台本を公開しながら更新して完成させてみる~『セカンド・ライン』という台本~

 喪服を着た3人組が部屋に入ってくる。
 部屋に一か所、がらくたが山積みになっている場所がある。
 一息つくと3人は話を始める。

C お疲れ様でした。
A 終わったな。
B 変に長引かなくてよかったよ。
A カード停めた?
B 停めてたよね?
C 年金もやってます。
A 免許は?
C もちろん。
B 入院した時に始めてたじゃん。
A いやあ手際の良さ。
B プロだね。
C 事務処理ですけどね。
B けど普通こういう時、ねえ。
A いやいや実際どうよ。
B 何が?
A もっと片付けてから逝ってくれよって。
C そこなんですよ。
B 無理無理。
A 期待するだけな。
C 結局周りが何とかするんですよね。
B まだ半分くらい?

 Bはがらくたの山を示す。

C 先長いですね。
B 気づいてりゃなあ。
A 手を付けない理由あったの?

 AがCに言う。

B あ、やっぱり考えてた?
C いや……あの部屋苦手なんです。
A&B ああー。 
A はいはい。
B わかる。
C 昔からどうもしんどくて。
A ヤニがな。
B そう。じじいの部屋だけ曇ってなかった?
A それは無いって。
C 感覚的にはそうでしたけどね。
B たまに部屋に呼んできたじゃん。
C はい。
B あれきつかった。よく息止めてたもん。
A やだって言えよ。
B 気を使ってたの。子どもながらに。
A そういうので調子乗るんだよ、あの爺(じい)は。
C まあ順調に蓄積されてましたね。
B 歴史がね。
C 嫌でしたけどね。書類やらなんやら全部あっちの部屋だったんで。
A ご苦労さん。
B ベッドのとこ床沈んでたよ。
A マジ?
B もしあそこで……。
A 病院には悪いけど、送り付けて正解。
C そう思ってます。
B まあ保険様様か。
A 父さんな。
B 父さん?
A その辺全部けつ持ってたんだから。
B ああ。
C そうですよ、感謝するならそっち。
A 本当何もやらないから。
C で、ここからどうします?

 C以外は一瞬黙る。お互いを見たり部屋やがらくたの山を見渡したりする。
 少ししてBが口を開く。

B 家かあ。
C できれば早めになんとかしたいです。
A すぐやろう。四十九日過ぎたら。
B まあ妥当か。
C 僕、待つ必要ないと思うんです。
A&B え。
B どうして?
C 納骨したんで。
A あ、そうか。
B そういうもんなの?
A そういうもんでしょ。
B でもそしたらどこ住むの?
A&C ええ?
C まだ住むんですか?
B だって……あるんだよ?
A&C いや……。
B この家。
A あのなあ……分かるだろ。タイミングなんだよ。
C 流石にもう手に追えないですよ。
B 出ていくしかないかなあ。
A そうだよ、そういう流れだったじゃん。
B いやそう思ってたんだけど……。
A それこそお金だって! 固定資産税とか?
C 相続税です。
A そうそれ。
B でも税金かかるほどの値打ちある?
C 値打ち無いからなんですよ。
B そんなハッキリと。
A 俺だって色々複雑だよ。
B いっそ悪い思い出ばっかりだったらな。
A それは違うだろ。
B ごめん。
C けど実際決めないと。
A あのヤニ部屋どうするんだよ。きっと腐るぞ。
C それは大丈夫です。
A そう?
C はい。でもこの際ですから。いい機会ですよ。
A そうそう、タイミングなんだよ。
B ……わかった。
C じゃ今後の流れ説明しますね。
B 良すぎない? タイミング。
A まあまあ。

 Cはファイルを用意し書類を出そうとするが、肝心の資料は見当たらない。

A 何してんの。
C いや……。
B 無いの?
C この部屋にはあるはず。
B 印鑑探した時に紛れてない?
C ですかね。ちょっと探します。
B さっき動かした方かな。

 CとBはそう言ってがらくたの山をあさり始める。 

A なんでここに固めてんの?
B 後で色々売れるかなって。メルカリで。
A 売れないよ。
B 無理?
A よく売ろうと思ったな。

 Cが呼びかける。

C すみません、ありました。お騒がせしました。

 Cが別のファイルを手に戻ってくる。Bがその後ろから老人のようなしぐさで一冊のア
 ルバムと巨大なハリセンを持ってこようとする。

A いらないから今。
B じじいの真似。
A わかったわかった。

 CはBからさっさとハリセンを奪って元の場所にしまう。

B ああ。
C そっちは?

