台本を公開しながら更新して完成させてみる~『ありの一決』という台本②~

 マスターは部屋から出てゆく。
 
トゲっち 何かあったの?
ジバさん ううん大丈夫。解決しかけやから。
トゲっち 本当? てか今日は体調どう?
ジバさん こないだよりは大分。
トゲっち 無理は禁物だよ。 ジバさんまで潰れたらやばいよ。
ジバさん そうやね。トゲっちは?
トゲっち 俺は別に。何も無いよ。
ジバさん いや候補。
トゲっち あ、そっち? ふもとっぱら。
ジバさん ふもとっぱら?
トゲっち うん。
ジバさん また?
トゲっち だって俺もう今全然だから。
ジバさん いや、ふもとっぱら良かったけど。
トゲっち 皆に合わせるよ。ジバさんのとこ良さそうじゃん!
ジバさん それはいいんやけど。
トゲっち 何?
ジバさん それ一応聞くけど。もう行くなって?
トゲっち ……わかる?
ジバさん うん。
トゲっち そう、そうなのよ。
ジバさん そこまで?
トゲっち 直接言われてるわけじゃないけど。
ジバさん きついね。
トゲっち まあ何とかするよ。
ジバさん そういう問題じゃなくない?
トゲっち けど俺の問題だし。
ジバさん 彼女さん、よね?
トゲっち もう奥さんだよ。届出したから。
ジバさん あ、いよいよ。おめでとう。
トゲっち ありがとう。
ジバさん いつ行ったの?
トゲっち 一昨日。
ジバさん わ! タイムリー。
 
 ジバさんは手帳を取り出して見る。
 
ジバさん ちゃんと大安じゃん。
トゲっち 俺はどっちでもいいんだけどね。
ジバさん それ一番ダメ。
トゲっち いや奥さんには言わんよ。
ジバさん 当たり前でしょ。
トゲっち けど指輪が遅れててさ。
 
 トゲっちはジバさんに手を見せる。
 
ジバさん あ、それで。え、でもそんなことあるの?
トゲっち うん。ダイヤが。輸入品だから。
ジバさん ああ。
トゲっち それをだいぶ言われた。
ジバさん あー……ちょいタイミング悪いね。
トゲっち 正直、今度の行けるかわかんない。
ジバさん それもうちょい聞いたほうがいいやつ? みんなで聞くやつ?
トゲっち みんなで聞くやつで。
ジバさん わかった。
トゲっち ありがと。ジバさんやっぱ話しやすくていいわ。
ジバさん そう? 横でテキトーに聞いてるだけよ。
トゲっち それがいいよ。がっつかないもん。
ジバさん だってこれで圧強いと嫌じゃない?
トゲっち まあね。ホント最近主張強いやつ多いしな。
ジバさん そうそう。その辺をちゃんとわきまえてますから。
トゲっち 謙虚。
ジバさん どちらかっていうと真面目。
トゲっち 間違いない。
ジバさん 結婚するはするで大変だね。
トゲっち 何でも都合よくいかねーのよ。
ジバさん 息抜きしなよ。それこそキャンプいいよ。
トゲっち いやそれな!
ジバさん 何か作戦たてる? トゲっち行けるように。
トゲっち ジバさま!
ジバさん ジバ様って。
トゲっち ごめん、嫌?
ジバさん 嫌ではないけど、何か大長老みたいやん。
トゲっち 確かに。ジブリっぽい。
ジバさん いそう。ナウシカの?
トゲっち あれはユパ様。おじいちゃん。
ジバさん あ。けど何でかな。随分厳しいね。
トゲっち そうよなあ。もうちょっと自由にさせてくれても。
ジバさん やっぱトゲっちモテるから?
トゲっち そうか?
ジバさん うん。だから悪い虫がつかないようにって。
トゲっち 悪い虫……まあ実はさ。
ジバさん 何?
トゲっち ぶっちゃけモテなくはない。この年になって気づいた。
ジバさん うわ。言った。
トゲっち トゲっちです。
ジバさん でたー! ムカつく。
トゲっち これ最初にやらせたのお前らじゃん。
ジバさん 懐かしい。
トゲっち そうそう。
ジバさん このやろ。
 
