいっすよインスタント。
ヒメ子 キャンプっぽいよね。
トゲっち そうそう。
ナベ けっこういい匂いですね。ただのインスタントですか?
マスター 実はプラスしてバジルを使ってる。
ムネオ あ。さっき言ってた畑の?
ヒメ子 畑? 食材用ってことですか?
マスター ちょっとね。いつかは全部自給したいけど。
ムネオ その時は畑もマスターがやるんですか?
マスター いやいや全部は厳しいよ。人も見つけなきゃ。
トゲっち ジバさんやったら。
ナベ それいいじんゃないですか? マスターがやる気になって料理復活するかも。
トゲっち うん、いいじゃんその流れ。
ジバさん わりと……アリかも。
ムネオ お。マジで?
マスター 畑もいいよ。キャンプとはまた違って。
ジバさん 会長も呼んでいいですか?
マスター もちろん。
トゲっち インスタント久しぶりだわ。
ムネオ 思い出すな。
ナベ 秋の朝とか、超いいんすよね。
ジバさん うん、いい。あと朝といえばカッコウ。
ヒメ子 あのクソ鳥か。
ムネオ 口悪いな。母親だろ。
ヒメ子 今日はいいの。
ナベ あれそんなうるさかったんですか? よく言ってますけど。
ジバさん なんかさ、いっぺん追い払ったのよ。なのに戻ってきてさ。
ムネオ 誰か求愛されてたんじゃねえの?
ジバさん ヒメ子かな。
ヒメ子 うるさいのはいらん。
ジバさん あの時も焼鳥にして食ったるとか言ってて。
ナベ さすがヒメさん。
ジバさん で、一連全部終わっても会長爆睡してんの。
ナベ 超想像できます、あの人。
ヒメ子 潤(じゅん)は本当どっしりしてるよね。
ムネオ だよな、絶対時間守らんし。
ジバさん あれはれで繊細なとこもあるんやけどね。
ナベ あー。
マスター カッコウはね、托卵するんだよ。
ナベ タクラン?
マスター よその鳥の卵を自分の卵とすり替えて育てさせるの。
ナベ え。
トゲっち マジすか? そんなんわかるんじゃ。
マスター 鳥はわからないみたいなんだよね。すごいよ、自分より大きなヒナを育て続けちゃうんだから。
ムネオ また生々しい鳥だな……。
マスター あ、お代わりいる?
ジバさん すみません私も。
 
 マスターがムネオとジバさん2人分のジョッキを持っていく。
 
ナベ 刺さん今日は落ち着いてますね。
トゲっち そうか?
ムネオ 酒部はここ3人だったなあ。
ジバさん 会長も割と飲んでたけど。
ムネオ 会長は酔っても全然変わらんから。
ナベ 怖いっすよね逆に。
ヒメ子 わかる。ずっとなんか火見てチビチビ飲んでんの。
ナベ 山に放っちゃダメな感じ。
ムネオ お前ほんとに。
ナベ 大丈夫っすよ、網目先輩がちゃんと監視してましたもん。
ジバさん 山の仙人がね。
ナベ 降りてきた山仙人が。
ムネオ 仙人も今日来るんだよな。
ジバさん うん。
 
 トゲっちがスマホを見る。
 
トゲっち 連絡とかはないな。
 
 マスターがジバさんとムネオにジョッキを渡す。
 
マスター はいどうぞ。
ナベ あ、タイミング悪くてすみません。僕もお代わり。
マスター はいよ。
 
 マスターは折り返してキッチン側に向かう。
 
トゲっち まあ学生でしか許されんノリあったな。
ヒメ子 許されるってか通じない、でしょ。
トゲっち そっちか。
ムネオ バカだったなマジで。
ヒメ子 穂希が踊りだしたら来たなって感じ。
ナベ この人はもちろんリトマス。
 
 ナベがムネオを指さす。指してすぐにガードの姿勢。
 ムネオは相手にしない。
 
ナベ あれ?
ムネオ 何でも相手すると思うな。
 
 マスターがナベにジョッキを渡す。
 
マスター はいお待ちどう。
ナベ ありがとうございます!
ヒメ子 あたしは顔の色とかより、ガサガサが面白かったけどね。
ジバさん ガサガサ?
トゲっち 熊。
ジバさん ああ。
ムネオ お前ら熊なめんなって。
ナベ 全然熊じゃなかったでしょ。
ジバさん じゃないってか結局何かわからなかったよね?
トゲっち そうそう。
ヒメ子 その後のムネオがさ。
ムネオ 本当にビビったのよ。
ナベ 「ひゃい」って言ってましたもんね。
ムネオ やめろ。
ジバさん まあ、あの笛だっけ? で実際警備してるんでしょ。
トゲっち じゃあかいくぐってきたわけ? あのガサガサは。
ムネオ ヒグマはシャレにならん。
ナベ ああ。そうかあれちょうど北海道でしたね。
マスター 昔ね。
ナベ うわビックリした。
 