 BがAの元に行ってアルバムを開く。

A アルバム? え、爺ばっかり。
C 父さんでしょ。
A 父さん?
C 写真を置いてたんですよ。
B たぶんね。
A ばあちゃんのもあるかな。
C 探しますか?
A あ、ごめん。後でいいよ。
B いや。家あるうちに見ようよ。
A 今? 
B うん。
C 別に今日明日で家無くなりませんよ。
B 見たら決心がつく。この家に。
C どういうこと?
A まあそこまで言うんなら。

 Bが皆に見えるようにアルバムを開く。

B では改めて。
A はいはい。
B 写真ってなんか久しぶりだよね。
C 確かに。けど綺麗に残ってますね。
B でしょ? 
A 性格出てるなあ。
C 性格?
A ビッシリ。
C 隙間ほとんどないですね。
B じいさんじゃ作れない。
A これ結構あるの?
B よくぞ聞いてくれた。

 Bがさらに他のアルバムを持ちよりながら言う。

B 箱2つにぎっしり。
C いつの間に。

 Aが手元のアルバムを見て言う。

A うわ、すげーこれ。
B なになに?
A 昭和だ。
C ああ。これは昭和ですね。
B 噂の昭和ですな。 
C いや結構違いますね。雰囲気というか。
A てか旅行多いな。
B 意外だよね。
C この町から出てたんですね。
B ゲーセンくらいしか行かせなかったくせにね。
A ジャスコの屋上な。
B ジャスコ!
C あれも潰れましたね。
B 名前も変わってたし。
A 後なんで爺のピン写ばっかなの。
C いらないですね。
B あ。東京ドームだ。こればあちゃんじゃない?
A あー! これがばあちゃんだ。
C いつのですかね?
A 1988……。
B 平成。
C 元年ですね。
A 巨人阪神戦……あ!
B 何?
A こけら落とし!
B マジ⁈ 
C 東京ドームの?
A そう!
C よくわかりましたね。
A 巨人ファンなら当然。
B やるなあ。
A ……実は父さんが昔自慢してた。
B いや覚えてないよ。すごいね。
C じゃあ一緒にいる若い人。
B 父さん?
A&B&C おおー。
C 同い年くらいですか?

 BはAに向かって言う。

B ちょっとそこ立って。
A え。
B その辺。
A こう?

 Bがアルバムの写真とAを見比べる。

B おお。
C ああ、分かる。
B でしょ。
A おい!
B ごめん、つい。
A ていうかどんどん逸れてる! 家だろ!
C そうでした。
B なんか楽しくなってきて。
A わかるけど。サクサク見る! サクサク。
B 楽しんでたじゃん。何サクサクって。

 Bは小声でつぶやく。

A 何だよ
B 別に。
A 言いたいことあるならはっきり言えよ。
C ちょっと!

 CがA、Bに呼びかける。

A 何だよ!
C めくって行ってください。
A はあ?
B あ。
C わかります?
B うん。
A 何が。
B この人誰。
C 家族や仕事仲間に混ざってる感じで。
B ほらここにも。
C うわ。
A ……。
C 何ですかこれ。
A ……愛人。
B&C ええ!
B 知ってたの⁈
A 知らないよ! けど爺ならやる。
B ありえる。
C あの人……。
B けど愛人ってもっとお金持ちの、じゃないの? 本当に愛人?
A じゃなきゃこんなに写真一緒に撮るか。
B 妹ってことは?
A 年の差。
B 隠し子!
A 距離感。
B う……。
C 無理。
B え?
C ちょっとこれは無理。
A だな。
B いやでもこの人だって。
C だって何ですか?
B いや……ごめん。
A こいつこそ何なんだよ。絶対爺のクズっぷりの原因だろ。違うか?
B にしてもファッションセンス……。
C 仲良くなれない。
A 何だこの帽子ふざけてんのか。
B 魔女って感じだね。
A ホグワーツかよ。
C 何て?
A ホグワーツ……あっただろ昔、映画にもなった。
C それはハリーポッターじゃ……。
A ああ……。

