見出し画像

おびかたるしま(帯語島)のものがたり③

■プロローグはこちら👇

■前回の記事はこちら👇



『追い込み漁』


島の朝は早い。
しかし今日はいつになくにぎやかである・・・。

 マレビトも外の騒がしさにつられて浜に降りてみた。
見ると大勢の村人が集まっている。

小舟も何艘なんそうか沖の珊瑚さんご岩礁がんしょうの手前にまでぎ出し、次々に男と白装束しろしょうぞくの女が海に飛び込み、反対側の小舟からも同じように海へ飛び込んでいく。

上手かみて中手なかて下手しもてに別れ、それぞれが岸に向かい、を描くようにしながら海面を叩き、時おり水の中から石を叩く音が岸辺にも届き、次第に漁師の輪が浜に向かってせばまってくる。

「これが、追い込みの漁でございます!」
年に2度行われる村人総出の行事である。
マレビトに気づいた村長むらおさが近くまで来て、にこやかに言った。

やがて、海に飛び込んだ漁師たちが、浜の近くに張った網の中に魚を追い込んだようだ。

「よし!かかれ!」

漁師の掛け声を合図に、浜から男も女も、子どもも年寄りも一斉いっせいに網に向かい、水飛沫みずしぶきと歓声をげながら魚の掴み取りが始まった。

「ウォー!キャー!」
「わしが一番じゃ!」
「いやワシじぁ!」

皆、われ先にと大きな魚を手掴みにし、浜に並べた籠めがけて投げ入れる。
浜は大騒ぎになった。

「あっ!マレビト様じゃ!」
と、声が掛かり、子どもたちに手を引かれ押されて、マレビトも手掴みの輪に入った。

一番小さな子が大きな魚を抱え、ふらつきながら籠へ入れようとするが、うまく入らない。
見かねたマレビトが子どもを手伝い、一緒に獲物を籠へ投げ入れた。

「やった!ヨシ、よくやった!」
「えらいぞ!マレビト様の魚をヨシが!とったど!」

マレビトはヨシと呼ばれた子を両手で高く抱え上げた。
マレビトは久しぶりに笑った。

周りから指笛ゆびぶえがとび、歓声が上がった!
浜の大漁の喜びは幾重いくえにも広がっていった・・・。

その夜、獲れた魚は芭蕉ばしょうの葉の上に刺身で盛り付けられ、
用意したご馳走ちそうを前に屋敷は大いに賑わった。
村人は入れ替わり立ち替わりマレビトと挨拶を交わし、まるで一族の集まりのようである。
やがて、宴もたけなわ

「ヒュ!ヒュ! ヒュ!ヒュ!」
「ピッ!ピッ! ピッ!ピッ!」

満座まんざの村人から指笛ゆびぶえがとび、手踊りが始まる。

最初に立ち上がったのが村長むらおさである。
懐から手ぬぐいを取り出すと、頭に巻き、額で締めた。

そのユーモラスな立ち姿は、日頃の村長むらおさのそれでは無い。
村人の笑いを誘い、皆に踊りを促す。
続いてハージンが立ち、カシラ(男衆)が続く。
シナリ(女衆)も負けじと続く。

こうして屋敷は夜の更けるまで、追い込み漁の「手掴み」さながら大漁の喜びに湧いていた・・・。


『高熱』

 
島に辿り着いてからひと月後、マレビトは高熱に襲われ、とこを離れることが出来なかった。
心配した村長むらおさはシナリ(女衆)に世話を頼み、様子を見ることにした。

高熱がさらに3日の間も続いた。症状が思わしくない。
村の皆も心配したが、屋敷に立ち入る事は村長むらおさが厳しく禁じた。

村長むらおさの屋敷には、カシラ(男衆)とシナリ(女衆)を含め、おもだった者たちが集められた。

「この2、3日が山じゃ。」
「心配じゃ。悪い流行り病でなければいいがのう・・・。」
ばぁと呼ばれるシナリの年寄りが言った。

「むかし、よその島で病のために村ごと無くなった・・・とも聞いとるが・・・。」
「マレビト様が、なんで島に不幸をもたらそうか!」
「されど、病だけはのう・・・。」

集まった者たちが次々に不安や心配ごとを並べ、重苦しい雰囲気のまま時間だけが流れた。

昨日さくじつからマレビト様は、『今すぐ自分を沖へ流してくれ!』
と言っておられます。」

世話をするシナリの1人が、涙ながらにマレビトの伝言を伝えた。

さらに、マレビトの世話をする中で思わぬことがあり、話すのを躊躇ちゅうちょしていたことがある・・・と続けた。

今日になって、3人の子どもが屋敷の前に現れたという。

「ヨシと兄のタケ、もう1人はおばぁとこの、ガブです!」
と、シナリは言った。
3人は昨日から奥山おくやまに登り、実芭蕉みばしょうとマテルの水をんできたというのだ。

「すぐ、マレビト様に!」
3人は息を切らして届けたという・・・。

「これは、ただの実芭蕉みばしょうじゃない!マテルの滝の奥で、
3年に一度だけできる実芭蕉みばしょうだ!」
「水は満月の時に月石つきいしの上に湧き出る太陽ティダみずだ!」
と、ガブがシナリに言った。
3人だけで、そこへ行ってきたという。

マテルの滝は島の一番高い奥山おくやまにあり、大人でも分け入るのは恐れられていた。

太陽ティダみず実芭蕉みばしょう!子どもだけで取ってくるとは。のう、おばぁ!」
村長むらおさが言った。

村長むらおさ、これしかないじゃろうと・・・ワシも思うておった・・・。」

「すでにマレビト様には、太陽ティダみず実芭蕉みばしょうを差し上げました。」
マレビトの世話をするシナリが言った。

3人の子どもの行動力に、大人たちはうつむく他なく、何も言うことができなかった。

「そうか。効いてほしいのう。いや、きっと良くなる!きっと!」
村長むらおさの自分に言い聞かせるような言葉に、集まった一同は黙ってうなずくしかなかった。

それから3日後、マレビトは歩けるようになり、やがて3人の子どもと浜で話せるまでに回復した。


■続きの記事はこちら👇


■前回の記事はこちら👇



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ZXYA(ジザイヤ)のブログページはこちら👇
ZXYA(ジザイヤ)|note

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?