 ジバさんはトゲっちに向かって軽くパンチをする。
 
ジバさん 式の日に電車遅延しろ。
トゲっち それはマジでやめて。
ジバさん ないない。思ってない。ともかくおめでとう。
トゲっち ありがとう。
ジバさん 思ってるよりは元気そうで安心した。
トゲっち ジバさんもね。
ジバさん 会長は何か聞いてる? 今日来れそう?
トゲっち ……ちょっと難しいと思う。
ジバさん トゲっちから見ても?
トゲっち うん。
ジバさん そっか。まだ厳しいかな。
トゲっち 皆でどんどんやってほしいって言ってるけどね。
ジバさん 本人はそう言うけど……。
 
 トゲっちはゆっくりお茶を飲む。
 ジバさんも合わせるようにして飲む。
 
トゲっち もし会長がずっといなくなっても俺らって続くのかな。
ジバさん ……小さくなるんじゃない。
トゲっち 小さく?
ジバさん 仲いい同士で集まるようになる。
トゲっち 今みたいな感じで?
ジバさん そう。
トゲっち それもう無いようなもんじゃん。
ジバさん うん、まあ。
トゲっち 人減っての今でしょ。
ジバさん 副会長は元気!
トゲっち 一応ね。けど会長がいなくなったらたぶんもう。
ジバさん そっか。
 
 そう言ってからじジバさんは座る姿勢を変える。
 
ジバさん ところでさ。
トゲっち うん?
ジバさん 超どうでもいいんだけど、こうして2人でお茶飲んでると何か熟年夫婦を想像する。
トゲっち 何それ。
ジバさん ジバ様。
 
 ジバさんはおばあさんっぽく両手でお茶を飲む。
 
トゲっち ハマってるじゃん。
ジバさん 結婚して何十年もたったらこうやってお茶すすってるのかなって。
トゲっち これハーブティーだけど。
ジバさん ハーブティーでもいいじゃん。
トゲっち そうだね。
 
 そこにムネオが扉を開けて入ってくる。リュックがパンパンに膨れている。
 
ムネオ おいっす。おつかれ!
トゲっち お。久しぶり!
ジバさん おひさ。それ何? 今日何帰り?
トゲっち 今から山行けそう。
ジバさん それ。
ムネオ ああ。色々やることあってさ。
トゲっち 疲れないか?
ムネオ 問題なし。鍛える一環。
トゲっち 本当に?
ジバさん 逆に肩壊しそう。
ムネオ 悪いなギリギリで。そろそろ時間だよな。
ジバさん あ、本当だ。
 
 ムネオは少しとげっちを見続けてから言う。
 
ムネオ トゲっち……肉着いたな。
トゲっち 嘘! わかる?
ムネオ うん。
 
 ムネオは自分の顎を触ってトゲっちに見せる。
 
トゲっち やべーな。
ジバさん 髪型変わったからじゃなくて?
ムネオ いやオレの目はごまかせない。
トゲっち 誰だよ。
ムネオ それに今の髪型のほうが似合ってると思うぞ。
ジバさん あ、それは思う。
トゲっち そりゃいつまでもあんなうぜー髪型できねえよ。
ムネオ 自分で言うなよ。
ジバさん それな。
トゲっち いやだって、ムネオに髪型のこと言われてもなあ。
ムネオ 何でだよ。
ジバさん とりあえず荷物置いたら?
ムネオ あ、うん。
 