 突然Bが遮って声を上げる。

B あー! 
A&C 何!
B こないだ一時期変な電話あったの覚えてる?
A 何のこと。
B まだ入院してた時。
A 忙しくて覚えてない。
C あー……。
B あれ愛人だったんだ。
A ええ!
B そうとしか思えない。あの留守電。
C なるほど。
B 何か名前言ってなかった? みなもと……とか。
A ん? ごうだじゃなかったか? 
B え。そんなことある?
C 偽名じゃないですか。
B あ……いやでも何でそんなこと。
A そういうヤツなんだよ。
B じゃ名前もわからないな。
A いいよもうホグワーツで。
B ホグワーツは変でしょ。
A じゃ、何だったらいいんだよ。
B 私に言われても。
A 今さら愛人とか。
B 電話すぐ止めなきゃよかったね。

 Cはスマホを取り出す。

C 聞いてみます?
A は?
C ありますよ、こっちに。
A&B ええ⁈
C かかってきたんで。
A 嘘だろ。
B 何で知ってるの? どうなってんの?
C 教えたんでしょ、あの人。
A ……いや本当、マジでどうなの? それ。
C もう何か本当もう……って感じです。
B 話したの?
C 留守電。
A 何て言ってた?
C まだ聞いてないんです……なんとなく。
B 聞いてみる? この際。
C はい。

 Cはスマホを机の上において留守電を再生した。
 はっきりとしない音量で声が流れる。

ホグワーツ もしもし……。フジコと申します。以前能良(のうら)さまの会社でお世話になった者です。能良さまはお元気にされておりますでしょうか? よければ、こちらに折り返しください。突然のご連絡失礼いたしました。

 4人はスマホの画面を見る。

B ふじこって言ってた?
A 藤子は駄目だろ。
B そこはほねかわだよな。
A そういうことじゃないよ。
B この人、じいちゃん死んだこと知ってるの?
C たぶん、まだ。
B 知らせるべき?
C それは……どう思います?
A 嫌だぞ、めんどくさい。
C ですよね。正直、このまま無視したいです、ただ。
A&B ただ?
C 遺言とか残ってたら厄介。
B 遺言? じいさんが?
A いやいやいや。
B そんなの残す?
C 残せないと思います。でも……。
B でも?
C このアルバム父さんが作ったんですよね?

 AとB人は気づいて息をのむ。

C 父さんは愛人のこと知ってた。
B ずっと黙ってたの? 家族にも?
C 恐らく。
A その父さんが爺を保険に入れてたんだよな。
B 遺言書だって作らせてたかも?
C 可能性は……。
B でも父さんだよ。こっちが困るようなことする?
A じゃ何でこんな大事なこと黙ってたんだよ。
C ……言いたくなかったから。
A そんな……。
B 愛人なんて、ばあちゃん許さないでしょ。
C 生きてたら……そうだったかも。
A ばあちゃん……。
B 遺書、あると思う?
C 遺書じゃなくて遺言です。
B あ、ごめん。
A この中にか。

 3人はがらくたの山を見る。

C すみません。あの……全部仮定ですよ。もしも、です。
B いや、もしもだよ。
A 探そう。

 そうして3人はがらくたの山をあさる。
 Aががらくたの山にある残りのアルバムを取り出す。

B アルバム?
A ちょっとばあちゃんが。
B ばあちゃん?

