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英国・・・イングランド・スコットランド・アイルランド・ウェールズのロックシーンについて ブリング・ミー・ザ・ホライズン編 Part3

ということで、第3回です。

これまでのはこちら

ある程度ビッグネームをサラったところで、彼ら4組に手が届くであろう評価とリリースを備えた2組について書きます。

それでは行きます。最初はBring Me The Horizonについて

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Bring Me The Horizon - Obey with YUNGBLUD (Official Video)

BRING ME THE HORIZONはシェフィールド出身で2004年に結成されている。メンバーは当時16歳ごろで、ボーカルのオリヴァーが34歳、ギタリストのリーは33歳、じつは筆者の僕とほとんど同世代。2004年当時、シェフィールド出身のロックバンドというとアークティックモンキーズがあがるが、彼らとも親交があったという。

2006年にデビュー作『Count Your Blessings』を発表し、ブレット・フォー・マイ・ヴァレンタインらとともにイギリスでのメタルミュージックでつよい支持を得てきた彼ら。2015年に『THAT'S THE SPIRT』に至るまでの5枚のなかでも、「ギターを前面に押し出す」というロックの定型を抑えつつ、非常に多角的に音楽性を広げていく。

『Sempiternal』がそのスタートに当たるだろう。ドラック中毒の治療のためリハビリを受けていたオリヴァーの心境変化、行き詰まりをみせていたバンド活動のブレイクスルーを狙った一作。

『There Is a Hell Believe~』以前の3枚と『Sempiternal』と『THAT'S THE SPIRT』の2枚、この2つの時期だけでもかなり違いが出ている。

強く歪んだメタリックなギターサウンドや複雑な曲構成からは徐々にはなれ、ハッキリと聞こえるメロディラインやキレイなエフェクトサウンドが増えていく。BPMが低くなり、スピード感もスロー、穏やかな楽曲も増えていき、オリヴァーのボーカルがメインを張るような楽曲が増えていく。

シャウトよりもシング、叫ぶよりも歌うことへのシフト、これをいわゆる「エモ」化と称することも多いだろう。

2012年からはキーボードにJordan Fishを加えたこと、2014年以降のライブツアーにはJohn Jonesを帯同させていること、音楽性の変化は制作に加わるメンバー交代からも明確に分かる。

2016年にライブレコード作品として発表された『Live at the Royal Albert Hall』では、サイモン・ドブソン率いてるParallax Orchestraとともにライブを敢行。端的に言って大成功。スタジアムを埋められるほどではないにしろ、1万人~2万人レベルの会場をすぐに埋め、ヨーロッパとアメリカでのツアーを2015年ごろから継続的に続けていくことになる。

そういったなかで、「do you wanna start a cult with me?」という不遜なメッセージを掲載したポスターを世界中に張り巡らし、<joinmantra.org>に誘導させられたファンがみたのは「An Invitation To Salvation」というメッセージ・・・そこからなんやかんやあって『Amo』のリリースを告げたのが2018年8月末、2019年1月末にリリースされ、First Love World Tourを敢行した。

『Amo』を評するときに比較されるアルバムがいくつかある。Linkin Park『A Thousand Suns』、U2の『Zooropa』だ。両作ともに「ロックバンドの質感にエレクトロなサウンドを大胆に持ち込みつつ、アリーナ会場レベルでもきっちりと盛り上げられるサウンドスケープや曲構造へとブラッシュアップした作品」というような評価を持たれる作品だ。

と同時に、こういう側面も出てくる卯。「それまでの彼らからはかけ離れすぎて、それまでのファンが離れていく」ということ。だがそういった潮流は今作には当てはまらない、今作はイギリスでの売り上げ全体チャートで初めて1位を獲得したのだ。それどころか、英語圏ならびにヨーロッパでも好意的なチャートアクションを示したのだ

彼らにとっての基盤であろうヘヴィなロックサウンドに加え、EDMやエレクトロポップなシンセサイザーやリズムトラック、またはトラップに連なるようなリズムパターンに至るまで、上記した2作に通じる音楽的挑戦がある。それはGrimes、Cradle of FilthのDani Filth、Rahzel、レフトフィールドなエレクトロニカ・アーティスト、ヘヴィメタルの重鎮、ヒップホップのベテラン、三者三様のゲストからも伺える。

今作で着目すべきは、ロックバンドのアンサンブルとして・・・バンドアンサンブルを「抑える」ことを選んだことにあるだろう。

例えば「in the dark」におけるサウンドスケープ。本来なら静と動を大きくみせるためにも、1:00過ぎから始まるコーラス部はもっと激しくギターを鳴らしていたであろう部分、だが彼らはそれをせず、あくまで淡々と音を重ね、オリヴァーのヴォーカルも抑えめだ。