 ジバさんがムネオの荷物を預かろうとする。
 
ムネオ あ。
ジバさん どんぐらいよ実際。
 
 ジバさんはちょっと持とうとしてすぐ諦める。
 
ジバさん 何持ってきたの。
ムネオ 後でみんな集まったら言うよ。マスターは?
ジバさん たぶん上にいる。屋上片付けるの忘れてたっぽい。
トゲっち 呼んでこようか。
ムネオ 大丈夫。
トゲっち 何か飲まなくてもいいか?
ムネオ いい、いい。どうせみんなだらだら集まるだろ。マスターに悪いよ。
トゲっち そう?
ジバさん ムネオはみんな来てから飲みたい派だもんね。
ムネオ そうなんだよ。正確には体にアルコール入れる前の精神統一の時間なんだけどさ。
ジバさん 前も思ったけど、それどういうこと?
ムネオ あるでしょそういうの。
ジバさん わからん。
ムネオ ない?
トゲっち&ジバさん ない。
ムネオ じゃあいいや。
ジバさん いいんかい。
ムネオ ジバさんは変わらず店来てるの?
ジバさん うん。近いし。
ムネオ お客さんどう?
ジバさん ちょうどさっき減ってるって話してた。
ムネオ やっぱり? 店休日に貸し切りなんてしてる場合じゃないよな、悪いなあ。
ジバさん なんか気を使ってくれるんだよね。毎年恒例だったからって。
トゲっち 本当ありがとうございます。
 
 トゲっちはマスターが出ていった方に向かってお礼を言う。
 
トゲっち ジバさんもありがとね。いつもマスターと。
ジバさん よく喋ってるから。
トゲっち 俺も近くに住んでたらなあ。
ジバさん てか住んでたのに。
トゲっち 前はここ来るお金なかったもん。
ムネオ トゲっち、ダウト。
トゲっち は。
ムネオ パチに使ってたからだろ。
トゲっち お前、だって学生の頃だぜ。
ムネオ でも、お金は、あった。
トゲっち 何よ急に。
ムネオ しかもパチンコは金入る時あるじゃん。それでも行かないんだろ?
トゲっち ちょっとちょっと何の追求よ。
ムネオ オレはまずパチンコやめとけってずっと言ってたじゃん。
トゲっち パチスロな。
ムネオ 同じだろ。
トゲっち 違うのよ。
ジバさん 結局やめたしね。
ムネオ ええ! やめたの⁈
トゲっち やめれた。今の所。
ムネオ え、すげーな! それはすごいって。
トゲっち 自分でも意外。
ムネオ どうやって? 何した?
ジバさん そんな気になる?
ムネオ 何か参考になるかなって。
ジバさん 何の?
ムネオ こう、やめられないけどやめたいことを、直すときにさ。
ジバさん んん?
 
 ジバさんは今ひとつムネオの意図が分からない様子。
 トゲっちはムネオのしつこさに少しあきれながら答える。
 
トゲっち まあ……ぶっちゃけ、結婚。
ムネオ あ! あー結婚……。
トゲっち 何その反応。ひどくね?(ジバさんに)
ムネオ あ、いや悪い悪い。おめでとう!
トゲっち ありがとなっ!
ムネオ ごめんって。今のは俺が悪かった。ジバさんは知ってたの?
ジバさん いえす。
ムネオ そうなんだ。いやあトゲっち結婚かあ。
トゲっち はい。どうやら。
ムネオ いやすごい。けど、どう? 今日やっと集まれたけど次の行けそう?
トゲっち それ。そこどうしようかなって。
ムネオ だよなあ。まあ上手いことやろう。去年はそれどころじゃなかったし。
ジバさん マスター寂しそうだったよ。
ムネオ だろ? それに比べたら全然いいよ。ミーティングできただけでも。
トゲっち 会長の復活イベだし。
ムネオ もう大丈夫そうって?
ジバさん 話してる感じでは一応。
ムネオ じゃ何とかしよう。ヒメ子とか仙人とか今日スゲー集まるじゃん。いい感じ。いけるいける。
ジバさん そうね。
トゲっち ちなみにさ、2人は次に誰が結婚すると思う? ヒメ子以来結局全然じゃん。
ムネオ 俺は予定ないよ。
ジバさん トゲっち聞きもしないよね。
トゲっち え。
ムネオ ええ! ジバさんも⁈
トゲっち うそ⁈ ごめん! 結婚するの?
ジバさん いいよキャラじゃないから。
トゲっち ごめんって! てかそれいつよ。
ジバさん 無い。
トゲっち ……?
ジバさん そんな話は無い!
ムネオ は。
ジバさん 嘘でーす。
ムネオ ……いやいやいや。
ジバさん 昔のノリよー。 
トゲっち 知ってるけど。
ムネオ 結婚ネタは重いって。この年だと。
ジバさん やってて悲しくなってきた。
トゲっち やめとこ。
ジバさん そうします。
ムネオ 何かこの感じ懐かしいな。
トゲっち 確かに。
ジバさん 部室でもこんなのやった。
トゲっち あった。
ムネオ でさ、いつもちょっと落ち着いたくらいでさ。
 