 そう言っている合間にCは別のアルバムを探している。
 3人はそれぞれがらくたの中で思い思いにアルバムを見る。

B アルバムでいいのか?
C わかりません。大事そうな書類は全部引き上げてましたけど。
B うわあ。
C 何です?
A ゴキブリ?
B 愛人のピン写。
A あるのかよピン写。
B びっくりした。
A ウォーリーみたい。
C ウォーリーにびっくり要素ないでしょ。
A いや何かそんなやつなかった? 探してたら急におどかされるやつ。
C それネットゲームのやつでしょ。集中してたら画面変わるやつ。
A それだ。
C 「ウォーリーを探さないで」。
A そっか探さないでか。

 そう言いながら集中して探しているAのすぐ背後に行くB。
 BはAを大きな声で脅かそうとする。
 が一瞬早く、そばにあったピコハンでAはBの足を叩く。

B あたっ。 
A 遊んでんじゃない。
B 面白くないな。
A バレバレだから。てか見てたんなら止めろよ。
C どうなるかなって思って。
A 遺言探すんだろ。
C すみません。

 そう言ってから3人はまた探し始める。アルバム以外のものも探している。

C あ。隠れミッキー的な?
B それは模様とか形とかじゃん。
C そっか。
A 話戻すなって。
B 手は動かしてるよ。
A 大体それ言うなら隠れホグワーツだろ。
C 何ですか。隠れホグワーツって。
B だからホグワーツじゃないって。
A いいんだよ何でも。

 さらに探し続ける3人。

C よく誰も見つけなかったなあ。
A 誰もあの部屋に寄らないから。
B 完璧な封印だ……あ。

 Bはまた別のアルバムを見て言う。

A&C ん?
B じじいがネタ披露してる。
A あれで? 芸人に失礼だぞ。
C ですよね。ネタ見たことります?
A 無い。
B じゃあお宝写真ってことか。
A でもいらない。
C たぶん本人だけですよ。芸人って言ってたの。
B そうそう。
A どんなネタやるのかも聞いた事ないし。
C けど仲間っぽい人は見た気がします。
B ……あのパチンコ好きな人たち?
C たぶん。
B あれか。
A お笑いのこと喋れよ。
C そのお笑いの仕事ない奴が集まってたんじゃないですか。
B 辛くなってきた。
C 大丈夫ですか?
B 大丈夫。
A 後、謎の販売網あったな。
C 象を輸入して売るやつでしょ。
B 酷いな。
A その発想をネタに活かせよな。
B 本当にね。
C まあ昔の芸人さんですね。
B それは偏見じゃない?
A でも俺あれ覚えてるよ。無限冷蔵庫。
C いやまだ残ってますからね。

 Cは別の部屋に視線をやる。

B 象が冷蔵庫になったのか。
C 感心することじゃないですよ。
B 父さんがいてくれてよかった。
A 師匠のとこまで行ってな。
C 師匠のせいだったんですか?
B 違う。師匠から言ってもらったんだよ 
C それは……駄目でしょ。
A 破門だわ。
B でもその後もやったんだよな
C 大本を断れなかったんでしょうね。
A その割には偉そうだったのが不思議なんだよな。
B プライド高いとそうなっちゃうのかなあ。
A&C あー。
C 所でお宝って何の写真ですか?
A 今頃。
B さっきのネタ披露のね。

 CがBの元に行く。

C ……。
A なるほど、式ね。

 いつの間にかAもアルバムをのぞき込んでいる。

C あの人、笑顔ですね。
B 本当だね。
C 父さん幸せそう。
A これもばあちゃんかな?
C たぶん? 位置的に。
A ばあちゃんって感じしないなあ。

 AはCの顔とアルバムの祖母らしき人間を見比べる。

A わからん。
C 僕で比べなくても。
A お返し。
B んん。
C 何です?
B これじゃない?