 マスターが話に入ってくる。
 
マスター ごめんごめん。いや昔ね、北海道で大学の登山部の子たちが熊に襲われる事件あったんだよ。
ヒメ子 マジですか?
ムネオ まああれはワンゲル部だからもっと山の中だけど。
マスター そうだね。
ヒメ子 え、どうなったの?
マスター 3人。亡くなってる。
ヒメ子 ええー……。
マスター もう50年くらい前だからね。
トゲっち 実は、俺もあの時内心ビビってた。
ナベ 結局あの晩はお開きにしましたもんね。
トゲっち うん。
ジバさん 会長と仙人だけが最後まで冷静だったけど。
トゲっち 会長は冷静ってかただのんびりしてた気がするけどな。
ヒメ子 うん。
ムネオ 会長は元気なの?
トゲっち 完全に元気ってのはないけど、来れるかもって。だから今日。
ムネオ そっか。
ヒメ子 来れそうなの?
ジバさん うん……って言いたいけど、ちょっと微妙かな。会長も遅れるって連絡がない。
ムネオ まあいつも連絡なく遅刻してたけどな。
ヒメ子 気にしてんの?
ムネオ いやさっきおたけの名前が出たからさ。
ヒメ子 ああ。
ムネオ あいつも卒業して会わなくなってからああなったじゃん。
トゲっち 元気になったと思ったらなあ。
ナベ ありましたね。生きてるんですかね?
ジバさん さあ連絡手段ないし。
ナベ 怖かったっすよ。僕後輩だからか一時期超誘われましたもん。
ムネオ お前隙ありそうだし。
ナベ ちょっと否定できないっす。還元水って知ってます?
トゲっち いや。
ムネオ まあでも大体想像つくわ。
ヒメ子 水素水的な?
ナベ そんな感じです。
ヒメ子 あーね。
ナベ 一回あれでお金取られかけたことあって。
トゲっち マジ?
ナベ はい。やっぱ人に言われるまで気づかないんですよね。
ジバさん だよね。
ナベ ジバさんもそう言うのあるんですか?
ジバさん いや、無いけど。騙される自信はある。
ムネオ 何だそれ。
ナベ 人ごとじゃないんすよ。ムネさんもこっち側ですよね。
ジバさん うん。
ナベ 騙すより騙される側。
ムネオ マジ? え、何かわかるようになるの? 他の皆はどう?
ナベ そうですね……。ヒメ子さんはたぶん大丈夫です。
ヒメ子 おー。やった。
ナベ けっこうこういう時は女性の方がしっかりしますよね。
トゲっち 経験者は語る。
ナベ あと意外と会長もそういうのは大丈夫なんですよ。
ムネオ あんなのんびりした感じで?
ジバさん そうでもない気もするけどねー。
ナベ やっぱりね、騙すより騙される方が悪いっていうか。
 
 ナベはテレビの再現VTRのモノマネをする。
 
ムネオ 誰も求めてないから。
ナベ すみません、ちょっとやってみたくなって。後、トゲさんがちょっとわからないんすよね。
トゲっち 俺?
ナベ 騙されもしそうだけど、それ以上に騙す側にもなってそう。
トゲっち お前、それ何気に酷いな。
ヒメ子 わかる。マジでそれあり得る。
トゲっち おい。
ナベ さすが元カノ。
トゲっち ずるいよいきなりそこ出してくるの。
ヒメ子 いいじゃんもう時効でしょ。
ムネオ だな、めでたく2人とも既婚者ってわけで。
マスター え。とげ君結婚するの?
トゲっち はい。
マスター おー! おめでとう! 式はいつ?
トゲっち やっぱ6月にって。
マスター いいねえ、あこがれるね。
ジバさん それ本心で言ってます?
マスター 当たり前だよ。私もまだまだ現役バリバリだよ。お相手募集中なんで。
トゲっち 経営者、ですしね。
マスター 一応ね。
ムネオ マスターまたお代わりすみません。
マスター はいよ。
ナベ はっや。ムネさん大丈夫すか?
ムネオ 今日はいいかな。
ナベ リトマス紙ですよ。
ムネオ いいよリトマス上等だ。
ナベ じゃあ僕も。
 