 ムネオは予期するかのように入り口に向かって待ち構える。
 特に何も起きない
 
ムネオ あれ……。
 
 と、そこにナベが入ってくる。
 
ムネオ ほら!
ナベ すいません! 遅れました!
トゲっち はいはーい。
ムネオ 電車間違えたんだろ。
ナベ そうなんです。すいません、メッセ送ったんですけど。
ジバさん ごめん読んでなかった。
ナベ いえ、すいません。
ムネオ 早く出るってこと覚えれんの?
ナベ 「小手路」なんですっと来れると思ったんです。
ムネオ いやお前引っ越したじゃん。
ナベ ……ああ!
トゲっち まあまあ。座れよ。
ナベ 刺(とげ)さん、お久しぶりです!
トゲっち 仕事どう? ちょっとマシになった?
ナベ それが転職したんですよ。
トゲっち あ、それで引っ越し。
ナベ そうです。
トゲっち おめでとう。
ナベ いえいえ、これからです。
 
 ナベは席に座りながら荷物を置く。ムネオの荷物に注目する。
 
ナベ これはムネさん?
ムネオ うん。
ナベ またすごいですね。疲れません?
ジバさん ねえ。
ムネオ 鍛えるんだよ。
ナベ いやそれはわかるんですけど。これは肩壊しません?
ジバさん 思うよね。
ムネオ そんな華奢じゃないから。
ジバさん ヤワ?
トゲっち ヤワだな。
ムネオ うるさいな。トゲっちもできるだけ来いよ。人手減ってんだから。
トゲっち それはわかってるよ。
ナベ でも刺さんそれとなくサボるの上手いじゃないすか。
トゲっち そんなことねえよ。
ナベ いやいやそうですよ。
トゲっち ええ。
ジバさん 重いのいつもありがとね。(ムネオに)
ナベ ムネさんは逆にもっと楽したらいいんすよね。
ムネオ いらねーよ。
ナベ てか人手って仕事みたい。
ムネオ お前もだから、若手。
ジバさん はいはい。とりあえずナベもカバン貸しなよ。
ナベ あ。すみません、ジバさんもお久しぶりです。
ジバさん 久しぶり。
ナベ みなさんもう注文されました? ってかマスターは?
ムネオ 上にいるよ。まあちょっと待てって。
ナベ ええ? いいんですか?
ジバさん ナベがいいなら大丈夫。トゲっちも?
トゲっち うん。
ナベ いやそれもそれで何か申し訳ないですけど……。
トゲっち いいよいいよ。ナベはどんなの持ってきた? どこ行きたい?
ナベ 始めちゃいます? まだみんな揃ってないですよね。
 