 Bは紙を一枚手にとっている。

C まさか。
A どこにあった。
B これ。最後のページ。

 Bはそばのアルバムを指す。

A マジかよ。
B ……読んでいい?
A&C うん。

 Bは2人を見てから一息置いて遺言書を読みだした。

B 遺言書。遺言者○○は、本遺言書により次のとおり遺言する。
A ガチだな。
C いい加減な方が良かったんですけどね。
A 何で?
C 無効って言えたかも。
A ああ。
B 続きいい?
A どうぞ。
B えー、次の通り遺言する。第一条。遺言者は、遺言者の有する下記の預貯金を、孫である……。
A 待て待て。
B 何?
A 無いじゃん、貯金。
B 全然無かったっけ?
C ありません。残高はゆうちょに1016円、以上。
B ……これ、そういうボケ?
C だとしたら本当腹立ちますね。
A 売れるわけない。
B 続けるよ。
C はい。
B 第二条。遺言者は、遺言者の有する下記の土地と建物を、孫である……。
C どうしました。
B いや土地と家は孫にって……。 
A それ何も変わらないな。
B そうなんだよ!
C 見てもいいですか?
B 嘘じゃないよ。
C 違います。

 CがBの元に行く。

C 本当だ。完全にそう書いてる。
A 他に何かある?
C 一応あります。第三条。遺言者は……。

 Cは途中で読むのを止める。

A 今度は何だよ。
C 遺言者は、遺言者を生前大切に慕っていた人間に墓参することを望む。この遺言を遵守する場合にのみ、第一条と第二条の財産分与の権利を保障する。

 全員あっけにとられて言葉を無くす。
 少ししてBが口を開く。

B お墓参り? それってつまり……気持ち?
A 気持ちだな。
C 頭痛くなってきました。
B 大丈夫?
C 例えです。
B ああ。
A これで終わり?
C はい。
B ……何だこの時間。
C 振り出しですね。
A ややこしくなっただけじゃん。
B 私のせい?
A アルバムなんて見だすから。
B 楽しそうにしてたくせに。
A してないよ。
B ばあちゃん……。

 AのマネをするB。

C 遺言書見つけたのはナイスですよ!
B あの無茶苦茶なのが?
C 家がこちらで持てるのは間違いないくなりました。
B けどそれも墓参りなんでしょ。
A もういいよどっかの転売ヤーのでも。
C だったらここにいれませんよ。
B 今ここにいるのは転売ヤーだったかもしれないのか。
C 揚げ足とらない。大体家を転売しないでしょ。
B わからないよ。もしもだよ。
C 全然もしもじゃないから。
A まあホグワーツのこと書いてなくて良かったわ。
C ですね。愛人に譲渡とかややこしすぎますよ。
B ……いや書いてたよね?

 一瞬沈黙するAとC

A いやいやいや。
C 第三条?
A それは……解釈だろ。効力ある?

 AがCに話を振る。

C そんな僕に聞かれても。
A ごめん。
B こうややこしい時どうなるの?
C ……裁判?
A&B 裁判!
A 冗談だろ。たかが墓参りで。
C 分かりませんよ。「墓を継げ」とかじゃないんですから。
B ちょい待ち。
A 何?
B うちの墓を継ぐ人、もう他にいないよね?
A&C あ。
B こういう場合って?
A もう調べた方が早くないか。
C やってますよ。
A 呑気に骨入れてる場合じゃなかった。