 ナベは残ってたビールを一気に飲み干す。
 
ジバさん 私も。
トゲっち 俺もお願いします。
マスター はーい。
 
 マスターは4人のジョッキを持っていく。
 
ジバさん ヒメ子はどこ持ってきたの?
ヒメ子 何のこと?
ジバさん 候補。
ヒメ子 ああ。ウインドフィールドって知ってる?
ムネオ ええ⁈ 
トゲっち どうしたよ。
ムネオ それうちの会社のやつじゃん!
ジバさん うそ⁈
トゲっち マジ? スゲーな。
ヒメ子 えー、ムネオの会社のだったの? やめよっかな。
ムネオ なんでやねん!
ジバさん ムネオそうじゃないんよ。
ムネオ え。
ジバさん 発音。
ムネオ どうでもいいよ!
ナベ ヒメさん北海道どうすか?
ヒメ子 北海道は行けないなあ。
ナベ マジすか。
ヒメ子 いやさ、ファミリー向けとベテラン向けの両方におススメみたいで。
ムネオ そう。あってるよ。
トゲっち え、超いいじゃん。
ムネオ 予約がなあ……。サイトの数スゲー絞ってるから。
ジバさん はいはいはい。
ナベ それムネさんの力で何とかできないんすか? ちょちょっと。
ムネオ できるか。問題になるだろ。
ナベ ええー。本当肝心な所弱いっすねー。
トゲっち その……えー……何フィールド?
ムネオ ウインドフィールド。
トゲっち ああサンキュ。の場所は?
ムネオ 男鹿高原、奥日光。
ジバさん 何とか行けんくもないか。
トゲっち うん、アリじゃね?
マスター はい、どうぞ。
トゲっち あ、すみません。
 
 マスターが4人分のビールを持ってくる。
 
ムネオ&ナベ ありがとうございます。
マスター ヒメちゃんはまだ大丈夫かい?
ヒメ子 うん、大丈夫ですー。
マスター 何かあったら言ってね。
ヒメ子 はーい。
ジバさん どこで知ったのこれ?
ヒメ子 ソロキャンに興味あった時に何個か気になってたのあって。
ジバさん ああ。
ヒメ子 結局行かないまま。穂希はやってみたんだっけ?
ジバさん うん。向いてるわソロキャン。
ムネオ だろうなあ。
ナベ ソロキャンするんだったら靴貸しますよ。
ジバさん ありがとう。こないだもトゲっちに借りた。
ナベ あ、知ってましたか。
トゲっち あれ効果あった?
ナベ まあ……声はかけられんかった。
トゲっち おお。
ナベ ムネさん知識あっても絶対ダメですからね。
ムネオ やらねーよ。会社的に絶対アウト。
ヒメ子 わきまえてるじゃん。
ムネオ 職場の若い子らなんてそんなんばっからしいし。けどなー、何も知らなかったら俺やってたかもなあ。
マスター ごめん、これみんな何の話してんの?(トゲっちに)
トゲっち 女子が一人でキャンプとかしてると、教えたがりおじさんに声かけられたりするんですよ。
マスター ああー……。
トゲっち 酷いのになると夜テントまで近づいてくるらしいっす。
マスター ええ!
ジバさん そもそも私に声かけたい人なんかおらんかったって。
ヒメ子 いやいや。マジでそういう油断が怖いって。
トゲっち だよな。
ジバさん いっそおじさんでも。
ヒメ子 穂希。それは違う、違うよ。
 
 ムネオとナベは無言でうなずく。
 
ジバさん でもだって、この辺じゃあまりにも出会いが無くて。
トゲっち マッチングアプリやる?
ジバさん うう……いやさ、変な話していい?
トゲっち しない流れないな。
ヒメ子 どうぞ。
ジバさん 地元帰ったら中高の同級生とか会うんよ。みんな大体もう子どもとかいてて。そんで実家に帰ると絶対結婚のこと言われてさ。
ヒメ子&ムネオ&ナベ ああー……。
ジバさん そんな私はソロキャンという禁術を手にしてしまったのだ……。
一同 ……。
 
 ヒメ子だけは笑いを抑えてる。
 
ジバさん 黙らんといて!
ムネオ いやでも確かにキツいよなマジで。
ナベ マッチングいやならもうちょい都心に出ます? やっぱ便利っすよ。
ジバさん そうなんだろうなあ。結果、私治場穂希(じばほまれ)は関西のキャンプ場に詳しくなりました。
ナベ だから京都だったんですね。
ジバさん はい……。
ヒメ子 穂希とりあえず飲んどけ。
ジバさん はい。
マスター 次もビール?
ジバさん ちょっと考えます。
マスター はい。
ムネオ どうやってもシリアスに戻ってくるな。
ナベ これがアラサーの現実なんすかね。
ムネオ そんで2人遅いな。来るの?
トゲっち いい感じに場所とか流れ決まってきたな。
ヒメ子 まあ会えるだけでも。
ナベ ですね。
ムネオ まあいいけど。
ジバさん どしたの?
ムネオ ごめん、なんかこの流れだと余計シリアスになりそうなんだけど……いや、いやいや! 何でもない。
ナベ ムネさんそこまで振ったらもう無理っすよ。
ムネオ だから……聞き方考える。
ジバさん ガチやん。
ムネオ 昔のことだから。
ナベ お2人のことすか?
 
 ナベはトゲっちとヒメ子を見る。
 
トゲっち ……。
ヒメ子 別にいいけど。あたしは。
ジバさん いいの?
ヒメ子 うん。
ムネオ いや、2人のことじゃない。
一同 ……。
ナベ 何です(か?)
 
 その時、騒々しくドアを開けて仙人が入ってくる。

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