 ナベは辺りや荷物を見回す。
 
ジバさん 後2人……じゃない、後3人。
ムネオ 始めよう。進めないと終わらんぜ。
トゲっち おっけー。じゃあ、ナベからどうぞ。
 
 トゲっちはナベに促す。
 
ナベ はい! 北海道行きましょ! 二風谷(にぶたに)!
ジバさん ニブタニ?
ナベ あってます。ニブタニです。
ジバさん どの辺?
ナベ えーっとですね。
 
 ナベはスマホを取り出す。
 
ムネオ 日高(ひだか)……わかる?
ジバさん ううん。
ムネオ 札幌から2時間くらい。
トゲっち へー。
ナベ すみません、あざっす。
ジバさん 本当どこでも詳しいね。
ムネオ いやいや別に。
ジバさん 北海道たまにはアリじゃない?
ムネオ うん、面白いんじゃない。それこそ大学以来じゃね?
ナベ おお!
ムネオ 運搬どうするかだよな。ここから北海道までが長いし。
トゲっち 運搬って、車出す?
ムネオ うん。まあ5泊くらいか。途中途中寄りながら行く感じで。
トゲっち 5泊は俺まず無理だぜ。現地数日ならともかく。
ジバさん たぶんヒメ子もそうよね。
ナベ 設備ちゃんとありますよ。なんで飛行機プラスレンタで行けます。それなら2泊とかでいいでしょ。
ムネオ いや待てよお前、飛行機?
ナベ なんか変ですか?
ムネオ 何のためにオレらテントも車も持ってんのよ。
ナベ いや北海道、車はハードル高すぎですよ。
ムネオ がんばれば途中一泊……!
ナベ がんばればって……それほとんど移動じゃないですか。それはもうドライブですよ。
ムネオ いやけどこういう時に走らせなきゃ。
ナベ あのガスくい虫?
ムネオ お前そんな風に思ってたの!
 
 ジバさんはこっそり笑っている。
 
ムネオ ジバさん!
ナベ 人も少ないし、アラサーにはきついですよ。
ムネオ そんなんじゃどこも行けねえよ。
トゲっち まあまだ決まってないから。
ナベ ムネさんだけ運転してきてくださいよ。
ムネオ は。
ナベ 北海道まで。
ムネオ そん時はお前も一緒だから。
ナベ 何でですか。
ムネオ 当たり前だろ。人手。
ナベ あ、また人手って。
ムネオ じゃ人足。
ナベ 足になっただけでしょ。何すかそれ。
ジバさん わかったから。先に話させて。
ムネオ ごめん。
ナベ すいません。
トゲっち けど、それだと正直ジバさんのもきつい?
ジバさん うん。ハードルちょい下がったくらい?
ムネオ ジバさんはどこ?
ジバさん 笠置って京都の南の方。
ムネオ ああ。北海道よりは楽だけど……。
ジバさん 笠置は電車で行けなくもないっちゃない。新幹線もある。
トゲっち ないっちゃない、なのね。
ジバさん だって結局荷物の量問題でしょ。
ムネオ 関東越えるとルート次第ってなるな。
ナベ アイヌ村が。
ムネオ お前結局そっちじゃねえか。
ナベ いいじゃないですか。北海道なんですよ?
ジバさん たまにはそういうとこもアリかな。
ナベ ジバさん!
ムネオ ジバさん甘やかさない!
ジバさん 甘やかしてはないけど。
ムネオ こいつすぐ調子乗るんだから。
ナベ ムネさん。
ムネオ 何?
ナベ 前から思ってたんですけど、先輩ポジションもういいですから?
ムネオ は。
ナベ 他の人はみんなそんなんじゃないんで。
ムネオ いやお前が後輩なのは事実じゃん。
ナベ そうなんですけど。
ムネオ え。今そこひっくり返すの?
ジバさん ちょっと。
ムネオ 何だよ。
ジバさん ヒメ子が迷ってるみたい。行ってくる。
 