 スマホを操作するC。

B 何か変な感じになってきたね……。
C あります! こういう場合の。
A あるのかよ。
B いいのかこれで。
C えー……1、亡くなった人の指定。
A ……微妙だな。
C まあ、あの内容では。
B ようはカイシャクってこと?
A たぶんな。
C 2、慣習により決める。
B カンシュウ?
C ようは親族で協議しろと。
A 今やってるわい。
C 3、家庭裁判所の調停。
A&B 裁判!
A マジなのかよ。
C どうやら。
B ネットを簡単に信じていいの?
C それは思いますけど、一応葬儀会社のホームページです。
B いやもう混乱してきた。
C 情報多すぎますね。
B ここまでのハイライトを。
A えっ……えーと、爺死んだ。遺言あった。家貰えたでも処分する。
B いやそこはこれから。
A そっか……そんで、愛人いた。墓参りしろ愛人と……いや愛人ととは書いてない!
B そこは解釈と。
C 愛人もただの推測ですから。
B そうだった。
A 墓を継ぐとも書いてない、けど墓参りしろ。
B あーもう余計わからない!
A 俺にもわからん!
C とりあえず! お墓は継げば自動で親族のものになると思います。
B どうして?
C 遺言でも指定がないので。
A なるほど。
C 継げばね。その後での遺言です。墓参(ぼさん)しろというのは一応正式な遺言指示かと。
A つまり?
C 基本的に効力がとても強いはず。
B じゃやっぱ愛人と墓参りコース?
C でも常識外れな遺言は無効になる事もあります。
A ええ? もうどっちなんだよ。
C 自分でも考えてよ! さっきから。
A すまん。
B ごめん。
C 無効かどうか認めるのも裁判、のはずです。
B 誰との?
A 愛人に決まってるだろ。
B だよね。変なこと言ってごめん。
A いいよ。俺もキャパオーバー。
C 死んでこんなに残す人間だったとは。
B 残すより散らかすだよ。
A ありがた迷惑。
C たぶん使い方間違ってますよ。
A はい、すみません。
C いいえ。
A いらないモノばっかり散らかしていったな。
B もしも。
A ん?
B もしも、じじいにお金があって、それをやる。って言ってたらどうなったのかな。
A やめようぜ。
C もしも、このがらくたの山にとんでもないお宝があったら。
B 欲しい?
C ……。
A いらない。
C 僕も。
B お金ないと困るよ。
A けど慣れた。
C 何とかしてきましたからね。
B けっこうがんばったよね。
A ……父さんたちがな。
C そうですね。
A でももういない。爺もいない。

 2人に向かってAが言う。

B どうしたの。
A これでいいのかなって。
B ……うん。
A とうとう他に誰もいなくなったな。
C 出てきたのは遺産じゃなくて愛人ですもんね。
B 遺産があったらもっと出てきたかもよ。
A もっと? 何が?
B 全く知らない親戚とか。
A だから一人もいないじゃん。
B なのに出てくるんだよ。
C 宝くじ的な?
A 急に電話が来るやつか。
B そんな感じ。
A Youtubeとか酷いよな。
B ゆーちゅーぶ?
A 芸能人が事件とか起こすと、○○の弟ですとか言って出てくるんだよ。
C 何ですかそれ。
A 再生数稼ぎに決まってるだろ。
C ああ。
B 愛人もそうなのかな。
C 便乗ではないですけど。
B じじいのこと知ってるもんね
A こっちの知らないこととかな。
C ……確かに。
A 厄介だな。
B 遺言も知ってそう?
C 知ってたら……僕ならすぐ裁判に持ち込む。
B 良かった。
C カマかけてるのかも。
B え。
A 舐めやがって。
C いや分かりませんよ。
B こっちも作戦たてる?
C 結局無視できなくなりましたね。
B だって無視できない存在感だもん。
A だな。あれは残るわ。
B でもどうしよう。
C まずはじじいとの関係を聞く。
A おお。
B どストレート!
C いや最初でしょ。
A 警戒されないか?
C でも否定しないと思います。
B 確かに。
C そこから踏み込める。
A そしたら?
B 向こうが知ってることを知りたい。
C 例えば?
B 他に財産がないか。
A なるほど。他にない?
B え。
A 他にも愛人的なのはいないか、とか。
C いいですね。
B 私の案は。
A あったら言わないだろ。
C 目に見えますよね。
A だから他にもいないか探っとこう。
C ええ、まだそっちの方が。
B いやいやいや。
C さっき「何もいらない」って。
B じゃあ愛人を味方にするのは?
C 拒否。
B 駄目?
C それはダメ。
A 当たり前だよ。まず何の味方なんだよ。
B もし他に親戚がいた時にって。
C 逆に手を組まれたらどうするんですか?
B それを未然に。
A&C ああ。
C ……いやいや駄目、ダメダメ。寝返られるかも。
B そこまで⁈ 
C とにかく無しで。
B 寝返りだなんて。
A ちょっとドラマみたいだけどな。
B だよね。
C いいですか!
A&B はい。
C まず愛人に聞くのは、愛人かどうか。
A そして他にいないか。
B 言うかなあ?
C 言うと思います。いたら嫉妬するでしょ?
B そこから味方にならないかなあ。
C ならない。
A お前は愛人の何なのよ。
B 冗談だって。
A 面白くないから。
C 順調にじいさんの孫ですね。
B それは嫌だ。
C じゃあちゃんとしてください。
B あ、お墓参りしてくれるかは聞いといたら?
A&C ああ。 
C 死んだことも伝えるんですよね。
B 言ったら壁できると思う?
A 別に壁あってもいいよ。
B 攻めすぎだよ。
C とりあえず電話してみましょう。
B うわあちょっと待って。
A 何。
B 心の準備が。
A こういうのは勢い。
B りょうかい。
 