Jesus Christ, you're so damn cold
Don't you know you've lost control?
Forget about the things you think I know
No secrets, you can't keep me
(In the dark)
主よ、あなたは酷く酷く冷たい
気付いていないのか?自制が効かなくなっていることに
考えていることをどうか忘れてほしい
嘘をつかないで
あなたは僕を抑え続けられない
暗闇の中に閉じ込められると思ったら大間違いだ

仄暗いオーラを湛えたサウンドで歌われる言葉は、怒りに似た憤り、諦めに似た悲しみだろう。そういった言葉を丁寧になぞる、これまで慣れていた大仰しさをあえて抑える表現。仮に彼らがメタルバンドやオルタナティブロックに耽溺しているだけのバンドなら、こういった部分は我慢できないかもしれない。

ここだけではなく、じつは本作には至るところに「抑えめ」に演奏している曲がいくつもある。ロックバンドの屋台骨であろうギターサウンドの大仰さやボーカルの華々しさを、いったん横に置いておいたのだ。

オリヴァーは今作に対し、何度となく「愛」という言葉で形容している。「Amo」はポルトガル語で「I Love」という意味である、とか。Everything boils down to love in the end、最後はすべては愛へと向かっていく、とか。これに関して、彼が妻と離婚したことが影響しているという風に評されることもあるが、もしもそうならもっともっと沈痛であったはずだろう。

そういった音楽的な広がりや表現が、「最後はすべては愛へと向かっていく」というオリヴァーの指針のもとで一つの表現として纏まっているといえる。

それは「悲しみを包み込んだ」というようなダウナーな意味合いではなく、様々な角度から繰り出されるアッパーカットなサウンドとともに「悲しみを乗り越えていく」というメッセージとして受け取るべきだろう

2019年の10月には『Music to Listen To...』をEPとして発売。オリヴァーとジョーダンを中心にして作られた本作は、エレクトロポップ、アンビエント、インダストリアル、2Step、彼らが以前から繋がりのあったオーケストラなサウンド、そして忘れたころにヘヴィメタルが顔を覗かせる。

それらが曲ごとに分けられているわけでなく、DJミックスのように1曲内で変わっていく。ヘヴィなロックバンドというよりも、DTWに夢中な2人による止めどない創作意欲が全面に出ている作品だ。

2020年3月、ゲーム・ミュージックの作曲家であるミック・ゴードンとともに音源制作開始をアナウンス。アルバムになるかEPとしてかは不透明なままだったが、6月ごろには『ポスト・ヒューマン』と題した一連の作品がリリースされる計画を明かした。

そういったなかで発表されたのが『Post Human: Survival Horror』だ。2019年に発表された傑作ゲーム『Death Stranding』に起用された「Ludens」も収録され、BABYMETALとのコラボ曲「KingSlayer」も注目を集めていた今作について、オリヴァーは「闘いの歌による呼びかけのアルバム」と語っている。

お察しのように、今作では3作以上ぶりにメタルコアバンドとしての荒々しさやブチギレたスクリームが満ちた作品になっている。やっぱこれですよね、ロックって、ブチギレてないと。

「みんなを引き込んで、みんなを怒らせたいんだ。ここ最近やってきたのよりはずっとアグレッシヴなんだ。今は世界は気楽なポップ・ミュージックは求めてないからね。怒りのアンセムが必要なんだよ。怒るべきことはたくさんあるからね」

コロナウィルスによる経済的・生活上の多々な問題、アメリカを中心にして起こったBLM運動、イギリスでいえばブレグジットに端を発した議会政治と市民の食い違いなどなど、彼がこのように話すことも納得だろう。前作における「愛」にまつわる歌から、今作は「怒り」をもたらせる叫びへ、オリヴァーの声は変わった。

「Parasite Eve」では女の子がこうつぶやく、『This is War』と。

もちろんこれまで培った素養も伺える。プログラミングに基づいたハード・エレクトロなトラックメイク、オーケストラ的な音の広がりもある。

とても重要なのは、ゲーム・ミュージックの作曲家であるミック・ゴードンが加わったことで、まさに「暴動」なシーンが思い浮かびあがりそうなくらいに扇情的なプロダクションがなされていることだ。ゲーム・ミュージックでの「ワンシーンを華々しく盛り上げる」というプロダクションが、今作では音楽そのものへの彩りとなっているわけだ。

ヘヴィロック、EDM、インダストリアル、ヘヴィなサウンド同士がここまでうまく映えた形で、しかもロックミュージック的な陳腐さからはうまく離れた音楽として象られた作品も多くはないだろう。

この作品、彼らにとって2度目となるイギリスでの売り上げ全体チャート1位作品となった。メッセージと音楽性とが密接にリンクした作品を生み出し、それに対するプロップスがハッキリと得られている現在の彼らは、イギリスを代表できるバンドへと成れるかもしれない。

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