 ジバさんは3人に目もくれずに部屋を出ていく。
 
ムネオ 迷うって、そんなわけねーじゃん。地元だろ。
トゲっち ありえるよ、あいつは。
ムネオ よくキャンプしようってなるな。
ナベ 僕は迷うほうなんでちょっとわかりますけどね。
トゲっち 町の方が迷うっぽいよ。
ナベ それ。刺さん、そうなんですよ。
ムネオ 何で?
ナベ なんでしょうね……道が多すぎるんすよ。間違いが多すぎるっていうか。
ムネオ 目的地から辿ればいいじゃん。
ナベ あー。
トゲっち いやいや。そう言いつつまた迷うよ。
ナベ 何でですか。
トゲっち 癖は直らないもん。
ナベ 癖、これ癖ですか?
トゲっち うん。
ナベ ええー。
ムネオ ところでトゲっちさ、結婚するんだよな。
ナベ ええ!
ムネオ うるさいな!
ナベ すみません。おめでとうございます!
トゲっち ありがとう。どしたの?(ムネオに)
ムネオ 何でヒメ子と別れたの?
トゲっち ええ? 今?
ムネオ うん。
トゲっち そりゃ簡単に言えば合わなかったってことになるけど。
ムネオ そういう答えじゃなくてさ。
ナベ やっぱアレですか? 営むときの。
トゲっち&ムネオ ……。
ムネオ お前ね。
ナベ いや冗談すよ。ジバさんいない内にちょろっとぐらい……。
ムネオ な。調子乗るだろ。
トゲっち 今のはナベが悪いよ。
ナベ ええ!
トゲっち それ転職先でやってないよな。
ナベ やらないっすよ! そんなゆるくないですよ。
トゲっち&ムネオ ……。
ナベ いや今の違いますからね! 今のはお二人の脳内の問題です!
ムネオ だとしてもだろ。
トゲっち まあわかるよ。たまにはこれくらいいいだろ、みたいな。
ナベ それです。
ムネオ せめて乾杯までは待てよ。
ナベ でもこんなの後で聞けないじゃないですか。
トゲっち ヒメ子のこと?
ナベ はい。
トゲっち そうねえ、一緒に住んだらなんかダメだったんだよね。
ムネオ 生活的な?
トゲっち そう。まあ、それこそトイレとかさ、共有してくじゃん。
 
 トゲっちはムネオに向けて話すがムネオはナベを見る。
 
ナベ 何で僕見るんですか。
ムネオ いや見るよ。
 
 トゲっちは話を続ける。
 
トゲっち 色々分かるよね。どういう風に生きてきたとか。
ムネオ 一緒に住むとそうなるよなあ。そういうの自信ないんだよなあ。
トゲっち ムネオは大丈夫だと思うよ。
ムネオ 何で?
トゲっち たぶん、最初さえ超えればって思う。
ナベ 細かそうですよ、この人。
ムネオ お前が言うな。
ナベ すみません。でもムネさん分かってるん(ですね)……黙ります。
 
 ムネオに威嚇されてナベはおとなしくする。
 
トゲっち まあ生活と性格とあるな。
ムネオ 奥さんとはその辺楽な感じ?
トゲっち んなこともない。
ムネオ え。
ナベ いいんですか?
ムネオ なあ。
 
 ムネオは珍しくナベに共感している。
 
トゲっち 逆にこんなもんかって、さすがに慣れと言うかさ。あ、本人には言わないよ。ナベこういうのがNGだからな。
ナベ はい。
ムネオ 素直じゃん。
ナベ いやまあ、ここはそれこそ先輩の意見ですから。
ムネオ 俺もな。
ナベ ムネさんのはまた別です。
ムネオ 何でだよ。
トゲっち お前ら昔からいいよな。
ムネオ&ナベ どこが。
 
 声が揃ってしまったのに対してにらみ合い、距離を取る2人。
 
トゲっち もしかしてナベ結婚するの?
ナベ 結婚はちょっとまだ分からないです。けど……はい。彼女とのこと考えます。年が年なんで自分も相手も。
ムネオ 年な。俺らもこっからどうなるかね。
 
 雨が降り出す。店内にも音が聞こえ始める。
 ムネオは店の外を見る。
 
ムネオ 降ってきてんな。
ナベ マジすか。
トゲっち マスター戻ってこないな。
ナベ どこ行ったんです?
ムネオ 屋上。
 
 ムネオは言って立ち上がる。
 
ナベ そうだったんですか。
ムネオ 行ったほうがいいな。
ナベ ですね。
トゲっち おっけー。
 
 そう言って3人はマスターの出ていった方に向かう。
 
ムネオ 誰かグループにメッセしといて。
ナベ あ、やってます。
 
 ナベはスマホを打ちながら歩いていく。
 部屋は一瞬無人になる。

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