 言ってる間にCが電話をかけている。コール音が続き、止まる。

B 来た!
A しっ。
アナウンス ただいま、電話に出ることができません……(ご用件のある方はピーッと鳴りましたらメッセージをどうぞ。)
B おおい!
A だー!

 Cだけが一人冷静に対応する。
 他の2人は一瞬あっけにとられるが様子を見守る。

C 能良と申します。先日お電話頂いた件で、諸事情でお返しが遅くなりました。ご相談したいことがあります。一たしかに度折り返しをください。平日でしたら19時以降は電話に出られます。

 そう言ってCは電話を切った。

A&B おおー。
B すごい。
A 何か進んだ気がする。
C ここからですよ。

 そこに電話がかかってくる。
 全員再び電話に注目する。


 幕間


 待ち合わせ先の喫茶店で愛人と初対面したBとC。
 彼女は写真で見たのと同じ帽子を被っている。
 どちらとも話が始まることはなく沈黙が続く。
 Cが様子を伺いながらまず口を開く。

C お時間ありがとうございます。
ホグワーツ いえいえ。
B 迷われなくてよかったです。
ホグワーツ 前に来たことがあるんです。
B そうなんですか。
C 祖父と?
ホグワーツ ええ。
C なるほど。
B あの、この度は本当に……。
ホグワーツ いえいえ。ご愁傷様でした。
C お聞きしてました?
ホグワーツ いいえ。でもわかりました。連絡を頂いた時に。
B そうですか。
ホグワーツ そちらこそよくわたしが分かりましたね。
C ええまあ。
B お写真を見たことがあって。
ホグワーツ 写真。

 CがBを小さくにらむ。

ホグワーツ あの人が。
C お2人はどういう関係だったんですか?
ホグワーツ お互い大切な関係でしたよ。
C いつから?
B ちょっと。
ホグワーツ いつでしょうね。あなたが生まれる前?
C そうですか。
B すみません。ちょっと取り乱しちゃってて。
ホグワーツ 今は大変でしょう。お気になさらず。
B とんでもない。そちらこそ。
ホグワーツ そちらこそ?
B 大変だったでしょ、あの人。
ホグワーツ ちっとも。
B 本当ですか?
ホグワーツ 大変だったの?
B 私は……。
C 親が離婚するくらいには。
ホグワーツ まあ。おじい様が原因で?
C そうです。
ホグワーツ あら。
B いや今は全然。笑い話にできます。
C はい。

 ホグワーツは何も言わずに孫を見つめる。

B あの……。
ホグワーツ 似てないわね。
B 似たくないですよ。
ホグワーツ まあ芸人さんはねえ。
B それも本人が勝手に名乗っていたくらいで。いつ活動してるのかも知らなかったし。
ホグワーツ 嫌いだった?
C 嫌いというか。放置してました。
ホグワーツ 相当ね。
B もういいんですけどね。
C あなたに見せてた姿とは違うでしょ。
ホグワーツ そう思うでしょ? 全然よ。気位ばっかり高くてね。
B そうなんですか?
ホグワーツ ええ。周りの芸人さんたちにはすごくいい顔するのよ。なのによ。
B 酷いことされませんでした? 暴力とか。
ホグワーツ 違うの。もうずっとメソメソメソメソ。
B&C え。
ホグワーツ 噛む馬はしまいまで噛むわね。
C 何ですかそれ。
ホグワーツ 人は変わらんってこと。
C ああ。
B ……やっぱ大変だったんじゃ。
ホグワーツ 大したことないわ。慣れたらね。
C じゃあ案外お似合いだったんじゃないですか?
B 言いすぎ。

 Bは小声でCに言う。

ホグワーツ そう思ってたわ。
B 思ってた?
C あなたの他にもいたんでしょ。
ホグワーツ ……。
B すみません。
ホグワーツ 今日どうしてわたしに?
C 家です。
B え。
ホグワーツ 家?
C じゃなかった、遺言を残していたんです。お墓参りしてほしいって。
ホグワーツ ……そうきたか。
B いきなりすみません。
ホグワーツ 当たり前ですけど、もういないんですね。
B そうです。
ホグワーツ 今更実感がわきました。
B 私もそんな感じです。
ホグワーツ 一緒にしないでください。
B すみません。
ホグワーツ お墓参りね……。
B はい。
C 面倒はかけませんので。
ホグワーツ いいですよ。一緒に行きましょう。
B&C え?
C ……じゃあ、お願いします。
ホグワーツ なんか拍子抜けしてるわね。
C え、いや。
ホグワーツ じゃあ交換条件。
B&C は。
ホグワーツ 写真を探して来てくださらない。
C 写真?
ホグワーツ そう。おじいさまと2人で撮ったのがあるの。
C はあ。
ホグワーツ それを持ってきて来れたら一緒にお参りしましょう。
C えっと。
ホグワーツ また今度、日にち決めて会いましょう。お墓は?
B あ、はい
ホグワーツ どこにあるの?
B 駅の向こうの。
ホグワーツ わかりました。

 そう言ってホグワーツは身支度を整えて席を立った。
 その間に紙幣をさっと机に置く。

ホグワーツ ねえ。
C はい。
ホグワーツ 独身?
C ……ですけど?
ホグワーツ そうよね。
C 何ですか。
B まあまあまあ。
ホグワーツ さっき他にもわたしみたいな人がって。
C ……。
ホグワーツ いないわ。いなくて良かったと思わない?

 ホグワーツはそういうとさっと帰ってしまった。

B 疲れた。
C 何あれ。
B さすがじじいの愛人。
C ……。
B 愛人でいいよね?
C え。ああ、うん。
B とりあえず。
C ほとんど向こうペースだった。
B うん……。

 Cは何も言わずに足早に席を立つ。
 Bはホグワーツの置いていった紙幣を取ってから席を立つ。
 場面は家に戻る。
 また3人が集まっている。

A いやいやどうすんの。
C どうします?

 CはAを名指しするように言う。

A それは、その……何か言ってよ!
B え? あ、うん……。
A え、何て?
B 本当にホグワーツだった。
A 今それ関係ない!
C じいさんとの思い出なんですかね?
A あんなのどこで売ってるんだよ。
C USJ?
B USJできる前から着けてたけど。
C 意外と細かいとこ見てますね。
A いいよもうファッションのことは。

 Bががらくたの山を見て言う。

B 写真かあ。
C 変なこと言ってきましたね。
A 何が目的なんだ。
B しかも2人で写したのって。
C 2ショット? きついなあ。
A サクサク探してしまえばいいんだよ。ほら。

 AはBとCにアルバムを渡す。

A まあ何枚かあるだろ。
B うん。

 3人で個別にアルバムを見ていく。
 3人とも自分のアルバムを見終えて新しいアルバムに手を付ける。
 そしてAは2冊目のアルバムも見終える。

A 無い。
C ちゃんと探してます?
A 当たり前だろ。てかまだ1冊目じゃん。
B わあ。これ父さんの入社式じゃない。
C 本当ですか?

 CはBの元に行こうとする。

A 真面目にやれって。
B やってるよ。
A どう考えてもそんなとこにいないだろ。
C いますよ。
A ええ!

 Aも2人の元に行く。

A どんだけ関係長いんだ。
B これがああなったのか。
A どれ?
C これです。
A あー……。え、でも何歳? これ。
C 若いですね。
A うん。
B 何かざわざわする。
C ええ。ああなったんですね。

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